海外遠征のための作戦会議4
「そもそも交易というのは、国と国が交易の条件を取り決めて行うべきなのだ。商人は国が取り決めた決まり事に従って取引をしてもらわないと困るのだ。例えば、外国との金や銀の交換比率も同じにしておかないといけない」
「そうしないと、銀を買って金を売るとか、その逆を行うだけで莫大な利益が出てしまう。言い方を変えれば日本から、金や銀が国外に吸い取られてしまうのだ。外務大臣配下の内政官に、大急ぎで交易の条件や規則をまとめさせているところだ」
「また外国と交易を行えば、外国で発生した危険な疫病を国内に入れることになる。痘瘡にしても、元は大陸からやってきたものだ。儲かるからと気楽に交易をするのは実に危険なのだ。病気を国内に入れない仕組みづくりも必要だ。どうだ、やることが山積みで嫌になるな」
「まったくその通りですな」と、さすがの3人もこれ以上考えることが増えるのは、絶対無理という顔になっている。しかし、俺の話にここまでついて来ているのだから、やはりこの3人は傑物といえる。
それにしても、これから海外に進出するのなら医師が必要だ。防疫体制作りが必要だ。
痘瘡とは麻疹、黒死病、赤痢と、世界にはいろんな怖い病気だらけなのだ。
仮にそういう病気が、この狭い島国で大流行すれば、手に負えなくなる。新しき国作りとか、そんなことを言っている場合ではなくなる。大流行しなくても、そういった病気が国内のどこかで、絶えず蔓延しているだけでも、国としては大問題、大損害なのだ。
「話が逸れたが、松浦隆信については続けて報告してほしい」
「松浦隆信は商人になっておりました。また平戸には、明国の商人や、その商人たちが密交易するための海賊たちも住み着いております。彼らは明国からは倭寇と言われている連中です。そして、その倭寇の頭領である王直と言う者が、平戸におるようです。しかも王直は日本と明国の間を行き来しているようです」
「なかなか面白いな。つまり平戸は明との密交易の拠点になっているというのだな。海禁政策もへったくれもないな。王直を我らの支配下に置き、王直を支援することで、明での王直勢力を拡大させることはできないだろうか?」
「明に拠点を作っていくのですね」
「具体的には、王直の実質的な支配する港を増やしたいと思う。そうすることで、我が国と明との交易量を増やすことができる。もちろん密交易になる。しかし王直が面の顔になれば問題なしだ」
「王直に武器や船、あるいはお金を支援し、明の役人にも王直から、たっぷり賄賂を渡しながら、王直の実質的な支配する港を増やしていく作戦ですね。交渉材料が必要になるでしょうが、何とかなる気がします。交渉材料がなければ作ればいいでしょう。しかし、王直が途中で裏切った場合にはどうしますか?」と信長。
「その場合には、伝手を作った役人を通じて、倭寇退治をしてやるから、日本にどこかの港を自由に使わせろとか、どこかの島を割譲しろとか、交渉の余地があるのではないか?」
「王直たちを退治してしまうのですね。つまりどちらに転んでもいいということですか」と信長。
「酷い話をしているな……王直が可哀想になる。加えて王直に提供する武器は、我らが使う武器よりも性能が落ちる物にしておけば問題なしだろう。それと、明の役人との伝手に、我が国の人間も関わっておく必要がある」
「であれば、松浦隆信でしょう! もちろん彼がその気になってもらう必要があります」と勘助。
3人とも、こういうのが好きなのだな。生き生きとしている。まあ俺も楽しいのだけどね。
「とりあえず、本日はここまでにしよう。次回は王直と松浦隆信を連れて来てくれ。それとザビエルたちは平戸に拘束しておけ。罪人ではないので軟禁しておくだけで良いぞ」
3人が帰って行く。楽しかったけど、俺も疲れた。
「豊穣神様、いくつか教えてほしいことがあります」
「なんじゃ。言ってみよ」
レスポンスいいな! いつも俺は見られているみたいだな。俺のプライバシーはどうなっている!
「この日本内にも、いろいろな神がいらっしゃいますし、外国にもいろいろな神がいらっしゃると思います。豊穣神様と外国の神様たちとの関係は、どの様になっているのでしょう?」
「前にも説明したが、我ら神は数名で無数のパラレルワールドを管理しているのだ。我らは分体を作れるし、時間に縛られることなく場所を移動ができる。そのおかげで何とかやり繰りできている。しかし、管理すべき対象が多いためにとにかく忙しい。つまり、そなたが存在している世界を担当している神は私だけだけなのだ」
「過去に私の存在を感じることができた者が数名いた。あくまでも存在を感じにすぎない。彼らが私に対して抱いたイメージが、この世界に存在するいろいろな神として抽象化され、各地で信仰の対象となっている訳だ。教義はその者たちが考えたことで、私は何も関わってはいない」
「だから私は、日本専属の神様ではないぞ。外国の民が信仰している神も、元を正せば私になる。その私が良いと言っているのだ。好きなようにやれば良いのだ! そなたが聞きたいことは、そういうことであろう。外国の民も頼んだぞ!」
さらっと、外国の民も頼まれたけど、聞かなかったことにしておこう。そんなことまで押し付けられたら、エンドレスだよ! エンドレス!
「さすが神様、良くお分かりですね」
「それと……もう1つはですね、我らが外国に出ていけば、外国の危険な疫病、ペストとか赤痢とか、マラリアのような危険な風土病と遭遇することになると思います。場合によっては、日本の民が感染して数十万人が死んでしまうかもしれないのです」
「そういう状況になれば、海外に出ていくどころではなくなります。私には治癒スキルを与えていただいていますが、治癒スキルで助けられるのは数名です。どうすれば良いでしょう?」
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