ヨーロッパの強国1
「それをどうやるのか。皆で考えていこう。だがその前に、夢枕で豊穣神様がお話して下さったことを話そうと思う。我が国を取り巻く世界の状況についてだ。頭に入れておいてほしい」
4人で、国名なしの地形だけを描いた地球儀を囲んで座っている。
地球儀については、海軍学校での航海術の講義にも使っているため、3人は地球が丸い的なことは理解済みだ。
地球儀は、俺が至高の匠スキルでずっと前に作ったものだ。神童と呼ばれ、豊穣神の加護を受けている俺が、地球儀という変わった物を持っていても、誰も不思議にも、疑問にも感じたりしない。『地球儀は神様にもらったのかな……すごいな』という程度に思うだけだ。
大きな地球儀を1回転させる。
「この地球儀を見てほしい。この辺りはヨーロッパと呼ばれている地域だ。この地域はさらに、いくつかの国に分かれている。住んでいる人たちが信仰するのは、キリスト教という宗教だ。キリスト教は、さらにカトリック派とプロテスタント派に分かれている。そのキリスト教と対立する宗教がある。その名前をイスラム教という」
「キリスト教のカトリック派では、信者と神の間に教皇という人間がいることになっている。そうなると、人である国王は教皇の下だということになる。プロテスタント派は神の下に平等の人が存在するとなっているようだ」
「王は教皇の下なのですか! 寺の一番偉い坊主の下に、朝廷や幕府があるようなものですか?」と勘助。
「そうなるな。だがこの国には、ほとんどの民が門徒になっている寺はない。我が国は宗教について寛容な国なのだと思う」
「キリスト教の名のもとに、連合国軍が結成され、大戦をすることもあるということですね」と信長。
「そうだ、実際にキリスト教とイスラム教は大戦を何度も行っている」
「キリスト教徒は宗教の教えに忠実であり、異教徒を排除しようとする傾向がある。従って、異教徒との戦は熾烈を極める。また占領した国の民は、キリスト教に改宗させようとする」
「この国が占領されれば、この国の民はキリスト教に改宗されるということですか」と信長。
「そうなるだろうな。その方が為政者による民の統治がやり易いはずだ。物事に対する考え方が同じになるからな」
「話を進めよう。このポルトガルと、イスパニアという国はカトリック派だ。このイングランドと、オランダ(ネーデルラント)という国はプロテスタント派だ。そしてこのフランスという国はカトリック派とプロテスタント派の領主が争っている最中だ」
「キリスト教に対する大きな宗教勢力に、イスラム教というのがある。イスラム教は約900年前に、このメッカというところで生まれる。キリスト教の誕生よりは後になる。その後、このアラビア半島という場所を中心に信者が増えていく」
「やがて、信者たちによりイスラム教の国、ウマイヤ王朝が作られる。この王朝の版図は巨大なものだった。最盛期には、このアラビア半島を中心に、西側はヨーロッパ大陸のイベリア半島、南はこのアフリカ大陸の北部、東側は我らが天竺と呼んでいるこのあたりまでに及んでいた」
「広大な版図だ! しかし、やがて分裂縮小していく。1人の王が広大な領土を治めるのは昔から難しいようだな。ウマイヤ王朝はその版図において、異教徒を無理やり改宗しようとはしなかった。その点は、キリスト教よりも寛容なのかもしれない」
「我が国に関係してくる国の話をしよう。それはこのイベリア半島だ。広さは我が国が1つと半分ぐらいだ。この半島では、約600年を掛けてイスラム勢力を追い出す戦を行ってきた。気の遠くなる程の長い戦だと思わないか?」
「やがてポルトガル国と、イスパニア国が建国されるのだ。カトリックの国を作るというのが建国の目的になっている。やがて、この2ヶ国の中にはイエズス会と云うカトリックの大きな会派が作られる」
「この2国は、600年の長きに渡る戦いの過程を経て、ヨーロッパ諸国の中では、逸早く国王を中心とした中央集権国家を作り上げることに成功する」
「もう1つ我が国に関係してくる国の話をする。地球儀のこの場所にあるオスマン帝国だ。この国は、明との交易でしっかりと稼ぎ、自国にタップリ金や銀を貯め込んでいる。裕福な国には、強い兵が集まる。兵制も、騎馬兵から銃兵と大砲兵を主体としたものに切り替えつつある」
「オスマン帝国は、キリスト教の聖地であるコンスタンチノープルという、この場所にあった要塞都市を陥落させることに成功する。その後も、ヨーロッパに向けて自国の版図を広げている最中だ。それに対し、キリスト教は連合軍を作って対抗している」
「オスマン帝国の版図だが、アラビア半島では、ここのメッカとメディナ、アフリカ大陸ではエジプトと云われる大都市を征服している。そしてこの地中海と呼ばれる大きな内海の制海権も握っている。強力な国なのだ」
「我が国が、そういった国と外交を行なう時に『あなたの国はキリスト教なのか? イスラム教なのか?』というようなことを問われそうですね」と幸隆。
「未だに群雄割拠が続いている我が国など、だれも相手にもされないだろう。そういう話は、ずっと先になるな」
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