海戦について4
「海戦において、子供たちから質問はないか? 理解は深まったか!」
子供たちは何かを言いたいようだが、何も言えないようだ。
武吉は一連の話を聞きながら、今更ながらに早く臣従しておいて正解だったと思った。こんな人たちと戦って、村上海賊が勝てるはずがないのだ。
「定隆、海上強襲隊はどうだ?」
海上強襲隊というのは現代のウィンドサーフィンを使った攻撃隊だ。
ウィンドサーフィンは、志摩の海賊連中が、松坂港でキャラック船の操船練習をしていた頃、若い連中の遊び用にプレゼントしたものだ。若い連中は、操船練習が休みの日などに、ウィンドサーフィンで夢中になって遊んでいたのだ。元気が有り余っているよな。
奴らは、すぐに自由自在に乗りこなせるようになった。
理屈なんか不要なのだ。風を読み、風に乗り、大きな波がくればジャンプしたりしている。ウィンドサーフィンの移動速度は速い。時間当たり30kmの速度で海上を移動することもできるのだ。
やがて若い連中は移動速度を競ったり、海の上を10台ほど横に並んで走らせたりもできるようになる。これを何とか海戦に使えないだろうかということになったのだ。
敵船の代わりに海上に木で作った特大の的を浮かべる。それを目指してウィンドサーフィンで移動し、150mくらいの距離まで近づいたところで、サーフィンの板の上に跨がって座るのだ。
その状態から特大の的に向けて、グレネード弾を撃たせたところ、見事に大きな的に当てることができた。キャラック船、ガレオン船、明船、どれも用意した的などよりずっと大きな的だ、問題なく敵船を撃破できるはずなのだ。
これは使えると海軍で判断し、ヨーロッパの海軍強国との海戦を見据えて、海上強襲隊を養成させておいたのだ。
「海上強襲隊による海戦ですが。風が吹いているなら、ウィンドサーフィンの移動速度は速く、敵船から弓なり鉄砲なりを撃っても、当たることなどないでしょう。しかも敵船から海上強襲隊を見た場合には、150m以上も離れた小さな的となります。そんな的に揺れる船から矢や銃を命中させるなど名人でも無理でしょう」
「逆に海上強襲隊から見れば大型船は大きな的であり、ほぼ100発100中でグレネード弾を命中させることができます。敵船の乗員がどうしていいか考えている間に、グレネード弾で沈没させられてしまうことでしょう」
「定隆、海上強襲隊は何名ぐらい養成できている」
「ウィンドサーフィンは海兵の人気の遊びです。ほぼ全員ができます。海上強襲隊としては100名任命していますが、もっと増やすこともできます」
「ただし問題点もあります。ウィンドサーフィンは波を被りますので、猛烈に寒い冬の海では運用が難しいかと思います」
「南の暖かい海なら問題ないということだな」
「その通りです」
「定隆、海上強襲隊の訓練を何回もこなして、問題点を潰しておいてほしい。人員も、もう少し増やしたほうがいいだろう。出撃後の銃の手入れは、しっかり行うよう指導してくれ」
「我々も、蝦夷丸や海上強襲隊の訓練を見せていただくことは可能ですか?」と子供たち。
「そうだな、百聞は一見にしかずだな。嘉隆が父と打ち合わせて、他の子供達に連絡してやってくれ」
「ハイ、そういたします」と嘉隆。
「ここからは海戦とは話が違ってくるが、子供たちは引き続いて話を聞いておくように! 平戸には王直という明の倭寇の頭領がいる。この頭領に船や武器を支援して、明で活躍してもらおうと思っているのだ」
「明には倭寇と呼ばれる海賊集団がいくつもある。明の政府は倭寇が海岸部を荒らし回るため大いに困っている。王直は倭寇の頭領の1人だ。明は賄賂が幅を利かす国だ。王直は明国の役人との伝手をたくさん持っているのだ」
「『倭寇を退治するので、どこかの島の港を自由に使わせてほしい。そして、その島での密交易に目を瞑ってほしい』と、王直から伝手のある明の役人に賄賂を渡させて交渉させようかと思っている。倭寇退治が王直の手に余るなら、我らが手伝ってやれば良い。我らの正体がバレると困るから、船には王直の旗をいっぱい立てておけばいいだろう」
「その島が、王直の実質支配地になったなら、王直を通じて日本の産品を明に売ろうと思っているのだ。今までのように明の産品をありがたく買うのは止めるのだ」
「先の話になるが……1つの島が自由に使えるようになり、我らとの交易で銭が儲かり、海賊の部下も増え、船や武器も手に入るようになれば、王直はどうしたくなると思うか?」
「自分の自由になる実質支配できる島を、別の場所にも増やそうとするでしょうね。その方が交易をするには便利ですから」と信長。
「そう思うかどうかは王直しだいなのだが……我らとしてみれば王直を通じて、明に日本の産品をたくさん売ることができれる。それだけで大いに利があるのだ」
「しかも、彼らは東南アジアにも伝手を持っている。その伝手はもっと利をもたらす。日本の産品を東南アジアに売る時に、彼らの伝手が大いに役に立つだけでなく、東南アジアに我らの支配地を広げるのにも役に立つのだ」
「王直が自分の支配地を増やしたいと思うのであれば、別の場所の倭寇退治をやればいい。倭寇はたくさんいるからな。もちろん、役人を味方につけないといけない。役人を賄賂漬けにすれば味方になってくれるだろう。賄賂だけでなく、弱みを握っておく必要もあるかもしれないな」
「役人がウンと言わなければ、王直配下の海賊に、その倭寇の旗を立てさせて、沿岸部を荒らし回らせるのもいいかもしれませんね」と勘助。
「形だけの戦闘を行こない、倭寇退治をしたように見せかける方法もありますね。証拠が必要なら、別の場所の倭寇を捕まえて役人に差し出せば良いでしょう。その倭寇たちが怒って攻めてきたら、また役人と交渉……という具合にやっていけばいいのです」と勘助。
さすが勘助、よく分かっている。
明国の沿岸部には、結構大きな島がある。放っておけば、どうせポルトガルか、イスパニアが占領してしまうだろう。我が国がもらっておいてもいいだろう。
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