四国の臣従2
「待て! 待て! それは、どういうことだ!」
「先ほど申し上げましたが、もう一度言います。自領においてはご自由にお過ごしください。しかし、自領から一歩でも外に出た場合には命はありません。以上、この2つだけです。簡単なことです。高貴な公家殿にも、ご理解いただけましたか?」
「そのようなこと、朝廷が許すと思うか?」
「抗議の使者が、無事に朝廷にたどり着ければいいですな」
房基は震えで立つこともままならない。
どうすれば良い! どうすれば良いのだ! 要らぬことを言ってしまった。どうれば!
「分かった。分かったぞ! そういうことであるなら。土佐一条家は領地全てをその方たちに売っても良いぞ! 20万両ではいかがかな?」
「いりませぬ。お帰りください」
「おのれ、このままで済むと思うなよ」
北畠の兵2万に見張られながら、房基と公朝は自領に戻って行く。
土佐一条家の城に戻った2人は、さっそく土佐一条家と西園寺家の家臣や農民を可能な限り徴集する。負ければ後がない、村が空になるまで動員をかけてみたが5000人を掻き集めるのが精一杯だった。老人や女、子供も混じっていた。
もう少し待てばもう少し増えるかもしれないが、大して増えないだろう。相手は2万なのだ、勝てるだろうか?
「房基殿、兵の数が違い過ぎます! これから2人で詫びをいれましょう。謝って許しを請うしかありませんぞ」と公朝。
この期に及んで、公朝の奴は泣き言か! 震えて命が惜しいなら大名になどなるな!
「公朝殿、今更そんなことができますか! 見たところ、敵は鉄砲を大量に用意している。しかし、あんなものは役に立ちはしない! 麿のところにも商人が売りに来たことがあるのだ。実際に試射もした。あれは、使い物になるような武器ではない」
「良いか! 鉄砲というのは、一発撃てば、次を撃つまで時間が掛かるダメな武器なのだ。農民兵を間も空けずに、次々突撃させればこちらの勝ちではないか」
「なるほど! であれば農民兵を突撃させておいて、敵味方入り混じったところで、我らが自慢の斬り込み隊の勝負に持ち込めば、勝てるかもしれませぬ!」
房基の号令で農民兵の突撃が始まる。
「将も、兵とともに突撃せよ。死を恐れるな。怯むやつは切り捨てるぞ!」
ずらりと並んだ敵のライフル隊に、最前列の農民兵から突撃させる。
ウォー! ウォー! ウォー! ウォー! ウォー! ウォー!
「怯むな! 一発撃てば、次を撃つまで時間が掛かるのだ。突撃しろ! 走れ! 止まるな!」と兵を励ます。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
一瞬のうちに最前列の農民兵が倒される。
農民兵の後ろに隠れていた将が再度命令する。
「怯むな! 次を撃つまで時間が掛かるはずだ。突撃しろ! ここに留まれば切り捨てる!」
農民兵は突撃を続ける。
ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!
最前列の農民兵がまた倒される。今度は、隠れていた将も倒れる。
意味もなく殺されるだけじゃないか! もう嫌だ! 農民兵が逃げ出し始める。戦場を恐怖が支配し始める。房基も公朝も恐怖で何も考えられない。
早く、早く、城に逃げなければ……
考えることはそれだけだ。家臣たちと共に、狂ったような勢いで城に逃げ込もうと走る。公朝と近習も、それぞれ自分の城に向かってひたすら走る。すでに刀も兜も放り投げている。体裁など、誇りなど、どうでもいい。
城に逃げ込むことができたものの、房基も家臣たちも震えが止まらない。
「城の防備を固めろ」
それを言葉にするので精一杯であった。
両家の領地から、誰も外に出られないように、既に忍者警備隊による包囲網が、山間部にできあがっている。街道には厳重な関が設けられている。包囲体制は十分だ。
朝廷に苦情を訴えるべく、数十名の腕自慢の家臣たちに山越えをさせようとしたが、忍者警備隊たちに、リボルバーとグレネードランチャーで壊滅させられる。勘助は、土佐一条家と西園寺家の米倉を全て焼き払うように、忍者撹乱隊に命じる。
飢えれば、領内で一揆が起こる。
そのまま、1ヶ月が経過する……
土佐一条家も西園寺家も空腹に耐えきれず、農民たちが冬を越すために蓄えていた米に手を出してしまう。農民の不満に火が付く。
各村では、忍者撹乱隊が『どうせ死ぬのなら、城でたらふく食っている奴らを道連れに死のう』と、飢えた農民たちを煽っている。武器も配布している。とうとう大きな一揆が起こる。一揆勢に蹂躙されて、両家はこの世から消滅したのだ。
長慶のもとには、土佐一条家と西園寺家で起こっていることが、次々と知らされてきている。戦のやり方が違う。強い! 臣従しておいて正解だった。
天文18年(1549年冬)18歳
勝瑞城に大将の勝家と兵2万を残して、勘助と長慶は安土城に戻った。
長慶も内政を学ぶために大急ぎで学校に戻る。遅れを取り戻さなくてはならない。学校では、臣従した大名家の者たちが、目の色を変えて必死で勉強しているのだ。三好家の当主だったことなど学校では通用しない、落第は2年間しか許されていないのだ。
まったく、よく考えたものだ……と、長慶は感心する。
三好家を新しい体制の中で埋没させないためには、三好家から優秀な卒業生を多くの輩出していく以外にない。そのためには、自ら学校で懸命に学び努力する姿を、一族や家臣たちに示す以外にないのだ。苦しいが、自分が引っ張って進んでいくしかない。
ひたすら努力する長慶の姿に、一族の者や松永久秀を始めとする有力な家臣たちも、次々学校に入学する。分からないところはお互いに教えあう。三好家は、一丸となって頑張るのである。
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