アカプルコ上陸4
ルーシーがニコニコしている。
豊穣神様の信者が増えたからかな? 俺は別に豊穣神教を広めに来たのではないのだけどな。
そんなことを思っていると、オヤジたちが帰って来る。
「この港の周辺の土地を、特殊部隊の訓練を兼ねて一周りしてきた。これが地図だ。線を引いたところに柵か土手を設ければ、アカプルコを要塞化できる。長島でやったようにすればいいと思うぞ」
「ありがとうございます。明日の早朝、線が引かれたところに、私を連れていって頂けますか?」
「三蔵は、足腰鍛えているか! 我らに付いてこられるのか!」
「そのようなことを言わず、ゆっくり走ってくだされば良いではないですか」
「それもそうだな」
「保正、工藤昌祐と工藤祐長に戻ってきてもらえるか。オヤジたちも作戦会議に参加してほしい」
俺と、オヤジたち3人、工藤昌祐、工藤祐長、藤林保正、九鬼定隆で会議を始める。
「今後のことについてだが、まずは彼らにアステカ兵を作ってもらおうと思う。この国を取り返すのは彼らだ。本来、命を懸けるべきは彼らなのだ」
全員が頷いている。
「昌祐、明日になったらアステカの民の代表と話をし、アステカ兵を作り上げてくれ。その後は、訓練、訓練、訓練だ。武器は着剣付き散弾銃を渡してくれ。ただし武器の取り扱いと管理は厳重に行わせてほしい」
「分かりました。食料についてですが、イスパニアがたくさん蓄えていてくれました。米はありませんけど」
「食べるものがあれば十分だ! 武器、食料、水の管理を頼む。それとアカプルコの港は日本がもらう。既にイスパニアの領地になっているのだ。アステカの民は文句を言わないだろう」
皆の顔が明るくなる。
「そうなると、当然アカプルコでの永続的な食料確保が必要になる。連れてきた農民たちには米を作ってもらうつもりだ」
「農民たちを船に乗せたのは、そのためだったのですね」と昌祐。
「その通りだ。独身の若い男ばかりを連れて来ている。きっとこのアカプルコの娘と仲良くなって。日本とアステカの血を引く子供たちが増えていくことになるだろう」
「そんなことまでお考えだったのですか」と保正。
「将来に目を向けると、アステカの民と仲良くするには、これが一番だろう」
「それと嫌な話になるが、妙な動きをする者がいれば、アステカの民といえども、特殊部隊に命じて密かに始末してしまえ。内部に不穏な者を抱え込める状況ではないからな」
俺は全員の前に地図を置き、豊穣神様に教えていたことだと前置きして説明を続ける。
「まず、滅亡したアステカ帝国について簡単に説明しておく。首都はテノチティトランという水上都市だ。テスココという湖の中の島を拠点にして、運河を作りながら島の周囲を埋め立てて作られていた。20万人くらいの人が住む大きな都市だったようだ。人の多さでは京の都と同じくらいかな」
「テノチティトランとアカプルコとの距離は、京と尾張を1往復したくらいになる。また、かつてアステカ帝国が支配していた地域には1000万人の民が住んでいたようだ」
「そんなに大きな国だったのですか?」と昌祐。
「大きな国だ。武器の開発は進んでいなかったが、その他の技術は進んでいたようだ。テノチティトランのような水上都市を作り上げるぐらいだからな」
「水上都市には、湖に作った畑も数多くあるのだ。そこでは、野菜やアステカの言葉であるナワトル語では、センティリ(とうもろこし)という主食が作られている。以前私が作ったことのあるパンを覚えていると思うが、センティリ(とうもろこし)から、そのパンを薄くしたようなトラハ(トルティーヤ)というものを作る。それに香辛料と野菜を挟んで食べるのだ」
「我らの米に相当するのが、アステカ帝国ではセンティリ(とうもろこし)という食べ物なのですね。食べてみたいですね」と保正。
「トラハ(トルティーヤ)は私でも作れるぞ。ただし、残念なことにテノチティトランの畑では米は作れない。気候が米作りに合わないのだ」
「それで、アカプルコで米作りなのですね」と祐長。
「そうだ、トラハ(トルティーヤ)だけでなく、米も食べたいだろ」
「話を戻す。首都テノチティトランと陸地は、運河により作られた3本の道で繋がっている。ここまで説明してきたテノチティトランは、今では新イスパニア領の首都メキシコシティと呼ばれている」
「現在は、メキシコシティを広げようと湖の埋め立てが始めっているようだ。どうだ、この水上都市メキシコシティに攻め込もうとしても、簡単には落とせそうにもないだろう?」
「良くそんなところを、イスパニアが落とせましたね」と昌祐。
「それは追々話そう。先を話すぞ」
「そんな攻めにくいところを、我らがわざわざ攻めに行く必要はない。ではどうするか! まずアカプルコを要塞化する。我らが攻め込むのではなく、イスパニアに攻め込んでもらえばいい。我らが有利な状況で戦うべきなのだ。できれば新イスパニア領の全てのイスパニア兵に集結してもらいたいな」
「しかし、アカプルコに集まった敵兵全てを始末してしまわないようにしてほしい。西国との戦のように、新イスパニア領内に『日本軍は怖い』という恐怖を持って帰ってほしいのだ」
「日本は怖い、アステカ兵も怖い……新イスパニア領にいたら殺されてしまう。急いでイスパニアに帰ろう……と思ってくれれば上出来だ」
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