ヨーロッパの強国5
「イスパニアは、東南アジアにも来ているのだぞ。27年前に、アメリカ大陸のずっと南の、この辺りを通ってイスパニアの4隻の艦隊がやって来ている。艦隊の指揮官はマゼランといい、このセブという島に上陸している」
「マゼランは、セブ王や近隣の島の王たちを、イスラム教からキリスト教に改宗しようとする。いつものやり方だ。しかしそれに反発した王に殺される。蛮族だと甘く見たのだろうな。生き残った船員たちは、インド、アフリカ南端と、ポルトガルが見つけた海路を通って、イスパニア本国に戻って来る。船で世界を1周できることが知られてしまう」
「知ってもらいたくないことが、ヨーロッパの国々にどんどん知られてしまう。東南アジアにとっては大迷惑な話だ」
「その後イスパニアは、再び6年前に4隻の艦隊を組んで同じ場所にやって来る。この地図にあるルソン島、サマール島、レイテ島、ミンダナオ島の存在を確認するのだ。『自分たちが発見した島々は、イスパニアが領有していい』というポルトガルとの協定により、イスパニアは発見した島々を自国の領土だと宣言する」
「そして島々をフィリピン諸島と名付ける。フィリピンという名前は、イスパニア国王フェリペ2世の名前に由来する。つまりフィリピン諸島とは、フェリペ王の島々ということなのだ」
「フィリピン諸島を東南アジアとの交易拠点とすべく、より安全な航路を見つけながら、数年のうちには多くの艦隊を率いて、フィリピン諸島全てを征服に来るだろう」
「ついでに言うと、今から200年以上前に、東方見聞録という旅行記がヨーロッパ諸国に伝わったそうだ。そこには黄金の国ジバングと記されているらしい。ジバングとは我が国のことだ。金や銀がたくさんある我が国は、ヨーロッパ諸国にとっての夢の国、垂涎の的になっているのだ」
「まったく、余計なことをする奴がいるものだ、ヨーロッパ諸国は我が国の金銀を狙ってくるに決まっている」
3人ともびっくりした表情で聞いているが、信長が怒ったように大声で言う。
「もう、とっくに喉元に刀を突きつけられているではありませんか! それにこの国は、領地争いばかりしていて、国としての形もできていません。九州辺りの港など、インドと同じで、簡単に占領されてしまうではないですか」
「彼らは九州の民を奴隷にして、港を要塞化し属領にしてしまうでしょう。いや、九州をそっくり征服されてしまうかもしれません!」
「我が国にとって有利な点が1つある! それは、ヨーロッパと我が国が離れていることだ。ヨーロッパ勢力がこちらに大艦隊と大兵力を送るにしても、距離が遠すぎるため、アメリカ大陸のようにはいかないのだ」
「例えば我が国から、船でこのヨーロッパ大陸に向かおうとすれば、まずはこの琉球国、次に台湾島、またはルソン国か、この澳門あたりで、水や食料を補給しながら、このマラッカ海峡を抜け、インドの港を目指すことになる」
「さらに、このアフリカ大陸の複数の港で何度か補給しつつ、この地球儀のヨーロッパ大陸の西端、海軍強国であるポルトガルの港を目指すことになる。キャラック船で、ざっと1年はかかるだろう」
「我が国が、もしもインドやアメリカ大陸の近くにあれば、とっくに征服されているだろう。そして我ら4人は奴隷にされているか、殺されているだろうな」
「侵略で国力を上げ、強国となったポルトガルとイスパニアの2国は、世界地図にこんな具合に線を引く。ここから右はポルトガルのもの、左はイスパニアのものという取り決めだ。その線引きに関わる国には何の断りもないぞ。その線引きされた地域の中に、もちろん我が国も入っている」
「そうやって大きな力を持ったヨーロッパの強国によって、いずれこの世界に存在する国々は、ほとんど占領されてしまうだろうな」
「我らはこの国の東側をほぼまとめているが、『我らと交易をしませんか? 大儲けできますよ。キリスト教に改宗するのであれば、鉄砲だけでなく大砲も売りますよ。そうすれば無敵ですよ! 代金が足らないなら、領民を売ってもらってもいいですよ』と、ポルトガルが西国の大名と交渉すれはどうなると思う?」
「国とは何かも……分からないバカ大名です。直ぐに飛びつくでしょう。危険です。しかも、我が国の民が海外に奴隷として売られてしまうでしょう」と勘助。
今まで俺が話してきた内容は、この時代の日本人が知りえない知識だ!
こんなことを話してしまっていいのだろうか?……多少気になるところはある。だがこの3人には、全部言っちゃいました。
でないと……何で俺が急いで国をまとめようとしているか理解できないはずだからだ。少なくとも信長には、知っておいてもらいたい。
この時代の人に任せましょう……とお願いしたにも関わらず、却下したのは豊穣神様だからね。俺の思うようにやらせてもらう。
そもそも、日本という国は、大航海時代の波に乗り遅れないように、自国の支配圏を広げ、特に石油資源などを確保しておくべきなのだ。そうでなければ、前世の日本のように、世界の決められてしまった枠組みの中で、身を縮めて生きていくしかなくなるのだ。
俺も、そんなに長くは生きていないだろう。自分というイレギュラーな存在がいるうちに、未来の日本のために、できるだけ頑張っておきたい。
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