大内家2
……大友義鑑……
これは、まずいことになった!
責任は全て、義隆に押し付けるとしても、手ぶらで豊後には帰れないぞ。九州の大名たちを煽って、石見の銀をしこたまいただいて帰るしかないか! 義隆の奴め。おまえに運がないからこういうことになるのだ。この貧乏神が!
……大内義隆……
「周防から戻って来た者たちに、上等な酒と食事を与えよ!」
「感謝いたします。この上なき幸せにござる」
義隆は小姓を呼ぶ。
「分かっておるな、体が痺れるほど旨い酒を出すのじゃ。意味は分かっておるな?」
「ハハ〜、承知いたしました」
ほ〜、小姓の奴め、手が震えておるではないか。可愛いの〜。お気に入りの小姓じゃ。今夜は可愛がってやるとするか。
「軍議じゃ、大名たちに招集をかけろ」
「ハハ〜」
……半刻後……
軍議が始まる。
大名たちは、何事が起こったのかと険しい顔になっている。
「皆の者、お集まりいただき感謝する。先ほど周防御所から連絡が来たのじゃ。都の朝廷が負けを認めたそうじゃ。他愛もないな。勝負はついたのだ。方仁殿下から皆の者に褒美を与えるそうじゃ。至急、周防御所に戻らねばならぬ」
「ウォー! ウォー!」
集まった大名たちは、満面の笑顔となる。勝ち馬に見事に乗れたことを、皆が大声で喜び合っている。
人の苦労も知らないで、大喜びしやがって……
どうする……周防でこいつらに銀を渡してやれば、渋々ではあるが国に帰ってくれるはずだ。しかし後奈良天皇にも銀を渡さないといけないな。石見の銀はどれくらいあるのだろう。何かいい方法はないか。いっそ大名たちには毒でも飲ませるか!
全く悩ましい。そうだ! 今回のことは、全て尼子家が仕組んだことにすればいい。そうしよう。それがいい! 義鑑と話し合おう。お互いに利があるから大丈夫だろう。そうなると、尼子家にこのことを知られてはマズいな。
我らは、非を悟り引き返した。しかし首謀者である尼子は我らが諌めるのも聞かず、後奈良天皇を殺めようと行軍を続けたという筋書きだ。我ながら名案ではないか! 知らせてやるのは、奴らが摂津城に攻め掛かっている最中だ。これで良い!
……毛利元就……
何かを仕掛けると思っていたが、2日前になって忍び速達便と名乗る忍びから、大内一族、二条晴良様と公家衆、足利義晴様以下の室町幕府の生き残りを全て始末したとの連絡が届いたのだ。
毛利元就は、始まったな……と思った。
島津殿にも連絡は届いていると思うが、恐ろしいの……ここまでやるのか。ずっと昔より続いてきた権威など、一切認めないということなのか!
文の続きには、西国軍が厳島の対岸を移動する際に、厳島の裏側に隠した軍船を使って砲撃を行う。毛利家と島津家は適当な理由を作り、行軍の最後尾に移動しておくようにと指示されている。
もたもたしておれば、我らも一緒に殺されてしまうではないか!
文の続きには、毛利家と島津家で安芸国側に陣を張り、安芸方面に潰走してくる兵をできるだけ打ち取るべし……となっている。……忠誠を示せということだな?
ただし、皆殺しにはするな……とも書かれているな! そうか、将や兵に恐怖心を持たせたまま、自国に帰らせたいのだな。その次の……布石のためにか!
送られてきた文には、事細かく指示が書いてあるのだが……我らはまだ人質も送っておらぬ。随分と人を信用するものよな……裏切ることは考えていないのかな。玄武王らしくないではない。甘過ぎるではないか!
いや違う……蝦夷王国にとって、毛利家や島津家など、どうでも良いのだ。いつでも裏切って構わないぞ。まとめて始末してやるということか。怖いの〜。我らは言われた通りに動くしかあるまい。
それにしても、我らはどうでも良い存在なのだな。悔しいの〜。しかし、どうにもならぬ。とにかく、もたもたしていれば砲撃で死ぬことになる。急いで島津殿と話し合いをしなくては、隆景を打ち合わせに行かせよう。
……14日後、大内義隆……
なるべくゆっくり行軍させてきたのだか、とうとう安芸国まで来てしまった。遠くだが厳島がぼんやり見える。周防まであと少しではないか。ああ〜。憂鬱だ。それにしても義鑑の奴! 尼子が仕組んだことにしようと持ちかけたらすぐに同意しやがった……信用ならないな! こいつは!
……大友義鑑……
義隆の奴! 尼子家が仕組んだことにしよう……とか……汚すぎるだろ。このことを尼子晴久に知らせて恩を売れば、大友家と尼子家で口裏を合わせ、全ての責任を義隆に押し付けられる。義隆など信用できるか! クソ野郎め!
そうだ! 逆賊とされた大内家の所領に、後奈良天皇に先陣を賜り、尼子家と大友家で東西から攻め込めば、我らは所領を増やせるかもしれぬではないか。そうじゃ。そうじゃ。今回のことは、満更失敗ではなかったかもしれぬ! 災い転じて何とやらにすればいいのだ。
私が送った使者は、晴久のところにたどり着いただろうか?
……毛利元就……
さすがに周防に着けば、大名たちも何が起きたのか分かるだろう。大内義隆の奴め。焦っておることだろう。
昨日のうちに島津貴久は義隆に使者を送り、体調を崩していると伝えたようだ。打ち合わせ通りだな。ここは安芸の国だからな……予想通り儂が呼ばれたわ。
「元就殿、貴久殿が体調を崩したそうじゃ。どこかで医師を手配できないだろうか?」
「おお〜、それはお困りでしょう! お任せください、今すぐに医師を手配させ、明日早朝には来させるようにします。しかし薬を調合する時間が必要になると思いますので、島津家とともに毛利家も、1刻半ぐらい送れて出発させていただきます。申し訳ござらぬ」
「無理をする必要はないぞ」
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