ベラクルス1
もう1つの問題はベラクルス港だ。大西洋から来たイスパニアの連中は、この港から上陸しメキシコシティを目指す。つまりメキシコシティへの玄関口なのだ。そんな港を、そのまま放置しておく訳にはいかないのだ。
オヤジたちには、特殊部隊300人と共にベラクルス近辺を調査するとともに、ベラクルス港に停泊しているイスパニア船を破壊するように依頼する。この作戦には俺も同行する。今後の作戦を考える上で、ベラクルスの状況はどうしても確認しておく必要があるからだ。
留守は、工藤昌祐と工藤祐長に任せよう。通訳ペンダントを1つずつ渡しておくから、言葉の問題はないはずだ。2人は文武どちらにも秀でているから安心して任せられる。首都防衛のために特殊部隊を1300人も残していく。それならば、新体制に対する反乱が起こったとしても大丈夫だろう。
医療の方は、光秀に何とか頑張ってもらうしかない。通訳ペンダント1つは、光秀専用にしている。
この国からイスパニアを追い出したけど、この後の展開はどうなるだろう? イスパニアは、国のメンツを懸けてリベンジに来るのだろうか?
あるいは、妙な武器を持った面倒な奴らなんか相手にしないで、別の国の征服を先にしようと考えるのか? 読めないな。権力者の欲がどういう方向に向かっていくのかなんて、予測するのは難しいだろう。
リベンジマッチにやって来るとして、派遣される艦隊数はどれくらいなのだろう? 100隻もやってくるだろうか。仮に100隻だと、我らも無傷では済まないだろうな。
100隻が総力戦なのかどうか分からないが、総力戦の大海戦を制したら、外交交渉のフェーズを始められるのかな? それも読めないな! 俺としては、イスパニアやポルトガルと、どこまでも血みどろの戦いをしたくはない。それだけは決めているのだ。
スッキリしないが、今やれることをやっていくしかないだろう。
俺はオヤジたちが率いる特殊部隊300人とともに、大西洋側の拠点港のベラクルスに向かって走っている。馬車での移動を提案したのだが却下されてしまう。移動すること数日、俺だけがヘロヘロのクタクタなのだ。ベラクルスの港が見下ろせる山の中腹にへたり込んだまま動けないのだ。
「三蔵! この後はどうするのだ?」とオヤジ。
顔がニヤニヤしている。もっと体を鍛えておけよ……という意地悪な顔になっているぞ。
「とにかく……休憩だ」
その言葉を吐き出すだけで精一杯だ。息子に厳し過ぎるぞ!
約1時間休んで、やっと立ち上がれるようになる。改めてもう一度港の様子を眺める。大型船5隻が浮き桟橋に停泊している。港には街ができているようだ。ざっと200軒くらいというところか。
メキシコシティを追い出された連中らしいのが、ベラクルスの港で右往左往している。船に乗せてもらえるように交渉しているところだろう。船員たちも興奮している様子だ。
問題は、奴らの船を追い出した後の港の防衛だ。アカプルコのように、内陸側に対する防御壁は必要ないだろう。この港には、敵船に迫撃砲を撃ち込んだり、大型ライフルを撃ち込んだりするためのトーチカみたいなのがあればいいのかな。港の防衛状況がイメージできないな。
さて、これからどうするか?
家が200軒位あるということは、住民は300人くらいいるのだろう。奴隷にされているアステカの民もいるだろう。船を2隻だけ残しておけば、その2隻にギュウギュウに乗り込んで全員が本国に帰れるはずだ。アステカ人奴隷は置いていくだろう。
「暗くなるのを待って、5隻の船のうち3隻を沈める。住民は残った2隻の船に乗り込んで、慌ててイスパニアに帰っていくだろう」
「分かった。明日の夜明け前に片付ける。三蔵は護衛とともに、ここで休んでいろ」
……明日の夜明け前……
「敵船を3隻沈める。沈めたらこの場所に戻るぞ。行動開始!」とオヤジたち。
特殊部隊が走り始める。さすが精鋭たち! 音もなく高速移動だ。20分も掛からないうちに、港から大きな音が聞こえてくる。グレネード弾を撃ち込んだようだ。ここからは状況が分からないが……きっと上手くいったのだろうな……とか思っていたら、オヤジたちが戻って来る。
夜が明けると、徐々に港の様子が見えてくる。住民たちが2隻の船に押しかけている。船員が押し留めてもどんどん乗船していく。過積載かもしれないが、そのまま船は出航していく。桟橋には船に乗れなかった1家族だけが佇んでいる。
「私も港の状況を確認したい。それと街には、奴隷にされたアステカの民がいるはずだ。解放してやろう」
「もう一度、港に向かうぞ」とオヤジたち。
俺も港に移動する。高速移動は止めてほしい!
街の入口で特殊部隊が整列する。
この街は建物の外観が統一され、道路も整然と作られているようだ。イスパニア人の美意識なのだと思う。
「特殊部隊は私の護衛に10人残ってくれ。それ以外は手分けして、奴隷にされているアステカの民を探してほしい。この街にも奴隷小屋があるはずだ。希望するものは、ホウジョウシティに向かわせてくれ」
特殊部隊が何班かに別れ、奴隷小屋を探して走る。俺と残った特殊部隊10人は港に向かう。桟橋にまだあの家族が立っていた。
「誰か、空に向けてリボルバーを1発撃て」
ダーン!
家族は発砲音に驚くが、桟橋から逃げ出さない。
「あの家族はなぜ逃げない?」
俺は護衛とともに、家族に近寄る。家族は若い女1名、その弟らしき者1名、男が2名のようだ。男は鎧を付けていないが、腰に剣を下げている。
「大執政官様! 近寄ると危険です!」
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