サント・ドミンゴ沖海戦
天文22年(1553年冬)22歳
サント・ドミンゴ港の沖合に、イスパニアの艦隊が現れる。
ポルトベロ港から奴隷を連れてきたイスパニアの船長の言っていた船数よりも多い!
大砲を多数搭載する戦闘用ガレオン船の艦隊20隻。その後ろは、たぶん運搬用ガレオン船の艦隊だ。搭載する大砲の数は少ない。その数10隻。
運搬用ガレオン船といえども大砲は積んでいる。我らが劣勢になれば戦闘に参加してくるだろう。俺の横では、九鬼定隆がウキウキした顔になっている。風は陸から海に向かって吹いている。風上の我らは有利かな。
敵艦隊との距離はまだ800m近くはある。
「定隆、どう戦う?」
「敵艦隊は、単縦陣戦法で来るでしょう。こちらは丁字戦法でいきましょう。まずは敵艦隊に向かって真っすぐ進みます。各艦に連絡!」
蝦夷丸20隻がイスパニア艦隊に向かって進む。
……イスパニア艦隊の旗艦……
「提督、敵は単縦陣でこちらに向かってきます」
「奴らは、なぜ単縦陣戦法を知っているのだ? 何者なのだ! イングランドやフランスの艦隊ではないだろうな!」
「違うようです! 敵艦隊20隻が、我が艦隊の手前300ブラサ(500m)のところで進路を変えました。我が艦隊の進行方向を塞ぐ形で横並びになっています。このまま進めば敵艦隊と衝突します」
「無茶苦茶な戦法だな。こちらの艦が壊れるのは嫌だ。もう少し前進したら、取り舵で左に進路を変えろ」
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
「敵艦隊、撃ってきました! 次々と我が艦隊に弾が命中していきます。奴らは大砲を撃っていません。奴らが撃っているのは大型銃のようです」
「旗艦の船体に穴が空きました。浸水してきました! 船速が落ちています。このままだと後続艦が、この旗艦に追突します」
「取り舵いっぱい」
「提督、船を横に向けたせいで、敵の大型銃で更に穴を空けられました。このままだと沈没します」
「このまま進むしか選択肢はない! このまま行け!」
「後続艦はどうなっている?」
「旗艦と同じです。このままだと全艦が沈められてしまいます!」
「クソ! 無茶苦茶な戦法を取りやがって! 捨て身の戦法などクソッタレ野郎が……」
「無茶苦茶ではありません。実に合理的な戦法です。ガレオン船には横向きの砲が、たくさん取り付けられています。しかし前方には小型の船首砲が1つ付いているだけです。それも単縦陣では前の艦が邪魔で撃てません。それに対して敵の大型銃は、射線を変えることができるので、我が艦隊を攻撃し放題となります」
「名誉あるイスパニア艦隊が、どこの者とも分からぬ奴らに、海戦で負けてしまうというのか!」
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
イスパニア艦隊の戦艦20隻は全て沈没していく。運搬用のガレオン船10隻は大型銃で舵を壊し鹵獲することにした。船員は舵を壊された時点で、勝てないと判断し海に飛び込んで逃げる。陸に泳ぎ着いた船員がいても、ゲリラ部隊に全て狩られてしまうだろう。
運搬用のガレオン船10隻と以前に鹵獲した3隻は曳航し、アルバラド港に持って行かせよう。スペリオール港にいるガレオン船の職人たちが修理してくれるはずだ。修理したら交易と運搬用に使おう。
「定隆、念の為に北側のプエルト・プラタ港に向かうぞ」
「了解しました。各艦に連絡!」
2日後、プエルト・プラタ港が見えるところに到着する。
港には、運搬用のガレオン船が2隻。
大勢のイスパニア人が、必死で船に乗り込もうとしているようだ。
「定隆、サント・ドミンゴ港に戻る。イスパニア人全員があのガレオン船に乗ってイスパニア本国に帰ってくれれば良いのだが」
「了解しました! 各艦に連絡!」
サント・ドミンゴ港に戻り、保正と護衛に守られて要塞の近くまで来ると、グアナたちもゲリラ戦から戻って来る。グアナたちが俺の方の前にやってきて跪く。俺はいったいどういう扱いになっているのかな。深く考えるのをやめよう。
「グアナ! キスケーヤ国の奴隷解放だが、上手くいっているか?」
「大執政官様、順調です。ラ・ベガ、サンティアゴ・デ・ロス・カバリェロス、イグエイを、我らゲリラ部隊が取り返しました。奴らはプエルト・プラタの港から逃げ出しています。この国からイスパニア人は、ほぼいなくなると思います」
グアナたちをゲリラ部隊と呼んでいたのが、なぜか定着してしまった。グアナのやつ、ゲリラ王とか言われないだろうな。そうなるとオヤジたちはゲリラの父とか言われたりして……伝説の伊賀の上忍がゲリラの父か……まあいいか。
「グアナ! 順調だな。だが、これからキスケーヤ国を統治していかないといけないぞ?」
「国というものを、どう統治すれば良いのか、私には分かりません」
「国を統治するとは、国の民を幸せにし、外国から民を守ることだ。おまえたちなら実感できるはずだ」
「そういう大きなことは分かります。しかし具体的にどうすれば良いのか、私には分かりません」
「大陸に囲まれたこの広い湾の島々は、私たちタイノ族が治めていました。この国の隣にある、少し大きな島国のクバオもイスパニアに占領されています。私はクバオの奴隷解放を急ぎたいのです」
おいおい、ゲリラ戦にだけ興味をもってもらうのは困るのだけどな!
「ゲリラ部隊の志願者は、どれだけいるのだ?」
「1000人でも、2000人でもいます。皆が奴隷解放に燃えているのです」
そこは元気がいいな。やはりグアナはゲリラ王への道か……
「そうか、では500人を選抜してくれ。それと、民のために実直に働いてくれそうな人間を選んでほしい」
翌日、グアナが連れてきたのは、マバティという若者だった。
「私に、国を治める能力があるかどうか分かりません。ですが、この国のために頑張ります」とマバティ。
「マバティは私の弟です。真面目で誠実な男です。この国のため、しっかりやってくれると思います」
弟か、適任かもしれない。グアナはキスケーヤでは英雄視されているからな。
松田憲秀が手助けすれば大丈夫だろう。
蝦夷丸5隻をベルクルス港に向かわせよう。それと氏康殿に手紙を出して、松田憲秀にベルクルス港に来てもらうように連絡しよう。後は、ベルクルス港とアルバラド港から内政官を10人程引き抜くか。
氏康殿に「これ以上、忙しくさせるな! 人も引き抜くな!」と怒られそうだな。
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