四国の臣従1
「土佐一条家も西園寺家もそんなところでいいだろう。ところで勝瑞城に送る兵3万をまとめる武将は誰にする?」
「柴田勝家にしようと思います」と信長。
「若い武将は戦を多く経験しなければ一人前にはなれない。勝家のもとで、なるべく若い武将に経験を積ませるようにしてくれ。兵3万の軍師は勘助にお願いする」
「政治的な判断が必要になる仕事だ。勝家は勘助の指示に従うよう厳命してくれ。それと長慶も一緒に行ってもらおう。その際に……ないとは思いたいが、長慶が不審な動きをしたと判断すれば、勘助の判断で長慶を始末していい。俺の許可など不要だ」
天文17年(1548年冬)17歳
摂津と四国の間に海があるものの、蝦夷丸によるピストン輸送で、北畠軍の輸送はスムーズに進んでいく。四国の地理が分かる三好兵も北畠軍に組み入れ、12月中旬までに勝瑞城に計4万の兵が集結する予定となっている。
「兵を集めながら、臣従条件を承諾した上で臣従に応じる大名は、人質を連れて年明けそうそうに挨拶に来るべしという書状を、忍者速達便で四国の全ての大名に送ってくれ」
文を受け取った四国の大名たちはどうするだろう? 畿内の大名と同じであれば楽なのだが。四国は小勢力な大名ばかりなので大丈夫だとは思うのだが。
天文18年(1549年冬)18歳
年が明けるとすぐ、勝瑞城に四国の大名たちが人質を連れて続々集まってくる。評定の間では、上座の一段高いところに勘助が座り、その前に左右に別れて長慶と勝家が座っている。その前には、北畠家の主だった武将たちが勘助たちを守るように座っている。
「皆の者、よく集まってくれた。ここにお集まりの方々は、臣従の条件を受け入れた上でこの場に来たということでよろしいかな?」と長慶。
集まった大名たちは、無言のまま頭を下げている。長慶は、異論がないかしばらく待った。
「それならば、隣の部屋に事務方が控えている。そちらで詳細な説明をしっかりと聞き、その内容に則って行動してもらいたい。しばらくは、その方たちの行動は監視させていただくことになる。悪く思わないでもらいたい」と、信長が安土城で述べたのと同じ口上を、長慶が大きな声で伝えるのだ。
長慶に仕切らせたのは、四国で大きな勢力を保ってきた長慶に恥をかかせないためだ。長慶は心の中で、勘助の配慮に感謝する。
大名たちは次々と隣の部屋に移動して行く。しかしながら、隣の部屋に移動することなく、席に残っている者が2名いる。土佐一条家の当主、一条房基と西園寺公朝である。
「麿は、三位中将である。その方たち! 麿に上座を譲れ! 無礼ではないか」
「お待ちくだされ。土佐一条家にも西園寺家にも、通達を出してはおりませんぞ。本日は、いったいどういった御用で、お越しになられたのでしょうか?」と長慶。
長慶は、せっかく自分に花を持たせてくれ、この場を仕切らせてくれた勘助の好意を台無しにされた気がした。腹が立っていた。
「この四国の仕切りを、土佐一条家と西園寺家に断りもなしに進めて良いと思っておるのか? 無礼であろう!」
とたんに北畠家の武将たちから殺気が湧き上がる、殺しそうな目で房基を睨んでいる。ポンと手でも叩かれれば、一気に斬り殺されそうな雰囲気なのである。長慶も、ものすごい形相で睨んでいる。
殺気がジリジリと房基の肌を刺す。
しかし、ここで怯んでは末代までの恥だ! 声が震えそうになるのを何とか誤魔化して大声で叫ぶ。
「ちょ、朝廷には許可は得ておるのだろうな!」
公朝は、もはや後ろでひたすら震えているだけだ。
「武家のことは武家が決めます! ですから、我らと関係のない土佐一条家や西園寺家には、お知らせしておりませぬ」と勘助が冷静に言葉を発する。
勘助も苛立っていた。しかし感情を抑えていた。
「ほ〜……では、土佐一条家も西園寺家も思うようにやって良いということだな?」
「その通りです。ただし、自領の中だけですぞ。我らに臣従した大名の領地に、許可なく1歩でも足を踏み入れれば、その場で成敗いたします。領地に住む農民、僧侶、商人の誰であろうとも、我らに臣従した大名の領地を通行することはできません。ご注意ください」
「忘れておりました。商人は全て我が手のものでしたな。迷惑を掛けないように全て引き上げさせます。他に何かございますか? なければ、くれぐれもお気をつけてお帰りください」
「皆のもの! 土佐一条家と西園寺家がお帰りだ! ご当主を、兵2万にて土佐一条家と西園寺家の領地まで丁重にお送りせよ」
家臣たちから「承知しました」という野太い声が上がる。
最初の一声までは元気の良かった房基も、もはや顔面蒼白となる。足が震え始めている。
要らぬことを言ってしまったかもしれぬ……
このままでは、土佐一条家も西園寺家も領地ごと牢屋に入れられたようなものだ。それに商人が来ないとなれば、外から食べ物も着る物も領内に入ってこないぞ。もしも米が不作にでもなったら、我らは飢え死にしてしまうではないか。
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