サント・ドミンゴ4
2時間後、奴隷を代表する男が1人でやって来る。
「ありがとうございました。私の名前はシンチと言います。あなた方はどこの国の方ですか? お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「日本という国から来た。アステカ帝国からイスパニアを追い出してきた。我らはイスパニアとは違い、奴隷制に反対なのだ」
「どうか! インカ帝国もお救いください!」
シンチが跪く。
「今後は、イスパニア船をポルトベロ港に船を行かせないようする。そうなれば、パナマの街はインカ帝国の攻略拠点としての役割を果たせなくなるはずだ。インカ帝国には、イスパニア軍の武器や兵士の補給ができなくなる。それで十分ではないか」
「それと、パナマの港に停泊していたガレオン船は1隻残らず沈没させた。インカ帝国の王に知らせてやれば喜ぶのではないか!」
「本当にありがとうございます。早く王に知らせたいです」
「他の者たちの希望はどうなのだ」
「ここに残りたいものがほとんどです。ポルトベロ港に戻していただきたいものは10人だけです」
「すぐにはできないが、この国が片付けば、おまえ達をポルトベロ港に運ぼう」
「あそこでやっている訓練は何ですか」
「ここで奴隷にされていた者たちの志願兵だ。彼らは、この国を自分たちの力で取り戻そうとしているのだ」
「……武器を支援してもらえるのですか? しかもイスパニアの銃よりも、数段性能が良いですね」
「武器なしでは戦えないだろ。国を取り戻し、国が安定したら銃の対価は払ってもらうつもりだ。銃のことが分かるのか?」
「インカ帝国を守るのに苦労しましたから。私も訓練に参加させていただいてもいいですか」
「あなたはインカ帝国では兵士だったのか?」
「そうです。ポルトベロ港に戻していただきたい10人は全員が元兵士です」
「海岸での火葬が終われば、他の者たちを連れて来てくれ。サント・ドミンゴに残るのであれば、グアナという若者の指示に従ってほしいと伝えてくれ。グアナは訓練をしている1番前の男だ」
「分かりました。いったん彼らのところに戻ります。暫しお待ち下さい」
2時間程して、300人とともに戻ってきた。
「グアナ! おまえに会わせたい者たちがいる。ここに来てくれ」
「ハイ、お待ち下さい」
グアナが走ってくる。
「この者たちだ。イスパニア船でポルトベロ港から連れて来られた元奴隷たちだ。ここに残りたいそうだ」
「分かりました。私が街に案内します。付いてきてください」
「シンチと言います。私を含めこの10人は、後で訓練に参加していいでしょうか?」
「大執政官様の許可が出るなら構いません」
「シンチ、訓練に参加していいが、今日はもう遅い。明日にしたらどうだ。今日は300人の面倒を見てもらいたい。300人のまとめ役としてグアナと話をしてほしい」
「そうですね。そのようにします」
「保正、明日は訓練の人数が10人ほど増えるがよろしく頼む。今の訓練が終わったら、一緒に蝦夷丸に戻ろう」
日が暮れかかった頃、保正と蝦夷丸に戻る。
俺の部屋で、保正とルーシーとお茶を飲んでいる。
「しかし、遠くまで来たものだな。日本からは約15000km、フランスからは約7000kmだ。それにしても人間というのはすごいと思う。帆船というのは風がなければ動かないのだ。例えば、ずっと風が吹かなければ船員は餓死してしまう。そんな怖い乗り物に乗って、良くも何千キロもの航海に挑むものだと思う」
「私もそう思います。欲望が最大の原動力なのでしょうね」とルーシー。
「そうだな。向かった先で大きな富が得られるからこそ。無謀な航海に挑めるのだろうな。ここから北に2000kmも航海すれば、北アメリカ大陸に到着する。豊かな大地だ。そこにも、もちろん先住民がいる」
「北アメリカ大陸に、ヨーロッパの国々がこぞって来るようになれば、そこの先住民たちは、今までと同じように、たくさん死んでいくことだろう。やはり放ってはおけないな。しかし遠い異国の地なのに、皆をいつまでも付き合わせることになる。申し訳ないと思っている」
「そんなことはありません。大執政官様が行動を起こしたから、貧しかった伊賀の民が救われました。戦で苦しむ日本の民が救われました。東南アジアの民も、アステカ帝国の民もそうです。北アメリカ大陸の民も救ってください」と保正。
「このままでは、2年間で日本に帰れる気がしないのだが……」
「それならば、奥方様たちを全員こちらにお呼びましましょう。戦はやっていますが、ここの景色の良さは飛び抜けています。本当に良いところだと思います」
そうだな、日本を含めてアジアは信長に丸投げすればいいか! 今更、本能寺の変も起こらないだろう。アジアは英傑である信長に任せていいような気がする。まあ簡単には決められないけどね。
「とにかく頑張るか!」
「奥方様、母上様、子供たちには手紙を出されていますか?」
「時々は出しているな」
「氏康様は、頻繁に手紙を送られておられるそうです。奥方様、氏政様、早川様、その他のお子様方、北条家の主要な家臣宛にほぼ毎日のようです。信長様はいつも通りです」
戦国大名は筆まめなのだな! 意外だ!
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