海戦について1
「治癒スキルを強化した『大治癒スキル』をそなたに与えても良いのだがどうする?」
さすが神様! 何でもできるのですね。
「国の統治、外交、防衛、殖産興業、海外遠征から、医療の発展、防疫体制まで、全て私がやるのは無理です」
「ところで私以外の転生者は全員死んでいると、以前に教えていただきましたが、生きている人は本当に1人もいないのでしょうか? できれば元の世界で医者とか、製薬メーカで薬を開発していた人とか、生き残ってくれると助かるのですが」
「全員死んでいるはずじゃ。そなただけが、奇跡的に生き残っているのは! いや……1人だけ生きておったな」
「その人はどこにいるのですか? すぐに迎えに行かせます」
「明智光秀という男だ。都で医師をしている。確かその男の転生前の仕事は医者だったと思うぞ」
「その男は、明智光秀という名前で暮らしておりますか?」
「明光と名乗っている」
「ところで、その人には何かスキルをお与えになりましたか?」
「本人から何も要望がなかったから、何も与えていないぞ」
「……分かりました。ありがとうございました」
やっぱりか〜! 戦国の世にスキルも与えられないで、良くこれまで生き延びてこられたものだ。さぞかし苦労しただろう。とにかく苦労している転生仲間なのだ、保護しなければ!
それにしても、明智光秀という名前が少し気になるな! しかし、中身は転生者だ。謀反とか気にする必要もないだろう。
いずれにしても、会って話をすれば、どんな人なのか分かる。今まで苦労してきたはずだからのんびり暮らさせてあげよう。
さっそく、調査隊に探させることにしよう。調査隊なら人探しはお手の物だろう。見つかったら、護衛の藤林保正に迎えに行かせることにしよう。とにかくお仲間に会えるかもしれないのだ。何か楽しみだ!
……海戦についての打ち合わせ……
日本が海外に進出するということは、とにかく海戦が主体になってくる。関係者の認識深めておく必要があるな。今回の会議は海戦についてとなる。いつもの4人に加えて、海軍大将の九鬼定隆も参加している。
それに加えて、次世代のリーダーとなる子供たち、山本重治、真田昌幸、九鬼嘉隆、木下秀長、嶋清興、島津家久、村上武吉も話を聞かせることにする。子供たちのモチベーションの向上に繋がってくれるとうれしい。
勘助、幸隆、定隆の3人は、自分の子供が気になっているようだ。いつもと違い少しそわそわしているように感じる。
会議に参加している子供たちは、勘助から丸い地球儀を見せられながら、東アジア、東南アジア、インド、アフリカ、ヨーロッパにおける主要国の位置関係、宗教、世界の現状について、昨日のうちに説明を受けている。
勘助によると、優秀な子供たちばかりなので知識の吸収が早かったらしい。
とはいうものの、我々の打ち合わせを聞いて、すぐには理解できないかもしれない。しかし、いろいろな経験の場を与えることが重要だ。この国のために、何としても次世代のリーダーを育てていく必要があるのだ。
「後ろの子供たち! 既に勘助殿から色々説明を受けたと思うが、概ね理解できたかな?」
「ハイ」と大きな返事が返ってくる。元気はいいな。今はそれが一番だ。
「これからの話は、初めて聞く話だろう。しっかりと理解してほしい。それと、ここで聞いた話は全て口外無用だ。そこは十分注意せよ。この場に呼ばれた子供たちは、我が国の次世代を担う人間なのだ。その認識と覚悟を持って励むように!」
「ハイ」と大きな返事が返ってくる。
「関船や安宅船は帆走もできるが、機動力が必要な戦闘時においては、櫓により移動する。機動力は関船が優れ、防御力は安宅船が優れている。一方、ヨーロッパのガレオン船は帆走しかできない構造となっている。搭載可能な大砲数だが、安宅船は10門、ガレオン船は40から50門だ。ガレオン船の方が搭載可能な大砲数は格段に多いのだ」
「関船や安宅船は船体の構造が弱いため近海でしか使えない。しかし、ガレオン船は船体の構造が強いため近海でも遠海でも使える。大きさも約2倍になる。」
「我が国における海戦は近海が主体だった。関船の機動力や安宅船の防御力を上手く活かし、船と兵をたくさん用意できた方が勝ってきたはずだ」
武吉が、少し誇らしげな顔をしている。
「しかし遠海の海戦においては、関船や安宅船は船体の構造が弱いため出番はない」
武吉が下を向いている。そんなにコロコロと態度に出したらダメだぞ! まあ、まだ子供だから仕方がないか。
「近海において、関船や安宅船とガレオン船との海戦が始まったとしよう。ガレオン船は敵船との距離を取り、大砲による攻撃を始めるだろう。船舷の片側に20門の大砲が搭載されている。10隻の艦隊なら、一度の砲撃で200発の砲弾を浴びせることができる。数打てば当たる方式だな」
「関船の機動力を活かし、砲弾を避けながらガレオン船に近づけるかどうかが、勝敗の別れ目となる。ガレオン船に近づき、帆を焼くか、接舷して白兵戦を制すれば勝ちとなる」
「しかし関船が近づこうとすれば、ガレオン船は距離を取ろうとするはずだ。距離を取れば再び砲撃を開始するだろう。安宅船は機動性が悪いからガレオン船には近づけない。海戦には必要ないかもしれないな。いずれにしても、どちらが有利とはいえない厳しい海戦となる」
「ガレオン船について補足すると、海戦だけでなく港や街を砲撃により破壊するために使われることもある。ポルトガル艦隊がインドでやったような使い方だ」
「子供たちは、海戦におけるガレオン船の戦い方について、もう少し掘り下げて想像できるようになったのではないか!」
「ハイ」と大きな返事が返ってくる。
「我が国では、キャラック船を尾張の造船所で作っていることを知っているな。今度見学に行くといい。それを大きくしたのがガレオン船だ。ガレオン船も造船所で作り始めているぞ。ただしガレオン船は大きいため、キャラック船と比べると操作性が悪いという問題がある」
「その代わり、大きくなったガレオン船には多くの兵を乗せることができる。また大砲をたくさん搭載できるという利点がある」
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