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戦国時代の忍者に転生させられちゃいました。しかたないので伊賀を救い、日の本の民も救います。  作者: ゲンタ


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公家勢力の迷走2

……翌日の夜更け……


忍びたちから晴良の文を渡された方仁みちひと殿下だが、躊躇いなく誘いに乗ることを決断する。次々に流れてくる噂を耳にし、我はこのために生きてきたのか! これが自身の運命なのだと誇らしく思うのだ。早く我がいるべき場所、周防に行きたい。逸る気持ちを抑えきれずにいる。


大急ぎで身支度を整え、身の回りの世話をする数名とともに、忍びたちが用意した輿に乗る。警備の忍びたちには事前に知らせが入っている。邪魔一つ入らず都を後にすることに成功する。


事前に準備しておいた寺で一泊したものの、信じられないくらいの順調さで、摂津の国も抜けることができたのだ。


一行が摂津から播磨に入ろうとする時、野盗の集団50人に囲まれてしまう。方仁みちひと殿下の乗る輿を背にして、忍びたちが一斉に防御態勢を整える。


格闘の末、数名の忍びが軽い傷を負ったものの野盗を撃退に成功する。そのまま忍びたちは殿下を護衛しながら、暗くなった山陽道を西に向かって移動する。忍びたちにとって、運んでいる殿下などどうでも良かった。


周防に殿下を無事に連れていけば、玄武王様のお役に立てる。ただそれだけであった。


晴良に命じられた播磨の大名家まで、方仁みちひと殿下を届けることができた。殿下が城の門を潜ったところで、大名の門番の態度が一変する。


「下賤な忍びなど、さっさと消えてしまえ!」


どうも自分たちの仕事はこれで終わるのか? いや終わらせていいのか? 玄武王様のために、方仁みちひと殿下を周防に無事届けないといけないのだ。


「我らは周防まで、お連れせよと当主様より命を受けております。我らが去って良いのかどうか? ご確認ください。お願いいたします」


そのまま門の前に全員で控える。しばらくして、さらに態度の大きな家臣がやってくる。

「忍風情が、生意気なことを言っておると聞いたぞ! 我らが殿下を周防までお連れすることが決まったのだ。分かったなら、さっさと消えろ!」


大名にとって我らなど、所詮こういう存在なのだ。我らが、なぜこんな奴らの言うことを聞かないといけないのか? 蔑まれないといけないのか!


「これから我らは、身を隠しながら輿を守るぞ!」

皆の顔を見る。やはり悔しそうだ。


「百道様、服部様、藤林様から『世の中が変わるぞ』と言っていただいた。我らは世の中を変える手伝をしているのだ! 無事に方仁みちひと殿下を周防にお連れするのが、玄武王様から依頼された仕事なのだ。我らは、玄武王様のために励むのだ!」


「ハイ!」

忍びたちがうれしそうに返事をしてくれた。しかし、我ら忍びの存在など、殿下も大名も忘れ去っているだろう。


その後、山陽道の大名たちによる丁重な警護リレーにより、方仁みちひと殿下は大内家に無事到着するのである。


方仁みちひとは気分がいい、周防が光り輝く新天地に感じられる。上座に座る方仁みちひとに対して、晴良が恭しく天叢雲剣あめのむらくものつるぎを披露する。


「これこそが、本物の天叢雲剣あめのむらくものつるぎでございます」


方仁はその剣の綺麗な積層紋を見て、これは本物の天叢雲剣あめのむらくものつるぎだと疑いないと確信する。


「これは何と神々しい剣だ。京の都にある天叢雲剣あめのむらくものつるぎなど、全く比較に成らぬぞ。これこそが本物天叢雲剣あめのむらくものつるぎに違いない」


麿のもとに天叢雲剣あめのむらくものつるぎあり……麿こそが真なる天皇なり……方仁みちひとは心が踊るのを感じる。最高の気分だ。これさえあれば、父である後奈良天皇も、麿に頭を下げるしかないのだ。


「晴良、残り2つの神器はどうした」

「ご覧くださいませ! この通り揃っております。安心くださいませ」


フン、こんな若造など、自分の思いのままよ……ただの傀儡に過ぎぬ……と晴良は心の中で何度も思う。


「京に残る公家どもに麿から文を送ろう。本物の三種の神器が揃う周防こそ本物の朝廷である。官位が欲しくば……早い者順だと伝えておこうか。晴良! 西国の大名どもにも、麿のもとに参集せよと知らせておくのじゃ」


「これは何と、小気味良い。方仁みちひと殿下! この晴良、感激いたしましたぞ」

「晴良! その方を誠に頼りにしておる。これからも我を支えてくれ。頼むぞ!」


『これで三蔵に勝てる』と方仁みちひとは思った。

理屈ではなかった、父に信頼されている三蔵が憎かった。自分の代になったら、北畠家の将軍職は取り上げ、蝦夷王国も滅ぼしてやるつもりだった。


晴れ晴れしていく気持ちとは裏腹に、ひょっとすると何か大きな間違いを、失敗をしているのではないかという気持ちが湧いてくる。上手く話が進み過ぎているような気もする。


しかし、もう元に戻れないところまで来てしまった……考えてもしかたがない。前に進むしかない! 後がないのだ!


天文18年(1549年秋)18歳


都の公家たちがヒソヒソ話をしている。


「『赤間関の海岸から三種の神器が打ち上げられた』と噂には聞いておったが、何と方仁みちひと殿下まで周防に行かれてしまったというではないか。三種の神器の噂は本当で間違いなかろう!」


「それに……そなたは知っておるか? 都の寺の仏像の目から、赤い涙が流れ出たそうなのじゃ。それも1体どころではないそうじゃ」


「それは、それは、周防の御所にある三種の神器が本物であることは間違いない! 安徳天皇と一緒に三種の神器が海に沈んだという話は本当だったようじゃ。安徳天皇の霊が、早く周防御所に来いと言われておるに違いない。血の涙とはそういう意味だ!」


話が大掛かりになればなるほど、人は信じ込み易い。国家規模の嘘は、誰も嘘とは思わないのと同じだ。まあ、元の世界でも同じか……


公家たちが集まり、ボソボソ小声で囁いている。


方仁みちひと殿下から文が届いたというお方の話では、官位は早いもの勝ちだそうなのだ。麿もこうしてはおれぬ! 都の家屋敷を全て売払い、周防まで行くための路銀を作らねば……早く周防に行き、金になる官位と職をいただかねばならぬ!」


こうして1人の公家が動き始める。釣られて数名の公家が釣られて動き始める。やがて、皆が行くのなら自分も行かなきゃ……となり、それが大きな流れとなっていく。


公家の屋敷や家財を買い上げて銭を渡し、その流れを後押ししているのは、もちろん正直屋傘下の商人たちだ。戻る家がなくなれば、彼らも踏ん切りがつくというものだろう。もちろん、公家の屋敷や家財は二束三文で買い上げるけどね。


買い上げた土地はどうするかな。そうだ大内家に高値で売りつけるか? いや、その必要はないか。奴の財布である石見の銀山は、どうせそっくりいただくからな。


ここまで、お読みいただきありがとうございます。


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