メキシコシティ攻略2
「我らは、アステカの民が苦しめられてきた痘瘡という病気に罹らなくする薬も持っている。我らが痘瘡に罹らないのを不思議に思ったであろう! この会議が終わったら。『クアウテモック2世がお願いし、日本から痘瘡に罹らなく薬を頂くことになった』と皆に伝えてほしい」
「そうすれば、クアウテモック2世に対する民の忠誠心は、もっと高くなるだろう」
「我らの命を奪った悪魔のような病気に。あんなに苦しめられた病気に。罹らなくなるのですか? そもそもイスパニアに負けた原因は、その病気のせいでもあるのです」
「豊穣神様は、そのような神薬まで与えて下さるのですね。我らアステカ人が信じていた神はいったい何だったのでしょう! 豊穣神様、最高! 本当に最高です!」
クアウテモック2世が大興奮! いや……興奮し過ぎだって……
「豊穣神様の像はありませんか?」
「あるぞ。持っていくか?」
「もちろんです」
「明日から、メキシコシティに向かう兵から順番に接種していくぞ」
「ありがとうございます。私を始めアステカの民の大半の者が豊穣神様を信仰しています。しかし今の話を聞けば、全員が豊穣神様を信仰するでしょう」
会議参加者全員が頷いている。これでいいのかな……
こういう展開になったのは豊穣神様のせいだからね! 俺は知らない。
「横道に連れたが、大事なことをクアウテモック2世とミスティトルに聞きたいのだ。それは食料だ。メキシコシティを取り返せば、今まで逃げていたアステカの民がメキシコシティに戻ってくるはずだ。そうなれば、いきなり食べ物が足らなくなるのではないか?」
「メキシコシティにはどれくらい食料がある? チナンパという湖を埋め立てて作った畑でどれくらいの民が養える? 我らにはさっぱり分からないぞ。この食料問題に目処をつけないと、安易にメキシコシティを取り返す訳にはいかないぞ」
クアウテモック2世がミスティトルに相談している。
「食料はたっぷりあるはずです。余った食料を売り物としてイスパニアに運び出していたくらいです。それに湖に作った畑は広大です。イスパニアもその畑を潰して家を建てたりしていないと思います」。
「つまり、メキシコシティから食料が運び出される前に占領した方がいいということだな? その食料を確保してなんとか今年を凌げば、湖の畑で生産される食料で、食料不足になることはないということだな?」
「テノチティトランは豊かな地なのです。元々20万人くらいの民の食料を生産していたのですから」
「では、急いでメキシコシティを攻略することにしよう。アステカ兵はどれくらい集められるか?」
クアウテモック2世がミスティトルと相談している。
「アカプルコにいる男は、間違いなく全員が兵に志願してくれるでしょう。ですから3000人は集まります」
「そうすると、既にいる兵500人と合わせて3500人だな?」
「その通りです」
「3500人に元兵士はいるか?」
「いません。イスパニアとの戦いで全て亡くなっています」
「分かった。生き残った者たちで頑張るしかないな。散弾銃を追加で500丁渡す。3000人の中から勇敢な者を厳選してくれ。散弾銃兵は1000人になるな。残る2500人には槍を渡す。槍兵2500人は攻略には同行してもらうが、実践はしっかり訓練を積んでからだ」
「女性と子供は、どれくらいの数がいるか?」
「3000人くらいいます。そのうち子供は200人です」
「女性は、ここに残って農作業をやってもらおう。アカプルコが食糧不足になったのでは困るからな。それとこのあたりで、余っている農地はないか? できれば暖かく水気の多いところがいいぞ」
「このあたりは、暑く湿気の多い場所だらけです。穀物を作るには適していません。メキシコシティにいけば気候も良くセンティリ(とうもろこし)などの穀物がたくさん作れますけど」
「このあたりの土地で、米という穀物を作る予定なのだ」
「米というのは美味しいのですか?」
「日本では、主食として食べられているぞ。もちろん美味い。不味ければ主食にはなっていない。後で保正に候補地を教えてくれないか」
「分かりました。女たちの代表に候補地を案内させます」
「弾薬や食料を運搬する馬車がいるな」
「大丈夫です。イスパニアの奴らが持ってきた馬車がかなりあります」
「百道三太夫、服部保長、藤林正保の指揮の下、特殊部隊1500人は明日先行して出発してください。今回は私もメキシコシティに行きます」
「大丈夫か? おまえが死んだら全て終わりになるぞ」
「メキシコシティは、どうしてもこの目で見ておかないといけない場所なのです」
「アステカの銃兵1000人と槍兵2500人については、痘瘡の予防接種が終わった者から、500人単位でメキシコシティに向かわせてください。工藤昌祐は最初の500人、工藤祐長は最後の500人の引率を頼む」
時間もないし、工藤昌祐と工藤祐長による槍と銃の訓練は、ここでは殆どできないだろう。メキシコシティについてからの訓練になるな。
「特殊部隊210人は30人の班に別れ、アステカ兵500人の移動のための道路周辺の索敵と兵の誘導を頼む。特殊部隊40人は、アカプルコからメキシコシティに移動するための地図の作成を頼む。また道路の周辺にイスパニアの農場や施設があれば、地図に印をつけておいてくれ」
「陸兵200人は藤林保正の指揮でアカプルコの防衛を頼む。海の防衛は定隆に一任だ。特殊部隊250人はアカプルコの周辺50kmくらいまでの地図の作成を頼む。同様に周辺にイスパニアの農場や施設があれば、地図に印をつけておいてくれ」
……翌日早朝……
俺、百道三太夫、服部保長、藤林正保の指揮で、特殊部隊1500人がメキシコシティに向かって出発する。
港では、アステカ人の銃兵1000人と槍兵2500人が整列している。順番に港の建物の中に入り、看護婦たちに痘瘡の予防接種を受ける。予防接種が終わった兵は、陸兵から銃兵は散弾銃、槍兵は槍が配られる。
アステカ人は、配られた日本の槍の鋭さに感心している。そんな彼らだが一人前の兵になるには、時間が掛るだろう。
アカプルコでできるのはここまでだな。それよりも、部隊長になれそうな奴を見つけないとダメだ。クアウテモック2世とミスティトルに、部隊長ができる者を見つけてもらうことにした。
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