海戦について3
「船の大きさについてだが。明もヨーロッパも標準的な大型船の大きさは同じだ。明もガレオン船くらい大きな船を作ることができる。大型ガレオン船には最大400人くらいの乗員を載せることができるのだ」
「子供たちは、話を理解できているか?」
「ハイ」と元気な声が返ってくる。
まあ優秀な子供しかいないはずだ。大丈夫だろう。
「次はいよいよ海戦についての具体的な説明をするが、我が国では、寸や尺という単位を廃止し、ミリメートル、メートル、キロメートルにしていること、時間の単位も秒、分、時に統一を進めていることは知っておるな!」
「ハイ」と元気な声が返ってくる。
「では始めるぞ」
子供たちも海戦に興味があるのか、目が輝いている。
「船に搭載する大砲についての話をする。海戦における大砲は水平射撃が多い。しかし、海には当然波がある。高さ2.5m程度の波なら、水平から最大10度くらい船体が傾く。10度くらい船体が傾いた状態で200m離れると、上下に35m程狙いが狂うのだ。100mでも18mは狂う。名人級の砲手が、船の揺れを読みながら砲撃しても、200m以上も離れると敵船に命中させるのは難しいのだ」
「そうなると、遠くの敵船に弾を当てるには、たくさんの弾を撃つ必要がある。たくさんの弾を撃つためには船の数を増やすか、搭載する大砲の数が増やせばいい。だからガレオン船には、たくさんの大砲が搭載されているのだ」
「遠くから弾を当てるのは難しいが、20mくらいまで接近して砲撃すれば、敵船に弾を命中させることは難しくない。しかし高い操船技術が必要になる。しかも近づくということは、敵の弾も自分に当たり易くなる。近距離からの砲撃戦は消耗戦となるだろう。私ならその選択したくない」
「先ほどの話は、波のせいで上下に狙いが狂うという話だが、同時に左右にも狙いは狂う。また飛距離に合わせた火薬量の調整も必要となるだろう。いろいろ調整する点が多い砲撃戦は、砲手の能力勝負ともいえる」
子供たちも興味があるのか真剣に聞いている。
「大砲の弾は発射角度を上げていけば、最大で2000m近くは弾が飛んでいくだろう。しかし、大砲の有効射程は、せいぜい100mぐらいと考えるのが妥当だ。波が高ければ、その半分くらいだろう」
大砲の弾は丸いし、ジャイロ回転もかかってないから直進性が極めて悪い。実際にはもっと命中精度は悪いだろう。これは説明しても分からないだろう。
「我らは海戦において、なぜ大砲でなく大型ライフルを使うかというと、大砲よりも精度良く敵船に弾丸を当てられるからだ。大砲に照準器を付けても、簡単に向きを変えられないからな」
子供たちが頷いている。
「大砲の性能についての説明をしてきたが、海戦における大砲の使い方についての工夫は、それだけに留まらない。大砲をもっと上手く運用する船の陣形がある。単縦陣だ。縦一列に艦隊を航行させ、敵船の脇をすれ違う一瞬に、敵船に向けて大砲を撃つのだ」
「高い操船技術が必要になるが、効率良く敵船を破壊することができる。すれ違いざまに大砲を打ち終わった後は、航行速度を保ったまま離脱する。敵船から距離を取ったところで旋回、再び単縦陣による攻撃を行う。敵船が沈没するまで、単縦陣戦法を繰り返す訳だ」
「これをやられると、蝦夷丸も無傷では済まないだろう。船の操船技術勝負に持ち込まれてはならないのだ」
「定隆殿、操船訓練の状況はどうなのだ?」
「単縦陣で蝦夷丸を思った通りの進路に動かせます。もちろんキャラック船でも単縦陣をこなせます」
「敵味方の艦隊が、お互いに動きながらの海戦となる。敵船の進路の正確な予想はできているか?」
「キャラック船を相手に練習を積んでいます。敵の操船技術がどの程度か分かりませんが負けない自信はあります」
定隆が誇らしげにしている。
「期待しているぞ。まともに戦えば、海の上では操船技術と船速の勝負となるからな」
「ところで定隆、日本とヨーロッパの海軍強国が海戦を戦う場合には、具体的にどうしたら良いと思うか?」
「まず1番目は、風がなくとも動ける蝦夷丸の長所を活かします。敵が無風で動けない時に、戦を仕掛ければ負けることはありません。しかし敵もそのような油断はしないでしょう」
「2番目は、こちらの武器の長所を活かす戦い方です。大型ライフルは、陸では有効射程が1kmぐらいあります。揺れる海の上であっても、400mぐらい離れたところからでも、大きい敵船であれば的が大きいので、船体に穴を空けることぐらいはできます」
「船舷に大型ライフルをずらりと並べて、敵船から400mぐらい離れるような距離で、単縦陣戦法で攻撃すれば、敵からの砲弾を受けずに敵を沈没させることができます」
「ただし敵の操船技術が、我らより高く、敵砲弾が当たる距離まで上手く近づかれてしまうと、勝負はどうなるか分かりません。敵船の進路を予想しながら、こちらの船が目標とする進路を単縦陣で進むことができる操船技術を、何度も訓練しておく必要があります」
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