寺社勢力の排除2
天文16年(1547年秋)16歳
商人を使って三河の米を買い占めた。忍者撹乱隊を使って秋に収穫されたばかりの米を保管する蔵を焼いた。三河では食うための米が激減していく。
予定通りだ……
一向宗と松平家が戦を始めた。双方が戦でボロボロになるタイミングを見計らって蝦夷軍を三河に侵攻させた。
死闘を繰り返していたため、一向宗と松平家の残党は殆ど残っていなかった。農民兵は帰郷させ。偉い坊主以外の坊主や武将にはいなくなってもらった。
寺もいらないから綺麗さっぱり燃やした。
もちろん表向きに蝦夷国は、三河にはまったく関わっていないことにしなければならない。そうしないと策が狂ってしまう。まあ三河は北畠領に囲まれた国だし、周囲を忍者がガッチリと警備しているので、万に一つも情報が漏れる心配はない。
これから行う事は、才蔵を通して既に主上に伝えている。
朝廷側は主上が上手くやってくれるだろう……
ある日突然、三河一向宗国が朝廷に対して独立宣言をした。大事件が勃発する。
しかも松平家はすべて一向宗に討ち取られたという。いきなりの独立宣言に朝廷は右往左往だ。実務の経験のない公家には、どうして良いか解らない。
しかも石山本願寺が、三河一向宗国と共闘すると宣言してきた。
慌てふためくばかりの朝廷は、一向宗の禁教指定と三河一向宗国の討伐を決議する。
しかし、加賀一向宗国までもが独立宣言する。
……朝廷はもはやパニック状態となる……
パニック状態になると、冷静な判断はできない。
一連の出来事が何かおかしいなどとも思わない。
眼の前の案件を処理していくだけしかできない。
当初、三河一向宗国の討伐は幕府に命じる予定だった。しかし、加賀一向宗国の独立宣言を受けて、幕府には加賀一向宗国の討伐を命じた。
加賀一向宗国の方が三河一向宗国より強大だからだ。
幕府軍が侵攻するルートの大名である浅井家と朝倉家には、御内書と勅命が下される。幕府の先陣として討伐に参加することが決まる。
浅井家と朝倉家は、自国から先陣として加賀に向かってはいるものの、加賀一向宗国の力が強大な事を知っているため行軍がモタモタするばかり……
……いつまで経っても、加賀一向宗国の討伐を始めようとはしない……
浅井家と朝倉家が邪魔になって、幕府軍による加賀一向宗国の討伐も遅れが生じ始める。
加賀一向宗国の討伐がなかなか進まないからといって、朝廷は、三河一向宗国の討伐を中止することはできない。そのため主上は蝦夷国に、三河一向宗国の討伐を依頼するに至る。
三河一向宗国は、既に蝦夷国軍により既に討伐されているので、少し間をあけて討伐完了の知らせを蝦夷国から朝廷に報告した。
討伐の謝礼として、三河は蝦夷国となったのである……
幕府は浅井家と朝倉家に対して、加賀一向宗国の討伐の怠慢に対して詰問状を送る。
詰問状にキレた浅井家と朝倉家は勝手に帰国する。これに対して幕府は朝廷に対して、浅井家と朝倉家が、加賀一向宗国に加担したとして、浅井家と朝倉家に対する討伐勅命を出してもらう。
幕府軍による浅井家への攻撃が行われる。浅井家では小谷城が難攻不落と思い込んでいる。当然のように浅井軍は小谷城に籠もる。
しかし甲賀特殊部隊500人と甲州特殊部隊300人、尾州特殊部隊300人、越州特殊部隊300人の計1400人が、夜間に小谷城の斜面を登っていく……本丸まで矢が届くところまで登り……クロスボウで榴弾を打ち込み続けた。
……数百発の榴弾が打ち込まれた小谷城は瓦礫と化した……
……引き続いて幕府軍は比叡山を目指す……
比叡山では、朝廷から詰問状を持った使者が訪れていた。比叡山側は何の使者なのか解らない様子だ。
『一向宗の禁教指定を妨害するために、比叡山が強訴におよぶ計画があることは明白だ。朝敵となった一向宗国に加担するなら、比叡山も朝敵となると考えよ』という内容である。
使者となった公家は詰問状を読み上げていく。
その後、間を開けることなく比叡山に対する主上からの勅命を告げる。
「ただちに比叡山より僧兵を退去させよ。今後比叡山が僧兵を持つことを禁止とする。3日以内に実行しない場合、国家に反逆する賊徒とみなし天台宗を禁教指定とする。朝敵となった比叡山延暦寺は北畠軍により成敗させる。以上である!」
……困惑した表情の高僧たちが黙り込む……
「御坊たちは小谷城が1日で廃墟になったことをご存知か。降伏ではないぞ。廃墟だ。誰も生きておらぬぞ」と、使者は告げる……脅しだ。
禁教になることを恐れたのかあるいは『主上が崩御されれば、すべて有耶無耶にして、元の比叡山に戻せるから問題なし』と思ったのか、比叡山から僧兵が混乱なく退去していく。
野盗とかにならなければ良いのだが。まあ成ったら成ったで、特殊部隊の訓練相手になってもらえばいい。
比叡山が片付いたので、北畠軍は朝倉家が籠もる一乗谷に向かう。朝倉家は小谷城が1日で廃墟になったことを知っており、戦うことなく降伏する。
降伏の条件はいつもと同じだ、一族全員いなくなってもらった……
これで浅井、朝倉と片付いたのだが、朝廷には、朝倉家の残党がなかなか手強く、討伐に少し時間がかかると報告しておく。
これで幕府は、石山本願寺の討伐には手が回らないことになる。
主上は朝議を開き、一向宗を討伐することが国家の一大事であることを前面に出し、石山本願寺の討伐を蝦夷国に依頼することを決議する。
……依頼を受け、蒸気船の蝦夷丸10隻を率いて摂津の石山本願寺沖に到着……
海軍衆が蒸気船を乗りこなせるようになったこともあり『至高の匠スキル』で蝦夷丸の数を増やしておいた。
いずれは蒸気船が主力軍船となり、キャラック船は貿易で使って行くことになるだろう。
石山本願寺は普通の寺ではない。石山城という方が合っている。広い水路を掘とした本丸部分に本山となる寺院が建っている。
その周りを、同じく広い水路を掘とした郭が囲んでいる。郭には信者が暮らす街がある。つまり本丸の石山本願寺が攻められることがあれば、郭に住む信者たちが、本丸を命懸けで守る仕組みになっている。
どこまで信者を都合良く利用するのだろう?
蝦夷丸10隻を横に並べて蝦夷丸の大砲と迫撃砲による砲撃を開始する。
目標は本丸。1刻もしないうちに石山城の本丸は壊滅する。本丸が瓦礫したのを見て郭の信者達は守るものが無くなり戦意を喪失する。続いて周りの郭にも砲弾を数発撃ち込む。
信者達が郭から逃げ出し始める。そこで一旦攻撃を停止させる。できれば信者達は殺したくはない。
『夜のうちに逃げてくれ』と思い。夜の間の攻撃をやめさせた。松明の明かりが夜通し、城の外に向かい動いていたのでほとんどの信者が退去してくれたようだ。
朝になり再び郭に砲弾を撃ち込む。今度は瓦礫になるまでだ。瓦礫になったのを確認し、城内部の掃討戦をさせる。掃討戦で始末するのは坊主と傭兵だけだ。信者は殺すなと指示してある。
短時間で掃討戦が終了したので、兵を総動員して、本願寺後の瓦礫を片付けさせている。片付けが終わったらここに蝦夷国のような城を作る予定だ。
討伐が完了したことを朝廷に伝えると……石山の地を蝦夷国に与えるという使者が来る……
……使者が帰った後……
俺は、至高の匠スキルで本丸を囲う高い壁を作った。壁の高さは7m、厚みは3mある。壁の上からライフル隊の攻撃もできる。もし仮に敵が大砲を用意しても、壁の上に迫撃砲を設置して、敵の大砲を砲撃すればいい。
つまり現状では難攻不落の城が出来上がる。
まわりの郭は商業スペースにするつもりだ。
城には蝦夷国の旗を立てている。
この城の城代は幸隆にした。三河にも同じような城を作っているので、そちらは勘助を城代にしている。ちなみに蝦夷国は平井と鳥屋尾にまかせている。
彼らならアイヌとも上手くやってくれるはずだ。
石山本願寺が片付いたので、残りは加賀一向宗国だけとなる。
俺は一乗谷城で、信長や勘助、幸隆といっしょに加賀一向宗国の攻略をどうするか話し合っている。
加賀一向宗国の討伐は結構大変だ。一向宗の門徒の数は桁外れに多い。
しかも死兵となるため強い。戦をしてもこちらが負けることはないだろうが、相当の損傷を覚悟する必要がある。
つまりまともに戦わないが大前提だ……
「現在の加賀だが、白山の噴火により加賀では米の収穫どころではない状況だ。今年の冬は越せると思うが、来年は食べるものがなくなるだろう。雪解けの春には、越前に向けて腹を減らした数万の信者が押し寄せるだろう。この大軍は危険極まりないだろう」と、信長の現状を説明する。
よく調べているね。
「一向宗との戦いは、まともに戦わないが大前提だ。一向宗の本拠地は尾山御坊と吉崎御坊になる。吉崎御坊は海からの砲撃が可能だ。この寺に信者を集めることができれば、砲撃により大軍を殲滅することが可能だ」
「尾山御坊は海岸線からかなり離れているので、犀川を遡って迫撃砲で攻撃できる。問題は2つの寺にどうやって全ての信者を集めるかだ」
いや……待て……信者を殺さないで済む方法はないのだろうか……
「尾山御坊と吉崎御坊に信者を集めて、砲撃で坊主も信者も兵士も全て始末することはできる。しかし数万いや10万など軽く超える信者を殺すことは、さすがにできない。何か上手い方法はないだろうか?」
……3人とも黙っている……
その時、俺の頭に聞き慣れた声がしてきた。豊穣神様だ……
「そんなに人を殺してはいけませんよ。信者の洗脳は私が解きましょう。あなたたちは信者を食い物にしている坊主と名乗る者たちと、坊主が雇った兵士だけを何とかしなさい」
「分かりました。坊主と名乗る者たちと兵士だけを何とかします」と、豊穣神様に答えた。
「たった今、豊穣神様の神託が降りた! 一向宗の信者を殺してはならない。洗脳された信者は豊穣神様が洗脳を解いて下さるらしい。信者を食い物にする坊主と名乗る者たちと、坊主が雇った兵士だけを何とかせよとのことだ」
「おお、ありがたい! 我々もさすがに10万を超える信者たちを殺すことはできません!」と、幸隆と勘助、信長が頷いている。
俺もそうだよ……さすがに無理だぞ……
「その方向でいくとして。具体的にどうするか?」
「現状。坊主どもは尾山御坊と吉崎御坊に兵糧を貯め込んでおり、信者に米を盗まれないように雇った兵士に米を守らせています。つまり2つの寺には坊主と米を守る兵しかいません」と、信長が説明する。
「とことん酷い坊主共だな! 吉崎御坊は蝦夷丸10隻、尾山御坊には日本丸20隻を向かわせる。それぞれの船には、信者に配る米を満載しておけ。準備ができしだい加賀に移動し攻撃を開始する」
……こうして作戦は決まる……
日本丸には信長が、蝦夷丸には俺が乗船している。蝦夷丸10隻が吉崎御坊の沖合に移動する。射程を確認し、砲撃開始を命じる。攻撃開始から1刻もしない内に吉崎御坊は瓦礫となった。
日本丸20隻は尾山御坊の沖合まで移動する。
直ちに迫撃砲2門を搭載した小早船を降ろし、計20隻の小早船で犀川を遡らせる。尾山御坊から2km離れた河原で小早船から迫撃砲を降ろし、地面にセッティングしていく。
測距儀を使って尾山御坊までの距離を計測し迫撃砲の角度を調整する。調整が終われば40門の迫撃砲による攻撃を開始だ。こちらも1刻もしない内に尾山御坊は瓦礫となる。戻って来た小早船を回収して日本丸は吉崎御坊に向かう。
俺の方はというと……吉崎御坊を瓦礫にした後……船に積んでいた米を次々海岸に運ばせている。
吉崎御坊に近い海岸に米俵が積み上げられていく。
米俵の横に俺は立っている……
米俵が積み上げられた場所に一向宗の信者達が集まって来た。もの凄い数だ。襲われればどうにもならない。
暫くして信者たちの中から抜け出てきた数人が、こちらに歩いて来る。俺達の前で跪いた。
「私たち信者全員の頭の中に、直接響いてくる神の声を聞いたのです」と、信者の代表が俺に説明し始める。
「『一向宗は邪教である。邪教である一向宗を滅ぼし、お前たちを救う者たちが船に乗って吉崎御坊に現れる。その者の言葉に従え』というお告げでした。そのお告げに従い、ここに全員がやって来ました。どうか我々をお導き下さい」と、大勢の信者が一斉に頭を下げる。
「おまえたちに語りかけたのは、我らの神である豊穣神様だ。豊穣神様を信仰するのであれば、おまえたちを助ける。どうする?」
「村々に豊穣神様の祠を建て、皆でお参り致します。」
「そなたたちを騙し続けた一向宗は滅んだ。村に帰り畑を耕すべし。食料となる米はこの通りだ。火山の灰により耕作できなくなった田も豊穣神様がお救いくださるぞ」
そんな話をしている所に、信長がやって来る。
良かった……待っていたよ……
「この者は豊穣神様の加護を受けし俺の代理である。北畠信長がこの国を治める。今後はこの者がお前たちを幸せに導くだろう。いいな!」
俺は地面に綺麗な布を敷かせ、その上に豊穣神様の像を作り出していく。空中からいきなり現れた像に、集まった信者たちはびっくりしている。
「豊穣神様の加護の力を見せよう! この中で病気や怪我のものがいるか? 1人でなくても良いぞ」
大勢の信者の中から、数名の子供が抱きかかえられて連れて来られる。
「この子たちは熱が下がらず死にかけています。治りますか?」
俺は子供に近寄り、次々と体の近くに手をかざす。手から光が出て子どもの顔色がどんどん良くなる。ぐったりしていた子供たちが元気に立ち上がる。
それを目の前で見ていた信者達は再び土下座する。
『これで彼らが一向宗に戻ることはないだろう』と、俺は確信した。
後は信長に任せて、俺は蝦夷丸に乗り込んだ。
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