ヨーロッパの強国3
「そんな欲まみれの航海を、いろんな奴らが何度も繰り返していく。さぞかし多くの船が沈んだことだろう。しかしその過程で、アフリカ大陸の西海岸を移動する航路が見つかっていく。地図が出来上がるのだ」
「命が懸かっているのだ、航海の度に船体や帆の構造も改良されていく。操船技術、羅針盤を使った航海術などもどんどん進化していく。人の欲というのは際限がない。だからこそ、その欲がいろいろな技術を進化させていく」
「ここまで、どう思った」
「確かに、人の欲が技術を進歩させた訳ですね。その欲により、他国の民が不幸になったということでもありますね」と勘助。
「船や航海術の進化は、その国の民には幸せをもたらした。しかし他国の民を不幸せにしてもいいという理由にはならないだろう」
「もしもアフリカの国が、ヨーロッパ諸国よりも強ければ、アフリカの民は食い物にされなかっただろう。しかし奴らの武器は銃と大砲だ。それに対してアフリカの民は、猟に使う槍と弓だ。勝つことは難しいだろうな」
「弱き国の民は、不幸になるということですね」と勘助。
「そうなるな。自国の民を不幸にしないためには、他国から自国を守る力を持っていなければならないということだ。民を豊かにすることと同時に、武器の開発や、戦術の研究もやり続けないといけないということになるな」
3人が頷いている。
「ヨーロッパの国々も我が国と同様、これまで飽きるほど、戦を繰り返してきたはずだ。その過程で武器、戦術、築城技術が進化してきている。兵制も、刀、槍、弓、騎馬を組み合わせるやり方から、銃や大砲を主体にするやり方に変わってきているのだ。船には大砲が備え付けられる」
「玄武王様が、刀、槍、弓を組み合わせるやり方から、ライフル銃や砲を主体とするやり方に兵制に切り替えられたのは、そういうことでしたか」と信長。
「勘助は築城のことをよく研究していると聞いている。ついでだが、西洋の城はこんな風な星形をした要塞に代わってきている。こういう形であれば防衛上の死角がないはずだ。また大砲による攻城戦に合わせて、城壁も厚く設計されるようになってきているのだ」
俺は、鉛筆で絵を書いて説明する。
「これは興味深い形状ですな。自分でもいろいろ絵を書いて研究することにします。新しき事を知ることができてうれしい限りです」
「では、話を続けよう。オスマン帝国を経由しないで、天竺や東南アジアのスパイスを手に入れることのできる新たな海路を探すという話だったな」
「今から約50年前に、ポルトガル国王から任命されたガマという人物が、天竺のヴィジャヤナガル王国南部にある、カリカットという港湾都市に行くことのできる航路を発見する。カリカットの王や、イスラム商人にしてみれば『発見されてしまった』と言いたいだろうな」
「カリカットは天竺の南、胡椒が多く集まる港町だ。東南アジアからスパイスを船で運ぶ航路の中継地点の役割を果たしている。天竺に行くことができる航路を発見したおかげで、ポルトガルは胡椒を手に入れることができるようになる。その後、ポルトガル人は天竺のことをインドと呼ぶようになるのだ」
「暫くするとポルトガルは、インドの胡椒、東南アジア産のスパイスを自国で独占しようと考える。キリスト教と敵対するイスラム商人と、共存共栄したくなかったのだろう。厄介だな」
「さっそくポルトガル人は調べたのだ。イスラム商人たちが乗っている船は小型のものがほとんどであること、船には大砲や銃も載せていないこと、インドの兵たちの兵制も、銃や大砲を主体とするやり方に切り替わっていないことだ! 調査した結果、インドでは、自分たちが最強だということが判明する」
「ガマは2回目の航海では、20隻の大砲で武装した艦隊でカリカットにやってくる。さっそく始めたのは、イスラム商人の船の襲撃と金品の略奪だ。同時にカリカットの王には、イスラム商人との取引を禁じるように要求する」
「カリカットの王は当然断る。交渉が決裂したことで、ガマはカリカットを砲撃。街を破壊する。攻撃する口実を作るため、わざと無理な要求をしたのだと思う。自分たちで港や建物を破壊しておいて、港から王や住民がいなくなったのだから、自分たちが港を使っても問題なし。「ここは自分たちの港だ」と主張し、カリカットの港を占領するのだ」
「酷い話だと思う。その後、イスラム商人が交易拠点としている港を次々攻撃していく。イスラム商人の交易船をインドの沖合から締め出すとともに、インドの沖合を通行するための手形も作る。つまり通行税を徴収するようになるのだ」
「今から約39年前、それに怒ったマムルーク王朝と、インドのグジャラート王国は連合艦隊を結成し、ポルトガルの艦隊と海戦を決行する。海戦の結果は、ポルトガルの艦隊の勝利となる。お互いの戦力を分析して、勝つことが分かって喧嘩を仕掛けていた訳だから、ポルトガルが勝って当然だろう」
「海戦に勝利したポルトガルは、インドのビジャープル王国と戦いながら、このゴアという港町に要塞都市を築いていく。その要塞を、スパイス交易を独占するための拠点にする。ポルトガルの領地がまた増えたのだ。その後も、インドの西側からアラビア半島に向けて、主要な港をポルトガルの領地にしていくのだ」
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