歴史が変わり始めた2
天文15年(1546年秋)15歳
朝議に主だった公家たちが集まってきた。
朝議の冒頭で「蝦夷の地に生まれた蝦夷王国と、この日の本の国は友好関係を築こうと思う。そのために朕は娘の普光を、蝦夷王国の玄武国王に嫁がせておるのだ」と主上が切り出す。
「蝦夷王国の玄武国王とは、三蔵のことではありますまいか? 三蔵の国であるならば我が日の本の国の領土ではおじゃらぬか?」
その意見に賛同するように、何人もの公家達が「そうじゃの。そうじゃの」と下を向いたまま呟いている。
「蝦夷王国など我が国の属国としてしまえば良いのです。朝廷から東国の大名にお命じ下されてはいかがでおじゃるか?」と誰だかわからぬ呟きのような声が上がる。
いつものことじゃが。はきとは言わぬな……
その意見に賛同するように、何人もの公家達が「そうじゃの。そうじゃの」と下を向いたまま呟いている。
これが朝議と言えるのか……
「この中に東国の大名たちに話を通し、大名たちの意見をまとめることのできる者がおるか? 蝦夷国が保有する砲を搭載した100隻もの大船団を打ち破れる者がおるのか? おるならば顔を上げよ!」
公家たちは黙り込む。
「威勢の良いことを言うのであれば、自らの官位をかけて提言すべし!」
朝議に参加した公家たちはひたすら黙る。
朝議に参加できる上位の位階を持つ公家たちでさえこの程度では、公家が主導しこの国を良き方向に導くのは無理であろうな……
「残念ながら戦国の世が長きに渡り続いておる。弱体化した幕府に戦国の世を終わらせる力はない。幕府がダメであるなら本来はこの朝廷が、いや朕がこの国を正しき方向に向かわせねばならぬと思うておる!」
「恐れ多くも、そのような力はこの朝廷にはないものかと」と、何人もの公家達が小さな声で呟いている。
まともに自らの考えを奏上することもできないのか……
「朝廷に力がないのなら、力のある蝦夷王国の力を借りれば良いのではないか。蝦夷王国は我が国と兄弟国家である。北畠家と蝦夷王国の力を借りれば、この長き戦乱の世を終わらせることができるかもしれぬと思うが、その方らはどう考える?」
主上はここで皆の様子を観察し反応を確かめる……下を向いたままで反応がイマイチ掴めぬ……
「北畠家の善政により戦国の世でありながら、民が幸せに暮らすことができている南近江の一部と伊賀、伊勢、尾張が、餓狼ともいえる大名どもの餌食になろうとしている」
「この状況に対し幕府は何もできはしない。いや何もしないであろうな。であるなら朕は力なき将軍を罷免し、北畠家当主である北畠信長を将軍職にしてはどうかと思うがどうだ。反対のものはおるか?」
「おおそれながら、将軍職を与えるのは北畠家が餓狼どもを返り討ちにしてからで良いかと愚考いたします」と、左大臣の二条晴良が奏上する。
やっと意見を言うやつがでてきたか。こやつが今後どう動くかは、調べさせておく必要があるな……才蔵に探らせよう……
皆の反応を確かめねばならぬ。
雰囲気はやや反対よりというところか……このまま将軍職の話を押し通すのは無理か……
「そうか。では北畠家が餓狼共を返り討ちにした後に信長を将軍とすることで良いな?」
公家どもはあいも変わらず事なかれ主義じゃ。少しは本気になってもらうために。玄武王に聞いた話をしておくか……
「最近南蛮の船がこの日の本の近くに来始めておる。彼の国はこの国の何倍もの強国であるぞ。今はただこの国を観察しておるのみじゃ。しかしこの国が御しやすしと判断すれば。南蛮の国の軍隊がやって来るぞ。強国の軍事力により、我が国はすぐに食い物にされてしまうぞ」
「そのような事に、本当になるのでしょうか?」と、公家たちがざわついている。
「南蛮の国の南側に大陸がある。その大陸にも国があり民も多く住んでおる。南蛮の者たちが弱き国と判断し、容赦なく我がものとされた国もある。彼らの植民地となった国では、民は奴隷とされ、南蛮の国で高値が付く作物を強制的に作らされる。」
「もちろん民はただ作らされるだけだ。また奴隷として国外に売られる民もいる。その者たちが次に狙いを付けているのが我が国なのだ。その方ら公家もその者たちに奴隷とされるぞ」
何人もの公家達が「怖いの。怖いの」と下を向いて呟いている。
「この国の状況は、今説明した通りじゃ。であるからこそ。北畠家と蝦夷王国の力を借りて、この長き戦乱の世を終わらせ、きちんとした国家を構築する必要があるのだ」
「朝廷が軍事に関与することは、かつての南朝、北朝の前例もあり。大変危険な判断ではないかと愚考いたします」と、左大臣の二条晴良が奏上する。
「蝦夷国王国の軍事力は、桁外れに大きなものである。万に一も負けることはないぞ」
「であるならば、蝦夷王国に我が国が取り込まれてしまう危険はないでしょうか? 同様に大変危険な判断ではないかと愚考いたします」と、左大臣の二条晴良が奏上する。
「朕はそのために普光を嫁がせておる。心配することはない。北畠家が餓狼どもを返り討ちにした後に信長を将軍とすることに異存はないな?」
「御心のままに」
左大臣の二条晴良がひそかに、ほくそ笑んでいる。
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