ヨーロッパの強国2
「今まで話してきたことが、我が国とどう関係してくるか、大いに気になるところだろう! その前に、我らが住む地域がヨーロッパの国々から、どう呼ばれているか説明しておく」
「明国や我が国がある地域は、ヨーロッパから東アジアと呼ばれている。ずっと南に下がって、このルソン国、アユタヤ王国、マジャパヒト王国、ブルネイ王国、マラッカ王国……などは東南アジアと呼ばれている」
「話を続ける。先ほどオスマン帝国が、アラビア半島のメッカとメディナを征服したと話した。オスマン帝国が征服した場所には、ウマイヤ王朝から分裂したマルムーク王朝というのがあったのだ」
「マルムーク王朝からは、天竺や東南アジアに向けて盛んに交易船が出ていたのだ。その交易により、天竺で採れる胡椒という香辛料や、東南アジアで採れる香辛料を手に入れていたのだ。交易により手に入れた香辛料は、さらに地中海を交易船で運ばれ、ヨーロッパで販売されていた」
「香辛料のことをヨーロッパではスパイスと呼ぶらしい。スパイスを肉料理に使うと、塩を振って焼くだけのものと比べると肉の旨さが格段に増す。そのためヨーロッパでは、その香辛料が飛ぶように売れている」
「我が国では、四つ足は食うなとか言っているが、ヨーロッパでは主食として普通に肉を食べている。そのため、いろいろな肉料理がある。スパイスが手に入ったら肉料理を作ってみようか? 美味しいぞ」
「その際には、是非我々にも食べさせていただきたい」と、3人が頷いている。
「話を続ける。人気があるスパイスは、ヨーロッパにおいて当然高値で取引されるようになる。特に胡椒は大人気だ。天竺で購入した胡椒はヨーロッパでは、数十倍の価格で売れる。マルムーク王朝は、さぞかし儲かったことだろう」
「マルムーク王朝のイスラム商人たちは、この天竺、東南アジア、東アジアも明国まで交易範囲を広げていた。その過程で東南アジアの国々では、イスラム教が広まっている。他の宗教を排除しないというのが、イスラム教が広まった原因かもしれない」
「そこで、マルムーク王朝を滅ぼしたオスマン帝国に戻る。オスマン帝国が地中海の制海権も握ってしまったことで。ヨーロッパの国は、マルムーク王朝の商人から購入していたスパイスが、オスマン帝国の商人からでないと手に入らなくなるのだ」
「オスマン帝国としては儲けどころだ。売ってやってもいいが、高い税金を払えとなる。その結果、元々高いスパイスの値段がさらに跳ね上がることになる」
「やがて、ヨーロッパの貴族たちでさえも、胡椒が手に入らなくなる。それでは困るから、オスマン帝国を通らないで、天竺や東南アジアに行ける新たな海の道を探し始めたのだ。王もやる気だし、商人たちも大儲けできるため、やる気満々となる」
「話が長くなったな。茶でも飲むか」
「そうですね。しかし豊穣神様が夢枕で語られたという話は勉強になりますね。しかも面白いです」と3人がニコニコしている。
豊穣神様の話ではないです。前世の俺の知識だけどね。
茶を飲み終わり、話を続ける。
「天竺に向かう新たな海の道を探すとなると、当然、陸から遠く離れた海まで航海する必要がある。今まで航海してきた近海や、地中海のような内海であれば、そんなに丈夫な船でなくても航海ができた。しかし、その遠海まで航海するとなれば、大波に揉まれても壊れない、大きく丈夫な船が必要になる」
「だったら丈夫な船を作れば良いとなる。しかし大きくて丈夫な船を作るにはお金が必要だ。しかも船を何隻か作ろうとすればなおさらだ。船主は大きな資金が必要となる。だが、そんな大きな資金を貸してくれる商人などそうそういない」
「しかし大きな資金を、複数の船主に貸し付けることができる商人がいたのだ。彼らは、国を問わず裕福な金持ちたちから大量の金や銀を預かるのだ。もちろん、金持ちたちから絶大な信頼を受けているからこそできることだ」
「彼らに預けた金や銀という資産は、無くなることなく、必ず増えて戻って来るという信用だな。その信用のお陰で、国王、大貴族、教皇、オスマン帝国皇帝といったところからその商人に、凄まじい資金が集まってくるのだ」
「預かった資金は、目利きした儲かりそうな事業に、高い利子を取って貸し付ける。その利子により預けた資金が増えていくのだ。もちろん商人も儲かる」
「話は少しずれるが、元々キリスト教では『お金を貸して利息を取る』ことを禁止いていたのだ。つまりキリスト教徒は、金貸し業はできなかった。一方、ユダヤ教では『お金を貸して利息を取る』ことを許されていた。つまりその商人はユダヤ教徒という訳だ。ユダヤ商人には金貸し業で財をなした商人が多いのだ」
「現在では『お金を貸して利息を取る』ことを禁止としていたキリスト教でも、『適正な利息は許される』に変わってきたようだ。しかし、ユダヤ商人たちが長い歴史で積み上げてきた『お金についての深い知識』には追いつくことはできないのだ」
「国を跨いだ巨大な金貸し大商人ということですね」と幸隆。
「そうだな」
もう少し落ち着いてきたら、正直屋国際銀行も作るかな。
「国を跨いで商売をするというのは面白い商売ですね」と信長。
「しかし商人は、常に危険と背中合わせではないですか?」と勘助。
「彼らは傭兵を雇って自分の身を守っている。資金を預けるお金持ちの権力者たちにとっても、預けているのは自身の資金なのだ。当然ながら、預けた資金は増やして戻してほしい。戦が起これば、その商人から資金を借りないといけない。だから権力者により彼らは守られる。どの国にも自由に出入りできるのだ」
「その商人が『金を出してやるから、遠い未知の国から高値で売れる産品を船で持ち帰りましょう。その産品を売り、貸したお金を2倍とか3倍にして返してくれれば、残りのお金はあなたのものですよ。船もあなたのものになるのです』と、ポルトガルやイスパニアの船主たちに言葉巧みに話を持ちかけるのだ」
「『航海に出て、高値で売れる産品を持ち帰れば、船と資金が自分のものになる。次の航海からは全部自分のもの! 大金持ちになれるぞ!』と船主は考える。遠海は波も荒く、航海は命懸けだ。生きて帰れる保証などない。商人に借りたお金を返せなければ、港で待つ商人に殺される。しかし欲に自分の命を懸ける船主はいるのだ」
「船主に雇われた船員たちは、続々と命懸けの航海に乗り出していく。彼らが目指すのは、このアフリカ大陸の西海岸だ。船主は借金を返すことしか頭にない。交易なんかする気は最初からない。強奪、略奪を繰り返すのだ」
「アフリカ大陸の西海岸には金が採れる地域もあるのだ。金や銀があれば奪う。珍しい動物の剥製や牙があれば奪う。何もなければ、人を攫って奴隷として売る。船主は自分の命が懸かっているから何でもやる。欲に任せた悪行三昧を繰り返すのだ」
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