光秀の病院
数日後、俺たちはホウジョウシティに到着する。首都は人で溢れかえっている。建物の建設もどんどん進められている。
「ところで、痘瘡に罹らない薬があるのだが。あなたたちは、どうする?」
「なんと! 日本には、そのような薬があるのですか……是非頂きたいです」
「予防接種というものだ。一度しておくと痘瘡には一生涯罹らない。アカプルコに移動する前に接種しておくといい。明智光秀という医師に頼んでおく」
特殊部隊と別れ、俺は総督府の中に入っていく。その後ろを4人が付いて歩く。
「工藤兄弟を呼んでくれ」
「直ぐに呼んでまいります」
程なくして、工藤昌祐と工藤祐長が急いでやってくる。
「大執政官様、ベラクルスの件はお疲れ様でした」
「イスパニアの艦を3隻沈めてきた。こちらの女性は、サラの友人だ。ベラクルスの港で出会ったのだ。不思議な縁もあるものだ。この4人に、光秀の予防接種を受けさせたいのだが、光秀はどこにいる?」
「光秀殿は新たに作った病院にいらっしゃるはずです。それにしてもサラ様の友人ですか! そういう事もあるのですね」
「私がいない間、ホウジョウシティに何か問題は発生していないか?」
「何もありません。強いて言えば光秀殿の病院が忙し過ぎて、苦労されていることです。アステカ帝国にも医師がいたそうですが。痘瘡で、多くの者が死んでしまったようです。病院では、医師を目指すアステカの若者が光秀殿に学んでいます。しかしまだまだ時間は掛かりそうです」
「そうか光秀も苦労しているな。光秀のところに激励に行ってくる。ルイーズたちもついて来てくれ」
「ハイ、分かりました」
首都の道路は、人が忙しそうに行き交っている。確かに問題なさそうだ。特殊部隊の護衛とともに病院に近づくと、患者の列が病院の外までできている。早く若い医師を育てないといけないようだな。
病院は2棟ある。1棟は予防接種専用だ。もう1棟で病気や怪我の治療を行っている。予防接種の方の列も長い列になっているが、こちらの方は時間とともに解決していくだろう。
「看護婦に、この4人の予防接種を先にお願いしたいと伝えてくれ」
護衛の1人が看護婦に伝えに行く。
「こちらにどうぞ」と4人は別の部屋に案内される。予防接種を終えた4人が、病院の治療の様子を少しだけでも見せてほしいと希望するので、光秀のところに連れていく。光秀は外科治療を行っていた。俺の顔を見てこちらに来ようとしたが、手で必要ないと合図した。
「忙しそうだから夜に話をしよう。この4人が治療の様子をどうしても見てみたいというので連れてきた。サラの友人なのだ。邪魔にならない場所はどこだろう?」
「少し離れたその辺から見ていてください。見習いの医師たちも、そこから見させるようにしています」
光秀は大きな切り傷になっているところに麻酔注射をし、湾曲した縫合針で手際良く縫合していく。4人にとって、縫合手術の様子を見るのは初体験である。4人は食い入るように見ている。この時代だとヨーロッパでもこんなことはやっていないはずだ。
縫合が終わると看護婦が手際良く包帯をしていく。ルイーズを護衛する2人は、戦場経験もあるので感心しきりである。縫合が終わると、光秀は次の患者のところに移動する。
今度は聴診器と問診を行い、看護婦に必要な薬を指示している。
この時代の人間なら誰もがびっくりするはずだ! なんせ前世の医療技術だからね。
「そろそろ良いですか? 総督府に戻りましょう」
「日本の医学は進んでいますね。許していただけるのであれば、私もここで医学を学びたい。逃げるだけの人生では意味がありません。人のためになることに、自分の人生を使いたいと思うのです。許可いただけないでしょうか?」と真剣な顔のシャルル。
「ルイーズ、どうしますか?」
「シャルルが望むなら、彼が納得するまでここにいようと思います。その間、私も看護婦の仕事を学ばせてください」
「護衛の2人はどうしますか?」
「我らは、特殊部隊に入れてもらえないでしょうか?」とレオンとミシェル。
「特殊部隊の訓練は死ぬほど辛いですよ。彼らはベラクルスまで走って移動して、戦闘をし、走って帰ることができますよ」
「我らには……無理のようですね!」
「工藤昌祐がアステカ兵の訓練を行っています。体が鈍らないように、その訓練に参加するのはいかがですか。病院は特殊部隊が警護しているので、ルイーズもシャルルも安全です」
「是非お願いします」
その後、俺は明智光秀と工藤昌祐に4人のことを頼んで彼らと別れた。4人にずっと構っている訳にはいかないのだ。予定が変わったのだ。ルイーズにルーシーやサラ宛に手紙を書いてもらおう。
夜になり、光秀と話をする。
「この国の医師の育成をどうすればいいかな?」
「まずは医療に適正のある若者を見つける必要があります。アステカ帝国で医師だった者で生き残っている者がいたら、なお良いですけど」
「クアウテモック2世とミスティトルに頼んでおこう。それと器具類で不足しているものはないか?」
「注射器ですね。しかたなく消毒して使い回しをしていますが、さすがに限度がありますから」
俺は、光秀は希望する医療機器をスキルで作っておいた。光秀は、そのうち医聖とか言われるようになるかもしれないな。
「ところで、福はどうしている?」
「彼女は、手先がすごく器用ですし、頭も抜群にいいです。私の弟子の中では1番優秀です。簡単な縫合とかは彼女に任せています」
「福は努力家なので、しっかり指導してやれば名医くらいにはなれると思う。妹を何とぞ、よろしくお願いします」
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