周防御所を潰せ2
天文19年(1550年冬)19歳
周防御所に、九州の大名たちが軍を引き連れて次々と集結している。その数は3万人に達しようとしている。集まった大名の当主たちのところに、周防御所から公家がやって来る。田舎の大名であっても、公家とは高貴なる存在だという認識くらいはある。しかし、公家というものに会ったことのない者だらけなのである。
緊張しながら使者となった公家を上座に据える。これから高貴なる存在に何を言われるのか、田舎の大名たちは期待に胸が膨らむばかりである。上座に座る使者から「恐れ多くも、方仁殿下の特別の計らいである。御所への参内を特別に許す」と伝えられる。
御所には、恐れ多くも方仁殿下がいらっしゃり、伝説の三種の神器もあるというのだ。夢のような話に、九州の大名たちは感激で胸がいっぱいになるのである。九州の大名たちは、期待を胸に緊張しながら御所の門を潜る。公家衆に手際よく案内され、大きな広間に大名たちが次々と座っていく。
暫くして「関白殿下がいらっしゃいました」という声が聞こえてくる。大名たちは一斉に頭を下げる。しばらくして、上座の二条晴良から大名たちに声が掛けられる。
「遠くから良く集まってくれた。感謝しておるぞ。聞いておると思うが、京の朝廷が有する三種の神器は真っ赤な偽物なのじゃ。真の三種の神器は、この周防御所にある。では、真の朝廷はどちらであろうかの〜! しかもこの御所には、恐れ多きことながら、皇太子である方仁殿下がいらっしゃる」
「その方たちの力で、殿下に天子様となっていただきたいとは思わぬか! 殿下は、そなたたちに大いに期待しておられる。そこでじゃ、周防御所に集まってくれた大名の方々に、特別に殿下より官位を授けることが決まったのじゃ。ありがたく受け取られるが良いぞ!」
官位を証明する書付を、公家たちが所作美しく当主たちに渡していく。九州の片田舎を領する小大名たちは、感激のあまり泣いているものもいるのだ。
安いものよな〜。1銭も掛からずに我らの兵が手に入ったではないか! 晴良は、大名たちが感激する様を見ながら薄ら笑いを浮かべるのである。
「摂津城には、蝦夷王国軍2万が我らを待ち構えておるそうじゃ。皆のもの、もう一度言うぞ! たったの2万じゃ。しかも北畠家は畿内と四国に兵を貼り付けておるため、摂津城に兵を回すことはできぬぞ」
「それに対し我らは、この周防だけで3万、さらに尼子家を中心として、中国勢5万が西軍に加わるのじゃ。合わせて、我ら西軍は8万となるぞ」
「8万と2万じゃ、最初から勝負になるまい。しかも北条家、豊穣家、三好家も既に内応を約してくれておるのだ!」
下座の大名たちから、「オ〜」という声が上がる。集まった大名たちは、勝利を確信したようだ。
……集まった大名たちは考える……
北畠家の莫大な領地が西軍のものとなれば、我らへの褒美はすごいことになろう。遠くから無理矢理に兵を引き連れてきた甲斐があったというものだ。此度は、最高の当たりクジを引き当てたようだ。
広間に座る大名たちは、皆がホクホク顔になっている。
続いて、晴良の斜め前に座る足利義晴が言葉を発する番だ。大名たちの視線が義晴に集まる。
「将軍職を仰せつかった足利義晴である。我は大内義隆殿を副将軍に任命する。そして西軍の大将は大内義隆殿、副将は大友義鑑殿と尼子晴久殿である。各方、ご依存はないか!」
「依存なし!」
大名たちの声も元気がいい。大内家、大友家、尼子家には勇将、名将ぞろいと聞く。これ程に楽な戦があろうか。皆が勝利を確信しているのである。
「では各方! 4日後に出立とする。万端、準備を整えるべし」
「承知いたしました!」
大名たちの大きな声が広間に元気良く鳴り響く。久々の晴れ舞台に義晴も満足そうである。続いて、義隆が立ち上がる。大名たちの視線が義隆に集まる。
「大内義隆である。東に向かい摂津城を落とす。さすれば内応を約した北条家、豊穣家、三好家の兵が、必ずや畿内に駆けつけてこよう。北畠家と蝦夷王国は、既に終わっておるのだ。聞くところによれば、奴らは大量の銭を溜め込んでおるらしいのだ!」
大名たちから、またも「オ〜」という声が上がる。今迄で最高に大きな声だ。
天井裏から、オヤジたち3人がニヤニヤしながら評定の様子を眺めている。
お前らが幸せなのは分かる。分かるぞ! 今の幸せを存分に味わっておくがいい。
……4日後の出立日……
太鼓の音とともに、3万の兵が移動を開始する。その様子を、オヤジたち3人が遠くから眺めている。
安芸の国に入るのは、5から7日後ぐらいというところか。しかし、さっさと安芸の国まで移動してくれ……こっちは、この後も仕事が盛り沢山なのだ。
「大内家と毛利家の忍びに至急集まれと伝えよ。年寄と子ども以外は全員だぞ」
忍者速達便の忍びが伝令に走って行く。彼らは走りに特化した忍びなのである、とにかく走るのが早い忍びが集められているのだ。
……それから3日後……
大内の忍びと毛利の忍びが、特殊部隊が待機している山中に集まって来る。年寄と子ども以外は、全員集まれと知らせておいたので、随分とたくさんの忍びが集まって来ているようだ。
大内と毛利のそれぞれの忍びの頭と、特殊部隊の隊長たちに、オヤジたちが仕事の手順の説明をする。
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