とある旧大名家当主1
陸奥と出羽の大名たちに、日本の状況をしっかりと理解してもらうため。大きめの大名に消えてもらうしかない。米沢城にいる伊達家にしよう。伊達家は陸奥と出羽でネームバリューがある。それでも理解できないようなら、次は南部家あたりかな。
軍務大臣にした信長に指示しておこう。諜報本部長のオヤジが、伊賀特殊部隊の隊長の服部保長に指示すれば、数日で片がつくだろう。
もう陸奥とか、出羽とか、時代遅れの小大名などに関わってはいられないのだ。時間がない。領土拡張と国力増強を図り、ヨーロッパの強国と渡り合って行かないといけない。明とも、その次の清とも上手く付き合っていかないといけない。やることがいっぱいあり過ぎるのだ。
……米沢城……
既に伊達家の忍びも我らの配下なのである。伊賀特殊部隊100人は伊達家に見つかることなく城下に入り込む。見張りの兵はクロスボウで音もなく始末される。月明かりの下、伊達家の忍びの案内で、伊賀特殊部隊は米沢城の外曲輪への侵入を果たす。
そのまま本丸を囲う内堀に向かう。内堀を取り囲む特殊部隊100人が、本丸に向けてグレネード弾を撃ち込んでいく。百発以上のグレネード弾が打ち込まれ本丸が瓦解する。そのまま伊達家の忍びに案内され、伊達領を脱出した。
伊達家は消滅する。
一晩で伊達家の本丸が破壊された事実を知り、陸奥と出羽の大名たちは人質をつれ、急いで尾張の政庁にやって来る。
公共工事に沸く好景気な尾張では、庶民も小綺麗な服を着ているのだ。陸奥や出羽の大名たちも、それなりに上等な服を着てきたつもりだが、尾張の庶民と比べても、自分たちが見劣りしていることに気付くのだ。
自分たちが、時代に大きく取り残されたことをやっと実感する。陸奥や出羽の大名一族は、誰も下を向いたまま自信なさそうに歩いている。これでやっと戦国の世は終わった! 陸奥を北西州、出羽を北東州という行政ブロックにした。
……とある旧大名家当主の呟き……
今一番求められているのは、やはり内政官だ。今は、この国の仕組みを新しく作り直している時だからな。内政官はいくらでも必要だろう。
現在の状況だが、私には元大名家という肩書以外はなにもない。領地からの収入もまったくない。いずれ蓄えも底をつくだろう。名刀、名槍など売れそうな物は、全て売ってしまった。秘蔵の絵画、陶器もそろそろなくなるな。次は着物か、だがそれを売ると着るものがなくなるから困るのだ。
働いて銭を儲ければいいのだが、働く気になどならない。それはそうであろう! 元大名家の当主が、今更、農家、商人、職人なんかになれるはずがないだろう!
そうはいっても、誰かが働かねば食っていけない。息子たちに頑張って働いてもらうしかないのだ。どうせなら、やはり大名の息子は違うな……と周りが思ってくれるような高嶺の職についてもらいたい。そうでなければご先祖様に申し訳が立たないではないか。
しかしだ……内政官になるには、優秀な成績で文官学校を卒業しないといけないのだ。この文官学校だが、なんと農民や商人の子供も通うことが許可されていうではないか! もっと驚くことに、女も通っているらしい!
嫌らしいことに、文官学校は身分や性別を問わず、完全な実力主義らしいのだ。成績が悪いと席順まで変えられてしまうのだ! 農民や商人より後ろの席になったらどうするのだ! 恥ではないか! 生きていけないぞ。切腹しないといけないぞ。
厳し過ぎるぞ! 元大名にもっと優しくできんのか!
農民や商人の奴ら……頼むから元大名の職を奪わないでほしい……少しは遠慮するという気持ちはないのか? 我らは、本当に困っておるのだ! 昔は楽で良かった。大名の子供に生まれれば、何もしなくても家臣たちが手とり足取り何でもやってくれたのだぞ!
そういえば、この国の名前は日本という名になったらしい。公家たちは、この国からいなくなったという。天子様はいらっしゃるらしいが、この国を実質的に動かしているのは大執政官様だそうだ。
この国も、いろいろ変わったものだ。ついていけないぞ!
尾張には、この国の政を行うための政庁ができている。この政庁には、文官学校を首席で卒業した若者だけが採用されるとか……優秀な子供を持った親が羨ましいのう。
それにしても、これからどう生きていけばいいのだ……今まで私は何をしてきたのだ! 武家の教養として身につけていた四書五経などの教養は不要らしい。愕然としたぞ! あんなに苦労して諳んじてきたのは何だったのだ。
そういった教養が不要となれば、我らは読み書きができるだけの人間でしかない。しかも、計算などは身分の低い商人がやるものだと、バカにしてきたから計算ができないとくる。
驚くことに……旧北畠家の領地で育った子供たちのほとんどは、読み書きも計算もできるらしいのだ。悔しいことに大名家の子供より数段優れているという。何だそれは!
この先どうすればいいのだ、とにかく息子たちには死ぬ気で頑張れと言ってはいる。言ってはいるがこの息子! 私を見て育ったせいか、はっきり言ってダメだ……そもそも親がダメなのに息子を責めることなどできない。
そうだ……農民の子供だろうが、商人の子供だろうが、優秀な子供を養子にしてしまえば良いではないか? これは名案だぞ……これは……フフフ。
今なら、元大名家というのも価値があるに違いない。優秀な子どもが養子になってくれるかもしれないではないか。そうだ! 絶対に上手くいくはずだ。
私の孫の世代になった時、元大名家ということに意味があるかどうかも分からない。生き残るために、使えるものは使えるうちに使っておこうじゃないか。
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