アカプルコ防衛戦1
「アカプルコにイスパニアを攻め込ませるにはどうするか? やはり怒らせるのが一番だ。闇に潜んで特殊部隊が総督府を奇襲するのは、さほど難しくはないだろう。総督府が攻撃されれば、イスパニアの総督は怒り心頭だろう」
「メキシコシティに忍び込んだなら、街の中央部に建てられている総督府と、大聖堂と呼ばれる大きな教会、街の目立つ建物を壊してほしい。恐怖を覚える壊し方はダメだ。怖がらせるとメキシコシティに籠もられてしまう。頭にくるような壊し方をしてほしい」
「その匙加減が重要だ。グレネード弾1発なのか2発なのかは、現場で判断してほしい。とにかく怒らせることが目的だ。しかしそれだけでは、誰が何のために行ったか分からない」
「そこで『アカプルコはアステカ帝国が取り返した。いずれメキシコシティも取り返す』とイスパニア語で書いた紙を、壊した屋敷付近にばら撒いてきてほしい。文章はルーシーに書いてもらう」
「特殊部隊は、1人も捕まらないように全員で帰って来てほしい。彼らの主な飛び道具は火縄銃と弓だ。距離さえ取って逃げれば安全だと思う」
「それと、アステカの民の代表者たちに、チュィルトリという男がいる。その男は、皇帝クアウテモックの兄弟の子だ。ここにイスパニア軍が攻めてきた時に、アステカ兵の目の前で、クロスボウによる榴弾攻撃をやってもらおうと思っている」
「その姿は、アステカ兵がクアウテモックの再来だと思い込むのに十分だろう。英雄復活をアステカの民に刷り込むのだ。アステカ帝国の英雄を復活させるのだ」
「何だか面白そうだな。特殊部隊も大いに張り切ると思うぞ」とオヤジ。
「知らない土地で苦労すると思いますがよろしくお願いします。保正、後で紙を渡すから、大変だと思うがルーシーに50枚程書いてもらってくれ。特殊部隊にメキシコシティに乗り込んでもらうのは、アカプルコを要塞化した後だ。今日はこれで解散としよう」
……翌日早朝……
「三蔵! 行くぞ」
「こうして、父上と一緒に何かを行なうのは始めてですね」
「そうだな、まずは地図のこの場所に行くぞ。メキシコシティから攻めてくるならこの谷を通って来るに違いない」
オヤジたちと、目標とする北側の谷に向かう。アカプルコは山と海に囲まれた平地なのだ。従って、要所の谷間に防御壁を作れば簡単に要塞化できる。もちろん急いでいるから、防御壁は至高の匠スキルで作るけどね。
目標とする場所に4人で走って移動する。オヤジたち……足が速いな。息も上がってないし、付いていけないぞ! もう少しゆっくり走ってくれないかな! 疲れてきた。
目標とする場所にやっと到着する。川が流れる部分を鋼製のスリットにして、至高の匠スキルで、幅3m、高さ5mの壁を一気に作る。横を見る。オヤジたちは驚きもせず、普通にしている。
今まで、俺が至高の匠スキルを使っているところを、こっそり隠れて見ていたな! 息子を勝手に覗き見するなよ!
「豊穣神様から与えられた加護の力です。秘密に願います」
「儂たちはもう慣れているからな。それに誰かに話しても、誰も信じはしない。気にするな。良し次に行くか。次は東側だ。そしてその後は西だ」
防御壁を作り終わって、蝦夷丸に帰ってきた。壁を作るより、走って移動する方が疲れた。これで準備は終わりだ。後はアステカ兵の訓練だな。早く散弾銃の扱いに慣れてもらわないと、間違って味方に撃ち込んだりしたら大変だ。
アステカ兵は北側に配置だ。東と西、それから海からも攻めてくることは、まずないだろう。
防御壁を作り終わったので、俺、オヤジたち3人、工藤昌祐、工藤祐長、藤林保正、九鬼定隆で作戦会議を行う。
「アカプルコの要塞化が終わった」
誰も驚かないな。毎度のことだからな。それでいい。
「アステカ兵は何人集まった?」
「希望者は2000人いましたが。適性を見て500人に絞り込みました」
「そうだな。初戦だからな。肝が座った奴だけの方がいい。慌てて、味方に弾を撃たれたら困るからな。兵は北側の防衛に配置してほしい」
「分かりました」
「防御壁前方の左右の山に、散弾銃を持たせてアステカ兵を潜ませておいてほしい。指揮は昌祐が取ってくれ」
「言葉が通じませんから、彼らに対する合図も考えておきます」と昌祐。
「特殊部隊は北に1000人、西と東は400人ずつだ、残りは街の警備だ。陸兵は街の警備に当たらせてくれ。戦が長引く場合には、街に残る民を指揮して、3ヶ所の防御壁に食料や水を運ばせてほしい」
「準備が整ったので、オヤジたちは明日にでもメキシコシティに向かってください。保正、バラ撒く紙は用意できているか?」
「もちろんです。これになります」
「50枚も大変だったろう。ルーシーに礼を言っておいてくれ」
「メキシコシティに向かうもの以外は、これから防御壁の状況を確認してほしい。防御壁には昇降階段は付いているが、壁の上に柵は付いていない。チュィルトリを皆に見てもらいたいからな。必要なら目印程度の簡単な柵を設けてくれ。それと壁からの距離を測って、山に目印を付けておいてくれ。今回は迫撃砲を使う」
「戦が始まったら、アステカ兵500人から良く見えるよう、壁の上にチュィルトリに立ってもらおう。注目を集めたら少し大げさな動作で、クロスボウを使った榴弾攻撃を何発かやってもらうつもりだ。クロスボウの使い方と榴弾の注意点は、祐長からしっかりと説明しておいてくれ」
「質問がなければこれで解散する」
ここまで、お読みいただきありがとうございます。
励みになりますので
ぜひブックマークや評価などをお願いします。




