尼子家2
「こんな奴らに構うな。全速で出雲に戻るぞ。数で押し通れ!」
やがて日が暮れてくる。相変わらず毒矢が飛んでくる。攻撃してくる奴らが、大した人数ではないのも分かっている。しかし将や兵の精神が蝕まれていく、突然大声を出して、将に切り捨てられる兵も出てくる。
「落ち着くのだ! 敵は少人数だ。大軍である尼子軍が負けることなどない。数で突っ切ればいいだけだ!」
ありがたいことに月明かりがある。このままゆっくりとでも山道を進むしかない。将も兵も疲労困憊なのは分かっている。休ませたいが山の中では忍びが襲ってくる。忍びの奴ら。覚えていろよ。やはり、あいつらは信用できない! 下賤なる者め!
尼子軍は、夜を徹してひたすら行軍を続ける。気を抜くと倒れてしまいそうだ。山道を抜けたぞ! 平地に出たぞ! これでもう忍びは攻撃できないはずだ。やったぞ。とにかく自領に帰ってきたのだ!
将も兵も座り込んでいる。もう限界の様子。
「暫し、休むぞ」
返事が弱々しい!
山道での度重なる忍びの攻撃で、約2割の兵が離散してしまった。総兵力は既に15000人に減ってしまった。だが……まだ軍の規律は保たれている。尼子の農民兵は戦慣れしているのだ。
それにしても義鑑め、奴の銀山を絶対奪ってやる。農民兵は良く頑張ってくれた。税を下げてやろう。あいつらは、それで十分だろう。それよりも1刻でいいから休みたい……
もう昼か!
「飯を食ったら。城に向かうぞ」
少し元気が戻った兵たちを連れて行軍を進める。遠くに見える平場に、蝦夷王国軍らしき者たち陣を組んでいるのが見えるではないか! 尼子領は平らげられてしまったということか! この野郎! 許さんぞ!
参謀の山本勘助は、遠くに見える尼子軍をじっと観察している。
我が兵は15000人。尼子軍を見る限りほぼ同数だ。忍びの攻撃を何度も受けた割に尼子軍はしぶとい。尼子の兵は強い。隙を見せれば、こちらがやられてしまう。石見国の5000人が間に合って本当に良かった。
……蝦夷王国軍の陣容……
参謀は山本勘助、大将は森可成、将は丹羽長秀、佐々成政、池田恒興、前田利益。兵の内訳はライフル隊5000人、槍隊8000人、爆弾クロスボウ隊2000人である。陣形は
緩い鶴翼の陣だ。敵が中央を突破しようとすれば、左右の陣が敵を包み込む。敵軍を包囲し、1人残らず殲滅しようというものだ。
鶴翼の中央にライフル隊5000人、左右の翼に槍隊4000人ずつ、その槍隊の後方に爆弾クロスボウ隊が1000人ずつ展開しているのだ。ライフル隊の指揮官は森可成、槍隊の指揮官は池田恒興と前田利益、爆弾クロスボウ隊の指揮官は丹羽長秀と佐々成政である。
……尼子軍の陣容……
大将は尼子晴久、将は本城常光、宇山久兼、立原幸綱、多胡辰敬、牛尾幸清だ。兵の内訳は、弓隊2000人、槍隊13000人である。
陣形は、鶴翼に展開した敵陣の弱いところを、勢いで食い破ろうとする縦深陣だ。
弓隊を左右に1000人ずつ配置し、中央に槍隊を3000人ずつ、縦に4段を並べている。最後尾の槍隊4000人は尼子晴久が自ら率いている。弓隊の指揮官は多胡辰敬と牛尾幸清、槍隊の指揮官は本城常光、宇山久兼、立原幸綱だ。
……尼子晴久……
敵味方の軍がお互いに睨み合っている。晴久も敵陣にどこか弱点はないか目を凝らして観察を続ける。敵の中央部は、最近では中国地方の大名たちも戦に使い始めたという、鉄砲を多量に揃えているように見える。
そういえば尼子家にも、畿内の商人が鉄砲を売りに来ておった。実際に試射するところも確認した。だが、1発撃てば次弾を装填準備するのに時間が掛かるというのが気に入らなかった。
しかし、鎧を撃ち抜く威力は捨てがたいとも思った。買うかどうか迷うところだ。家臣たちの意見を聞いてみた。戦では使い物にならぬという意見ばかりが返ってきた。
それにしても敵は、使えもしない鉄砲を随分と揃えたものだ。約5000丁はありそうだ! 銃の数を増やしたのは、時間をずらして銃を撃たせることで、見かけ上の装填時間を縮めようと考えたのだろう。工夫したものだ!
しかし煙はどうする。商人の試射では煙がかなり出ていたぞ。でかい団扇があるようにも見えない。5000人の兵が一斉に撃てば、兵の周囲は煙だらけになる。前が見えなくなるはずだ。
であるなら我らは、敵の弾丸を3枚重ねた盾で防ぎながら、少しずつでも敵陣に近づいていけばいい。鉄砲隊が弾を装填している隙を見て、煙の中を一気に突撃すればいいのだ。煙の中では、弾など大して当たりはしない。さらに踏み込み、敵陣に入り込んでしまえば、もはや鉄砲は役に立たない。
鶴翼の羽を閉じられたとしても、2陣、3陣と強引に兵を送り込めば、中央の陣を突破できる。要は、勢いで中央部を突破してしまえばいいだけだ。そもそも、鉄砲攻撃を主力にしたということは、敵の武の練度は高くないということでもある。
良し、これなら勝てる!
「目標は中央の鉄砲隊、盾を3重に括り付けたものを横に連結し、先頭の兵に持たせろ。中央に攻撃を集中し、敵陣を一気に食い破るのだ!」
……戦闘が始まる……
盾兵を先頭に、本城常光が指揮を取る尼子軍最強の槍隊3000人が、中央部のライフル隊に向かってじわじわと前進する。
森可成がライフル隊に射撃体勢を取らせる。本城常光の槍隊とライフル隊の距離が近づいていく。可成は、敵の槍隊が射程距離に入ったと判断し、ライフル隊に弾幕を張らせ始める。後陣の勘助の合図で、左右の槍隊が敵の槍隊を包み込むように翼を閉じ始める。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
……本城常光……
敵は弾を連射している。弾幕も切れることがない。弾を撃っても煙などほとんど出ていない。しかしも弾の威力が強力だ。弾数も多い。既に兵に持たせた盾はボロボロだ。いずれ盾は壊される。どうする? 時間がないぞ!
それにしても、商人が売りつけに来た鉄砲などとは、全く違う代物ではないか!
いや! あの時から戦は始まっていたのか……何だ……こいつら。このままでは……負ける……尼子は終わる!
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