衢山1
天文20年(1551年夏)20歳
蝦夷丸の旗艦には俺、軍務大臣の北畠信長、作戦本部副本部長の真田幸隆、海軍大将の九鬼定隆、ヤジロウ、外交官候補の毛利元就、毛利隆元、毛利隆景、北条長綱、三好長慶、松永久秀、島津貴久、島津義久、斎藤利三、蜂須賀正勝、その他に通訳隊10名、商社正直屋の幹部数名が乗船している。
加えて、死ぬまでにどうしても外国が見てみたいという、物見遊山の3人のオヤジたち、さらに北条氏康殿までもが乗船している。
俺たちがいない間は勘助と森可成に、内乱が起きないよう睨みを効かせてもらうことにしている。可成は我が国では無敗の軍神扱いされているから大丈夫だろう。
明の役人と倭寇の件を交渉するため、王直は明に戻っている。貸し出したキャラック船10隻も一緒だ。王直とは日を決め、衢山島沖合で待ち合わせることにしている。
蝦夷丸30隻の艦隊が、平戸で準備を整えて衢山に向かっている。艦の見えるところには王直党の旗を立てている。
我らは、明での倭寇退治が終われば、そのまま台湾島に向かう予定にしている。蝦夷丸には、台湾島やルソン国で渡すお土産を多く積んでいる。それに加え、今回は初の海外遠征となるため、空きスペースに石炭や食料を多めに積載している。
平戸から約800Km足らずの移動となる。蝦夷丸では、計測した緯度経度と世界地図を見比べながら、羅針盤を併用して航行していく。また、石炭の消費を抑えるためになるべく帆走を行っている。
それでも4日目には、衢山島の沖合まで移動したのである。
予定より1日早く到着したが、衢山島沖合では、既に王直と配下の海賊たちが中型船で待っていた。中型船が蝦夷丸旗艦に向かってくる。蝦夷丸から可動式タラップが降ろす。王直がそれを登ってくる。
王直がニコニコしながら俺の側までやって来る。
「役人との話がつきました。杭州湾の倭寇を片付けることで、この島の実質的な支配権を認めること、この島での密交易を黙認することを約束させました」
「ご苦労であった。倭寇たちが根城にしている港は分かっているな」
「もちろんです!」
「港には、倭寇とは関わりない民も住んでいるか?」
「住んでいます」
「では、港自体を破壊することはやめておこう。それで良いか?」
「もちろんです。港を制圧するのは我らにやらせてください!」
「我らが敵の船を全て沈めよう。沈め終われば、我らは沖に戻る。我らと入れ違いに王直たちが港に乗り込む。そういう手順でいいな。では今から始めるか?」
「大きな倭寇は3つあります。一番大きい陳思盻という倭寇を最初に攻めたいと思います。奴の配下は1000人くらいいます。明日の夜明けと同時に、ここを出航したいと思います。それでいかがでしょうか?」
「それでいい。残り2つの倭寇はどうする?」
「陳思盻のところの制圧が、どれくらいかかるかによります。いずれにしても連続して攻撃できるのは、2つの倭寇までだと思います」
「翌朝だが、王直はこの船に乗れ。この船の船速は帆船の約2倍だ。配下たちの船が目的地に着くまでに、敵の船を全て沈めておくことになるから丁度いいな。ところで配下たちは、手旗信号を使えるようになっているか?」
「もちろんです。あれはいいですね。配下たちに十分練習させております」
毛利隆景は俺の近くにいるが、今のところは王直を観察するだけにしろと指示している。その横には松浦隆信とヤジロウが立っている。いよいよこれから始まるのだと、船に乗るもの全員が興奮しているのだ。
……翌日の明け方……
旗艦に乗せた王直に、陳思盻が支配する港までの案内をさせている。蝦夷丸艦隊の後ろを、櫂船タイプの中型船30隻が必死に追いかける。2時間も経過すると中型船30隻の姿は見えなくなる。
やがて陳思盻が支配している島が見えてくる。港には、全長30m程度の大型船が5隻、全長10m程度の中型の船が30隻、小型のものが60隻停泊している。
蝦夷丸艦隊30隻は、陳思盻の配下の船など気にすることなく、港にどんどん近づいていく。
王直は少し心配になっていた。配下の30隻が大きく引き離されてしまい、未だに姿を見せないからだ。海戦となった時、移動速度の速い敵櫂船に蝦夷丸が囲まれてしまえば、さすがに危ういのではないかと不安になっているのだ。
「30隻の単縦陣で港の出入り口を塞げ、港から敵船が逃げられないようにせよ!」
「了解しました! 各艦に連絡!」
30隻の単縦陣で港の出入り口を塞ぐと、港に係留されている船が慌ただしく動き始める。最初に動き出すのは、移動速度の速い中型と小型の櫂船だ。大型船はデッキで船員がバタバタと動き回っている最中だ。
「全艦! 大型銃用意! 距離400mで敵船を攻撃開始!」
「了解しました! 各艦に連絡!」
動きの早い小型船が蝦夷丸に迫る。蝦夷丸に乗り込んで、白兵戦を挑もうというのだろう。大型銃の射撃が始まる。約600発の弾丸が飛んでいく。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
弾丸が命中した小型船は、バラバラになって沈んでいく。
小型船の後ろを追いかける中型船も同様だ。大型銃の射撃をかい潜った数隻の小型船がいたが、それも全て沈められてしまった。
「旗艦と10番艦までの艦は港の中に突入し、敵の大型船を沈めろ!」
「了解しました! 各艦に連絡!」
10隻の単縦陣で港の中に入っていく。
「大型船の400m手前で面舵! 船舷を敵船に向けたら、大型ライフルで大型船を撃て!」
「了解しました! 各艦に連絡!」
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
大型船が穴だらけになっていく。しかし、隔壁構造のためか船体は傾斜するものの沈没はしない。
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