メキシコシティ防衛戦2
「クアウテモック2世! これから我らはイスパニア軍と戦っていくことになる。国内に存在する敵対勢力は早めに潰しておかないといけないのだ。最大の敵対勢力はどこだ?」
「トラスカラ連邦国ですね。反アステカ勢力の筆頭だった国です。人口は25万、兵力は8万くらいだと思います」
「我らが、メキシコシティを占領しに来た時、空き巣狙いに来た奴らがいる。2000人くらいの兵だった。どこの連中だろうか?」
「残念ながら分かりません」
「ところで日本国に対して『服従するか? 敵対するか?』という選択を迫ると、反アステカ勢力はどう反応するだろう? また、この国の残っているイスパニア軍はどう反応するだろう?」
「かつての首都だったテノチティトランは、10万の兵に攻められ陥落しました。その10万の兵の中に、イスパニア軍はたったの1000人程度しかいませんでした。10万の兵の殆どが反アステカ勢力だったです」
「この国に残っているイスパニア軍や反アステカ勢力は、その時の勝ち戦の記憶があります。前回と同じ数の兵を集結させることができれば、今回も勝てると思うことでしょう。イスパニア軍は必死になって、反アステカ勢力に声を掛けて回っているはずです。兵が集まりしだい、ホウジョウシティに攻め寄せると思います」
「親アステカ勢力には『日本軍はイスパニア軍を打倒し、アステカの民を奴隷から解放してくれた。また日本は奴隷を作らないし、疱瘡に罹らなくなる薬も持っている。日本に従うかどうかを決めてほしい』と伝えてくれ」
「反アステカ勢力には『日本国はメキシコシティのイスパニア軍を打倒した。イスパニア軍に協力し、アステカ帝国を滅ぼすのに協力した勢力には、相応の報いを受けさせる』と伝えてくれ」
「そんなことをすれば、イスパニア軍と反アステカ勢力の大連合軍が、こぞってホウジョウシティに攻めてきくるでしょう。連合軍の数は10万を超えるかもしれません」
「それでいい。我らの方から各地に散らばる反アステカ勢力を攻略して回れば、敵が有利、我らが不利という戦となる! しかし、ホウジョウシティに攻め込んでもらえば、我らが有利、敵が不利という戦となる。ここで、反アステカ勢力を一掃してしまうのだ」
「敵兵力は20万でも30万でも多ければ多いほどいいのだ。惨敗した反アステカ勢力は、二度と我らに逆らいたくないと思うはずだ。その方が戦後の統治が楽になるだろう」
「分かりました。大執政官様に従います。ところで親アステカ勢力の民は、連合軍に追われれば、このホウジョウシティに逃げてくるかもしれません。その場合には、どうしたら良いでしょうか?」
クアウテモック2世は、なかなか先が読めるじゃないか!
「敵の城に民を追い込んで、城の食料を減らすというのは、城攻めの常套手段だ。我らは、逃げてくる民を城に入れることはできない」
「親アステカ勢力には、事前に使者を送り『連合軍に追われても、ホウジョウシティに入れることはできない』と伝えておいてくれ。また『2日間くらい、山の奥に逃げてもらえば戦は片がつく』とも伝えておいてほしい」
クアウテモック2世は、親アステカ勢力に大急ぎで使者を送る。反応は予想通りだ。親アステカ勢力からは、日本に降るという返事がすぐに戻ってきたのだ。奴隷にされず、疱瘡にも罹らなくしてもらえるのだ、断る理由などないはずだ。
反アステカ勢力からは、予想通り返事はこない。使者を送って20日が過ぎた頃、イスパニア軍と反アステカ勢力による連合軍が攻めて来る。その数12万人。
要塞本部には俺と、工藤兄弟、クアウテモック2世、ミスティトル、兵は特殊部隊800人、散弾銃隊100人、槍隊2500人を配置する。3ヶ所の支援要塞には、百道三太夫、服部保長、藤林正保が、それぞれ特殊部隊400人と散弾銃隊300人を配置する。
ホウジョウシティで奴隷にされていた者たちには、食料を渡して一時的に山中に避難してもらう。
敵は、湖に作られた3本の道を、それぞれ4万人の兵で攻め寄せる。支援要塞の門は空けたままだ。支援要塞に配置した兵たちは、支援要塞の外壁の上に隠れている。敵は支援要塞など目もくれずに、本部要塞を目指すはずだ。もちろん、その外壁を登る通路はない。梯子は外壁の上に引き上げている。
敵は、過去にテノチティトランを打ち破った経験がある。自信満々なのだ。しかも前回よりも今回の方が兵の数が多い。油断しない方がおかしい。一気に数で押し切って勝負をつけようと思うことだろう。
俺は、クアウテモック2世とともに、中央要塞の壁上部の通路から敵兵の動きを観察している。
「すごい数の敵兵が集まったものだ。上出来だ! 上出来!」
「大執政官様! 怖くはないのですか?」
「それは怖いさ! 戦は何があるか分からないからな。しかし敵が密集してくれるほど武器の威力は増すはずだ」
中央要塞の門の前でイスパニア兵が大砲2門をセットしている。その後ろでは、トラスカラ連邦の国王の1人が、イスパニア兵300人を率いる隊長と話をしている。
「アステカ帝国の生き残りの奴ら! 今度は12万の兵で囲まれ、さぞびっくりしているでしょう。要塞の中には、クアウテモック2世とか名乗っている奴がいるそうです。前回もそうでしたが、我らが攻め掛かれば今夜にでも逃げ出すでしょう。もちろん、今夜まで生きていればですが……」
「総督を始末したという日本の軍隊が、一体どんな奴らなのか気になっていたが、戦術がまるで分かっていない。総督はいったい何をやっていたのだろう? そもそも我らを防ごうとするのであれば、湖の3本の通路で戦うべきなのだ。少ない兵で大軍と戦う場合、隘路で待ち受けるのが戦の常道というものだろう」
「この金属製の門にしても、大砲で破壊されて終わりだ! 全くお笑いだ。とんだ間抜け野郎たちだ」
「その通り! その通り……」
イスパニアの隊長と話していたはずだが……なぜか自分の身体が空中に浮かんでいるのだ……手足の感覚もない。このまま地面に叩きつけられて死ぬのか? 王の意識が空中で途絶える。
グレネード弾の爆発で、2門の大砲も、イスパニアの隊長もバラバラに吹き飛んだのだ。
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