明と王直2
「ところで明について少し聞きたい。王直は明についてどう思っている。思い入れはあるか?」
「明に思い入れはありません。また明の体制についても、良くは思っていません。賄賂と権力争いばかりです。王朝は腐敗しきっています」
「このところ、明の弱体化につけ込んで、明の北部を支配地とするオイラトの王、エセン・タイシに再三に渡る侵略を受けております。こともあろうか2年前には、エセン・タイシに明軍は大敗しているのです。そのようなことでは明は長く持たないでしょう」
「その方が拠点にしている港はどの辺りだ?」
地球儀を王直に見せると、王直は地球儀を始めて見たためピンときていない。しかたがないので地図の方を見せる、地球儀も地図にも国名は入ってはいない。
「寧波といわれる地域の、地図のこのあたりにある六横島という島の中の双嶼という港が拠点です。ポルトガル人はリャンポーと呼んでいるようです。正確には拠点にしていました。3年前に朱紈 《しゅがん》という役人に、双嶼は壊滅されました」
「双嶼にはポルトガル商人の船も来ていたのか?」
「そうです。ポルトガル商人と組んで広東省、福建省と密交易をやったこともあります」
「広東省の澳門だな」
「よくご存知で。ポルトガル人はマカオと呼んでいます」
「マカオのポルトガル人はどうしている?」
「明の王朝に、ポルトガルとの正式な国交と、交易の許可を求めているようです。ですがポルトガル商人というか、ポルトガルの程度の低い海賊たちが、倭寇と組んで密貿易をやっているのがバレているため、許可は出ないでしょう」
「ポルトガルはインドの時のように、砲撃により澳門を占領するのではないかというもっぱらの噂です」
「双嶼が攻撃されたということは、王直は明のお尋ね者なのか?」
「そうですね」
「それでどうやって密交易をやっているのだ」
「港の役人に賄賂を渡しておけば、何の問題もありません」
「王直は、明の役人の大物にも伝手はあるのか? 」
「もちろんです。いくつもございますぞ。奴らは賄賂が大好物ですから」
「例えばだが、その強欲な役人にタップリ賄賂を渡し、杭州湾一帯の倭寇を全て始末する代わりに、密交易に目を瞑り、舟山列島辺りの港を自由にさせてほしいという交渉をすることは可能だろうか?」
「もしも可能ならば、衢山島が良いと思う。寧波にも上海にも近い。双嶼のことを考えると陸から少し離れたいた方が、守り易いと思うのだが」
「よくご存知で! 杭州湾一帯の倭寇を全て始末するという交換条件なら、交渉は可能と思います。しかし杭州湾には、我らと同じ、あるいはもっと大きな倭寇組織が複数おります。今の我らの力では、勝てるかどうか怪しいです」
「それなら、その大きな倭寇組織が根城にしている場所を教えてくれ、我らがそいつらを始末しようではないか。その際、我らの船には王直の旗をたくさん立てさせてもらうけどな」
「杭州湾一帯の倭寇を始末すると、他の倭寇から目を付けられてしまいます。応援する勢力がいなくなったと知れれば、我らは他の倭寇連中から総攻撃を受けてしまいます」
「王直に武器を貸せば、追い払えるか?」
「武器の性能と数によります」
「王直は戦に使える船を、どれくらい持っている?」
「配下の海賊を700人以上運べる数の船を持っています」
「平戸まで航海できる大型船は何隻持っている?」
「3隻です」
「では、交易用に使えるキャラック船を10隻貸そう」
「それはありがたい。しかし戦となれば、配下が命を賭けることになります。武器を確認させていただけませんか」
「いいだろう。ところでキャラック船の操船はできるのか?」
「明船とそれほど変わりませんから大丈夫です」
「それと高位の役人にたくさん賄賂を渡せば、双嶼を潰した、清廉潔白でやる気満々の朱紈 《しゅがん》を他所に飛ばすことはできるか?」
「賄賂の金額しだいですね」
「これからタップリ儲けさせてやるから、朱紈を他所に飛ばしてしまえ」
「儲けさせていただければ、是非そうさせていただきます」
「分かった。ここ尾張にてしばし滞在せよ。武器を見せる」
「松浦隆信! 商人となったそうだな。王直に、日本の産品を明国に売ってもらうつもりだ。この日本と王直との橋渡し役をやってもらえないだろうか? 日本の産品も武器とともに見せるぞ」
「大執政官様から、直々にそのようなお役目を仰せつかるのであれば、是非にもお願いいたします。ところで大変失礼かもしれませんが……日本から明に売れるような産品はございますので?」
「あるぞ。数日後に尾張の港で2人に見せよう。楽しみにしておけ」
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