畿内の大名
「まだ話を深めて行きたいがここまでにしておこう。それぞれが今後の戦略を考える際、今日の話を役立ててほしい。ところで我が国を取り巻く状況を知った上で、西国の大名をどうすれば良いだろうか?」
勘助と幸隆は少し難しい顔をしている。将軍になって13ヶ国を支配下にした信長。権力を持ってしまったこの男が、この国のあり方をどう考えるのか気になっているのだ。権力は人を変えるからな……俺だってひょっとしたらという気持ちがない訳ではない。
「この国を早急に蝦夷王国としてまとめ上げましょう。何も分かっていない朝廷にお伺いを立て、決裁を待つような悠長なことをやっていては、ヨーロッパの強国と渡り合うどころか、飲み込まれてしまいます。我が国の統治を蝦夷王国に一本化し、軍事、外交、内政を盤石に整えなければ、我が国の未来はありません」
信長が決意を込めた意見を述べてくれた。
「そのためには、玄武王様のもとにすべての権限を集中しなければなりません。小さい大名だろうが、大きな大名だろうが、こんな島国で、個々の領主が兵を持ち、勝手気ままに領地を支配していたのでは、ヨーロッパの強国に勝てません。彼らが国王のもとに、一枚岩になって襲いかかるのであれば、我らもそれ以上の結束を示さねばなりません」
信長の気持ちが聞けて、俺、勘助、幸隆も安心した。権力を持っても信長は変わっていなかった。
「ここにいる4人は、同じ考えということでいいか?」
「その通りでございます」と、信長、勘助、幸隆が力強く答えてくれた。
「我が国を取り巻く話は、まだ我ら以外には漏らさないでほしい。要らぬことを考える輩が現れるかもしれないからな」
「幸隆、忍者調査隊に調べさせてくれたと思うが、西国大名で、残しておいても良さそうな大名一族はいるか?」
幸隆は一瞬考え込みながら、静かに答える。
「毛利元就とその息子たち、それと島津貴久とその息子たちくらいでしょうか」
「毛利家と島津家は、土地の領有を認めず、役職と仕事に見合った収入を銭で支払う――という臣従条件に従うだろうか?」
「最初から、彼らを残すことありきで考える必要はないでしょう。従わないなら潰せばいいし、従ったとしても手柄は立てさせない方が良いかと思います」と勘助。
頼もしいね、我が軍師。サクサク方針が決まっていく。
「では元の話に戻す。放っておけば西国の大名たちは、将軍家である北畠家に、いち早く臣従することで、自分の領地の安堵を求めてくるだろう。こちらとしては、当然無条件で臣従させる訳にはいかない」
「当然我らの求める臣従条件を突きつけることになる。そうなった場合だが、条件を受け入れて臣従する大名は、どれくらいの割合いるのだろう?」
「まずは試してみましょう。北畠家の兵を安土に集結させた後、畿内の大名に、土地の領有を認めず、役職と仕事に見合った収入を銭で支払う――という臣従条件を突きつけてみましょう。その臣従条件を飲めるものは、14日以内に安土城に当主が人質を連れて来るべしとしましょう」と信長。
「その結果を見れば、条件付きの臣従を突きつけられた場合、西国の大名たちがどう反応するのか予想できるのではないでしょうか。もちろん、期限を守らなかった大名には特殊部隊を送り、問答無用で一族郎党ごと始末させましょう」
秋になり、安土城に北畠家の兵を集結させる。
その数5万、常備兵なので収穫の秋とか関係ないし、逆に畿内の農民兵主体の大名は兵を動かせない時期となる。
忍者速達便により、畿内の大小を問わず全ての大名に、指定する条件で臣従すべしと、将軍名で文を送る。室町幕府がやっていた御内書の様式を踏襲したりはしない、体裁が気に入らなければ臣従してもらわないでいいのだ。
その結果だが、予想とは異なり畿内全ての大名が安土城に人質を連れて集まったのだ。臣従条件を飲んでも臣従するしかないと、ほとんどの大名たちが判断したようだ。
まともな判断というよりも、畿内の大名は浅井家、朝倉家、六角家、一向宗や比叡山が、どうなったのかを見ているというのもあるのだろう。恐怖を感じているのかもしれない。
集まった大名たちは、すべて当主が人質を連れて来ている。しかし三好家だけは、松永久秀が人質を伴わないで1人で姿を現している。
大広間では、一段高い席に信長が座り、その手前には北畠家の家臣団が、信長を護衛するかのように、集まった大名たちを睨みつけて座っている。
「皆の者、よく集まってくれた。ここにお集まりの方々は、臣従の条件を受け入れた上でこの場に来たということでよろしいでしょうか?」
集まった大名たちは、無言のまま頭を下げている。信長は、異論がないかしばらく待つ。
「であれば、隣の部屋に事務方が控えておる。そちらで詳細な説明をしっかりと聞き、その内容に則って行動してもらいたい。しばらくは、その方たちの行動を監視させていただくことになる。悪く思わないでもらいたい」
人質を連れた大名たちが次々と隣の部屋へ移動していく中、松永久秀だけがその場に座り続けている。
信長は久秀に目を向け、冷ややかに問いかけた。
「さて、三好家は何をしに来られたのかな?」
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