大内家3
……大内義隆……
評定でいつも喚き立てる面倒な島津家と毛利家が、遅れることになったとは清々する。貴久などずっと倒れておれ……何なら死んでも良いぞ。九州の大名たちも、全て死んでくれると助かるのだがな。
いかん、いかん、現実逃避はダメだ……まずはいかにして尼子を悪者にするかだ。そこをしっかり考えなければ! 尼子家が仕組んだ証拠を捏造しないといけないな。そして、我らも騙されて困っていたことを、涙ながらに後奈良天皇に訴えよう。石見の銀は少しでいいかもしれぬな。
九州の大名たちには、仕方がないから銀を渡すことにするか。しかし銀はなくなるし、私の面目は丸潰れだ。義隆は、大名たちへの対応を考えるだけで頭が一杯で、自分たちが攻撃されることなど、考えを及ぼす余裕もなかったのである。
「今日はここで、休むとしよう。明日の早朝に出発だ。大名たちに伝えておけ」
……翌日早朝……
周防国が近くなったこともあり、西軍の大名たちの頭は褒美のことばかりが浮かんでくる。当然、足取りも自然と軽くなるというものだ。褒美は銭なのか、金なのか銀なのか、領地なのか、考えるだけで幸せな気分でいっぱいだ。
大名たちは、横目に厳島を見ながら、もう少し歩けば周防に付く。褒美だ! 銭だ! 領地だ! それしか頭に浮かばない。
その時……大きな船が前方から迫ってくる。この艦隊は危険だ! 将も兵も、彼らの第六感が警鐘を鳴らし続ける。頭に浮かぶのは死の文字。誰かが早く逃げろと叫び始めた。逃げろ……殺されるぞ……と叫んでいる!
大きな船から、何かが上空にたくさん打ち出されている。何なのだ、あれは……
トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン!
打ち出されたものが、近付いてくる! それが地面に当たり、次々大爆発が起こる。
ドドーン! ドドーン! ドドーン! ドドーン! ドドーン! ドドーン!
大きな音とともに、将が、兵が、バラバラに千切れて吹き飛ぶ。砂埃が舞い上がる。
砂埃の中で、将も兵も襤褸切れのように吹き飛ばされる。何が起こっているのだ! 動かなくなった死体が次々横たわる。
将も兵もパニックだ。自分たちに近づいてくる大きな船から逃げようと、全員が東に向かって走る。逃げろ、逃げろ、死にたくない。
全員パニック状態だ。倒れた兵などお構いなしに踏み付け、蹴飛ばし、ただ恐怖で、脇目も振らず走る。
恐怖が支配する空間で、将も兵も無意味に死んでいく。自分だけは助かりたい。こんなところで死ぬのは嫌だ。褒美などもうどうでもいい……逃げたい! 逃げたい! 死にたくない! ただそれだけだ。
あ〜! 今度は、東側からも大きな船が迫ってくる。その大きな船から、同じように何かが上空に打ち出される。
トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン! トゥーン!
もうダメだ!
山に逃げ込もうとした奴も、間に合わず吹き飛ばされている。東の方に、島津家と毛利家の兵が見える。まだ整然と陣を保っているじゃないか! 助かったぞ。あそこに逃げれば何とかなるぞ!
「オーイ。早く逃げろ〜」
島津家と毛利家の陣を超えれば、平地が広がっている。化け物船のいる海から離れられる! あの化け物船から逃げられる!
「何をしている! おまえたちも逃げろ〜! 殺されてしまうぞ」
島津家と毛利家は、静かに陣を組んだまま動かない。
なぜだ……あいつらも殺されてしまうのに!
「おまえら、逃げろ〜! 何をしている! 殺されるぞ」
叫んでいた男の胸に、無常にも矢が突き刺さる。
「我らは味方だ! なぜ矢を射る!」
その言葉は届かない! 次々に矢が飛んでくる。どうなっているのだ、もうダメだ、ここで死ぬのか?
兵たちは、諦めて座り込んでしまう。
逃げてきた兵が、ほとんどの討ち取られた後、なぜか島津家と毛利家の陣が左右に広がる。通してくれるのか! ありがたい! とにかくこれで国に帰れる。
将も兵も、もうこんな物などいるものかと、刀も槍も投げ出す。故郷に向けて必死に走る。ひたすら走る。刀も槍も何の役にも立たなかったじゃないか! 心の中は恐怖しかない。蝦夷王国は、怖い! 殺される! 怖い、怖い、逆らわないから、もう許してくれ!
砲撃が停止する、土煙が消えていく。そこに立っている者は誰もいない。何も動かない。死体の中には剣術や槍の達人と呼ばれた者、名の轟く名将や勇将もたくさんいる。身に付けた武も名声も、何の役にもたたなかった。ただ、ただ、無意味に死体が並ぶだけだ。
その様子を見ていた島津家と毛利家では、将も兵も震えが止まらない。こんなものは戦ではない……これは……地獄じゃないか。小さい頃から磨き上げてきた武と武で競うのが戦ではないのか?
毛利家も島津家も……臣従が遅れていたら、ここで死体になっていたのか……
蝦夷王国には……三蔵には……絶対逆らわない。嫁がどうのとか、もうどうでも良い。黙って従えば良いのだ。言われる通りに動けば良いのだ。
蝦夷丸のデッキから、戦いの様子を眺めていた村上海賊衆も、攻撃が始まったところから終わるところまで、ピクリとも動けなかった。何かを言葉にすることもできない。ただ、ただ、人が吹き飛ばされ、殺されていくのを眺めているだけだった。
喉が乾いても、唾すら飲み込むこともできなかったのである。
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