公家勢力を弱体化3
「後奈良天皇と第一皇子の方仁殿下との不仲を知れば、晴良は大喜びだろう。勇んで殿下に文を送ることだろう。何度も！ 何度も送るだろう！ 晴良が知らないようであれば、忍者撹乱隊を使って周防に噂を流してやればいい」
「方仁殿下に送る文面には、不仲を煽るための言葉が、巧妙に散りばめられるはずだ。それを殿下は、どうお考えになるだろうか？ 殿下の心に取り入る隙ありと判断したならば、晴良はどう行動するだろうか？」
「殿下に周防の朝廷の天皇になってもらうべく奔走し始めるでしょう。そういう動きが見られたなら、殿下の警護はどうしますか？」と信長。
「殿下を都から連れ出す命令は、大内とか毛利に使える忍びに下されるだろう。彼らは既に我らの配下だ。そういう状況になってきたなら警護を緩めておけばいい」
「既に後奈良天皇とも不仲であるなら、方仁殿下に嫌われている我らが、どのようにお諌めしても、聞く耳などもたないだろう。全ては方仁殿下の判断に任せるしかならないだろう」
「方仁殿下が下向すれば、蝦夷王国を認めたくない者や、官位を少しでも上げたい公家たちは、間違いなく西の朝廷に向かい始めるでしょう。様子見だった者も加わり、大きな流れが始まると思います。その大きな流れに乗らねばと、西国の大名たちも気持ちが動くことでしょう」と信長。
「そうなると東の朝廷は、公家がスカスカ状態になってしまうな。窮する後奈良天皇はどうするだろうか？」
「周防の偽朝廷を討てと、将軍家に命じるでしょう。しかし近畿と四国を臣従させたばかりの幕府は、近畿と四国から兵を間引く訳にはいきません。結局、頼む先は蝦夷王国、つまり娘婿である玄武王様となりますね」と勘助。
「依頼があれば、蝦夷王国で西の偽朝廷討伐を行おう。その際に、方仁殿下以外の公家、足利家の残党、西の偽朝廷に集結する大名は全て始末させてもらう」
「後奈良天皇から依頼がきた時、朝廷と国家のあり方を後奈良天皇と話をしようと思う。公家は2家ぐらいを名誉職として残し、天皇には『君臨すれども統治せず』の存在になっていただきたい……というような話をしようと思う。どう決断されるかは、後奈良天皇しだいだ」
「名家に生まれただけで、何のために自分たちが存在するのか、公家自身も分からなくなっている。また、朝廷に従っているフリをしながら、大名たちは国の土地を勝手に自領とし、好き放題なことをやっている。今のこの国の体制はデタラメなのだ」
「長い歴史を持つ天皇家という存在には価値がある。天皇という存在は大事にしつつ、国を守り、民の暮らしを豊かにすることができる組織が必要となる。私腹を肥やす組織ではなく、国のために命を賭けて働く組織が、国を運営するべきなのだ。その代表は大執政官とでもすれば良い」
「分かりました。そこから先は我らにお任せください。詳細な戦術は我々が考えます。しかし、面白くなってきましたな」
3人が頭を下げ、ニコニコしながら退出していく。
天文18年（1549年夏）18歳
長門の国、赤間関の海岸に、漆塗りの細長い木箱が打ち上げられる。海岸で貝を拾っていた子供たちがそれを見つけるのだ。
傷つき、朽ち果ててはいるが、今まで見たことのないような高貴な箱なのである。子供たちは、大急ぎで村長のところに報告に走る。村長は、赤間関で沈んだ船のお宝に違いない。誰かに盗られたりしては大変だと、村人数名とともに大急ぎで海岸に向けて走る。
細長い木箱が無事なことに村長は安心する。しかし細長い木箱以外にお宝がないことに、少しがっかりする。村長はじっと箱を観察する。その箱は所々が擦れて削れてしまっているが、菊の模様が金箔で描かれているのだ。
村長に、菊の模様がどこの家紋なのかは分かるはずがない、しかしどこかの大名の家紋であるに違いないと考えた。こんな物に関わって、領主に処罰されては困ると思った村長は、大きな寺の住職にその箱を預ける。
寺の住職は、菊紋は天皇家の紋であることを知っている。こんな厄介なものをこの寺に置いておく訳にはいかない……と判断した。赤間関を治める領主のもとに、急いで箱を届けたのである。
そんなこんなでその箱は、大内家の当主である大内義隆の眼の前に置かれているのだ。そして義隆の横には二条晴良が座っている。箱に天皇家の紋が入っていることから、箱の中身を確認するに当たり、晴良に立会を求めたのである。
晴良の腰巾着をしている公家が、恭しく箱の蓋を取る。中には1振りの剣が入っている。思わず晴良は立ち上がり箱に近づく。その剣を鞘からするりと引き抜く。刀身には見たこともない綺麗な積層紋が浮き上がっているのだ。晴良は内心、狂喜乱舞する。
本物かどうかなど、どうでも良い。この剣を、安徳天皇とともに海底に沈んだ天叢雲剣であることにすれば、三種の神器の一つを我らが手に入れたことになるではないか！
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