出発に向けての打ち合わせ1
天文21年(1552年冬)21歳
「大執政官様、我ら夫婦は新イスパニア領にお供します。妻はイスパニア語がしゃべれます」と保正とルーシー。
「いや待て、子供がいるだろう? 子供をどうするのだ!」
「サラ様に預かってもらいます」
「2年間は帰ってこないのだぞ。そういうのはダメだろ!」
「ですが、新イスパニア領に行っても、イスパニアの言葉を話せる者がいなければ、どうにもならないと思います」とルーシー。
「ルーシー! 子供は私が責任を持って預かります」とサラ。
「アメリカ大陸の話を聞いて、私は日本でじっとしていることはできません。アメリカ大陸の民を助けたいのです!」とルーシー。
「ちょっと待て! そんなに本格的に新イスパニア領に乗り込むつもりはないぞ。そもそも日本からものすごく遠い所だし、大兵力を送ることはできないのだ! 今のところは、アカプルコの港と船の修理設備を破壊することを目標にしている。それに先住民を助けるといっても、そんなに単純な話ではないのだぞ」
「特殊部隊をたくさん連れていけば、可能ではないですか?」と保正。
「フフ……俺たちも連れて行ってくれよ。久々に腕がなる。日本は平和でつまらん」とオヤジたち。
おいおい……いったいどこにいたのだ!
……勝手に人の家で盗み聞きするなよな! それに……いつからいたのだ!
夜も……いるんじゃないだろうな! プライバシーの大侵害だぞ!
「分かった。新イスパニア領からイスパニア軍を追い出すところまでやることにするか。新イスパニア領までは2ヶ月くらいの長旅になる。一緒に行くなら、ルーシーが先生になって、特殊部隊にイスパニア語を教えてもらってもいいかな。保正、どうだ?」
「私も一緒に学びますので大丈夫です」
「仕事の話は以上だ……これから数日間は子供と楽しく過ごしたい! 暫く会えないからな。オヤジたち……気を利かして帰ってくれないかな」
「子供とだけではないだろう」
「いいから! 余計なこと言ってないで帰ってくれ!」
桔梗も桜もオヤジたちを睨んでいる。
「では、嫌われないうちに帰るとするか」
本当に帰ったのだろうな? 心配だな……桔梗、桜、千代女が気配を探っている。伝説の上忍が本気で気配を消せば、桔梗、桜、千代女でも無理だろうな。もう好きにしてくれ。
……お陰で、久々にのんびりと過ごすことができた。
しかし、あっという間に出発の日が近づいてくるな!
いつもの4人に九鬼定隆を加え、5人が集まって出発前の最後の作戦会議だ。
「会議を始めよう。まずは豊穣神様から良い物をいただいたのだ。紹介しておく。豊穣神様が夢に出てきた明け方、目を覚ますと枕元に置いてあったのだ」
皆が俺に手を合わせている。違うぞ……俺は人間だからね!
「そっと枕元に置いていただいたのだからな! 私は普通の人間だからな!」
「豊穣神様と、大執政官様は同じでござる!」と信長。
違うぞ……俺は……いったいどんな風に見られているのだ?
「とにかく、この像の説明をする。この像には番号が付いている。たとえば1番の像の前に、2番と表に書いた紙を置く。その紙の裏には伝えたいことを書く。像の前で、届けてくださいとお祈りをする。そうすると2番の像の前にその紙が移動してくれるのだ」
「では……我らは離れ離れになっても連絡がとれるということですな。素晴らしい授かりものではないですか!」と勘助が笑顔になっている。
勘助もやっぱり寂しいのかな。
「この手紙像は10個ある。東に向かう私、日本に残る勘助、西に向かう信長のところに1つずつ置く。これで3つだ。それから台湾島、ルソン国、衢山、澳門にも置く必要がある。これで7個になる。残りは3つだな」
「大執政官様! 1つは我が妻のもとにお願いします」
お〜い。史実の信長とキャラが違ってきているぞ!
「1つは我が家に置く。番号の下に名前を書いておけば、それぞれの相手に届けさせるから安心してくれ。残り2つは、東南アジアで別の港をまかせた者に1つ持たせることになるだろう。もう1つはアメリカ大陸の新イスパニア領内で誰かに持たせるつもりだ」
信長、残念そうにしているな。愛妻に何度も手紙を送ろうと考えていたのか!
そうはさせないぞ……君は英傑なのだよ。本来は俺じゃなくて……信長が……
まあいいか。
それにしても、豊穣神様も20個ぐらい渡してくれればいいのに。そしたら気前良く、信長に渡せたのだけどな。
「肝心の打ち合わせを始めよう。まず蝦夷丸の航続距離だ。石炭を満タンにしておけば、どこまででも航行してくれる訳ではない。それに水や食料の補給も必要となる。日本にとってルソン国に拠点ができたことは大きい。食料、水、石炭の補給ができるからな」
「台湾島、ルソン国、衢山、澳門には、日本からキャラック船で定期的に石炭を運ぶことになっているが、フィリピン諸島で石炭が取れる島がないか、調べておいてほしい」
「戦闘時における蝦夷丸の優位性は石炭による航行だ。東南アジアでの航行においても、石炭を節約し帆走による航行に心がけてほしい」
「ルソン国とマラッカは距離があるので、その中間にも補給拠点が必要になるだろう。ルソン国と仲の良いブルネイ国と交渉して拠点を確保してくれ。そうなると、ルソン国とブルネイ国の間をキャラック船で石炭を運ぶ必要も出てくるな」
「信長は、補給拠点を要所ごとに作りながらマラッカまで進んでほしい。マラッカを占領すれば、以前説明したスパイス諸島の確保も頼む。ここで得られるスパイスはイスラム商人にのみ売ることにする。スパイス諸島の駐在員は、斎藤利三と蜂須賀正勝を当てよう。スパイス諸島は広いから、北を斎藤利三、南を蜂須賀正勝に任せればいいだろう」
「斎藤利三と蜂須賀正勝についてだが、スパイス諸島の状況と、彼らの能力を見極め、駐在員とするか総督にするかについては信長が決めてくれ。いずれにしても、彼らのどちらかに像を1つ渡して連絡が取れるようにしてほしい」
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