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26 最終話 夏弦の幸せ

 結婚式の日以来何事も起こらず時は流れていく。

 夫婦仲も当然よく、私はフィータス陛下の子を身ごもった。

 新しい赤ちゃんがやってくることを子供達に話して、仲良くして欲しいとお願いをする。


 子供達も本当の兄弟のように仲良くしてくれている。

 けれど、ハルバートと私の子供達には臣下としての立場を教えていかなければならない。

 仲良くしていても、立場が違うことでいつか子供達が受け入れられない日が来ることがないように願った。

 

 私よりも、子供達のほうが立場の違いを理解していらっしゃいますよと家庭教師に言われて、安心をするという日々を繰り返している。


 私は箱の本をまだ読み終わらない。

 長い長い歴史。この本の作り方も知った。

 私と、キャルウェンなら作れるだろうけど、作る意味がない。


 時間があれば読み進めているが、読んでも読んでも終りが見えない。

 歴史で解釈されていることと、事実の違いに驚くことがよくある。


 魔法のことも少し書かれていた。

 この本が書かれた頃、魔法は特別なものではなかった。

 誰もが使えて誰もがその恩恵に預かれた。

 時が進むとともに人の能力も薄れていった。

 その理由は簡単なことで他国の血が混じったために、その他国の血が魔法を阻害してしまうのだ。

 

 ユリアーノとキャルウェンは魔法が使える血が強く出ただけだと思いたい。

 あると便利だけれど、人よりもできることが多すぎるのは決していいものではないだろう。

 それ以上は魔法のことについて書かれているページには出会えていない。


 ただ、私のページに古代魔法も全て扱える者と書かれていた。

 そしてキャルウェンの名前も記されていた・・・。

 

 キャルウェンがこの本を読む時がくるのだろうか?

 その時、私のページを読んでどう思うのだろうかと気になった。

 中身は異世界人で、本当のユリアーノではない。

 読み進めれば産んだのも育てたのもナツルだと解るだろうけど、キャルウェンが王家に嫁がない未来があって欲しいと祈りを捧げた。

 


 オリステーレとコンチェスタの始まりも書かれていて、詳細が示されていた。

 この国の中心的問題として扱われていて、三冊の歴史書を読んだけれど、どれとも違うことが書かれていた。

 こんなことのために、私達は争い続けていたのかと馬鹿らしくなった。


 始まりは、コンチェスタの女にオリステーレの男が振られたことだった。

 男はプライドが許さず、コンチェスタの女を子供が出来るまで凌辱し、生まれた子供に愛情を向けるようになったのを確認してから、コンチェスタの女の前で殺してみせた。


 そしてコンチェスタの女はコンチェスタへと戻された。

 それからはもう泥沼の戦いだった。

 弱いものから狙って殺し合って、どうやって子供を守るか苦慮するが、どちらもうまく隠せたのか、今まで絶えることがなかった。

 読みながら胸が悪くなり、何度も休憩を挟んで読み進めていった。



 フィータスに歴史で学ぶことと違う事の確認を取ると、当たり柔らかくしてきたことには、それもまた必要なことだったのだろうと言う。


 今ならもう正してもいいのかもしれないが、正しい歴史を伝えることがいいことだとも思えないと言った。

 それに、箱の本を表に出せない以上、正すのも難しいのだと言った。



 私にとって四人目で、フィータス陛下との初めての子を生むための陣痛がやって来た。

 フィータスはずっと側にいてくれて、私の手を握っていてくれた。

 ちょっと放っといて欲しいと思ったのは内緒だ。

 けれど、出産時まで取り繕ってはいられない。 


 その後、フィータス陛下は出産の大変さを知り、私に手を出すのに臆病になったのだけれど、性交渉解禁がお医者様から言い渡されると、臆病になったのは一体どこへ行ったの?と言いたくなった。



 フィータスとの子供は前の陛下にそっくりな王子でリースベルトと名付けられた

 陛下はリースベルトをとても可愛がった。

 子供を平等に扱うように、何度も言ったが、前王妃との子供とは、思うところが違うようだった。


 リューチェウ王妃とは恋愛結婚ではなかったからなのかもしれない。

 幼い子供だからかもしれない。理由は何であれ、国の王たる人がそんなことでは困ってしまう。

「子供達には平等に扱うと約束したでしょう?」

 そう言い聞かせて、上の子供達も同じように抱きしめるように進言した。


 子供も陛下も照れていたけれど、接触が増える度に、心は通い合うと私は信じていたかった。

 


 ハルバートの時から思っていたが、ユリアーノのこの体は妊娠しやすいのではないだろうか?

 キャルウェンが癒しを何度も掛けていてくれているから、身体的には問題がないけれど、また妊娠・・・してしまった。とちょっとがっかりしてしまった。

 国や国民は大喜びしているので、私も笑顔で答えた。


 前回同様、変わったものが急に食べたくなるのは我慢できなくて、それに対応できるように、調理場は色々とかき集めてくれているようだった。


 妊娠するとよく食べるけれど、生んだら、元の体型に戻ることだけが、本当に救いだった。

 これでどんどん太っていったら、フィータスに嫌われてしまうと思っていたら、箱の本の最後のページに私がそう考えていたことが書き込まれていて、フィータスは大喜びして、その日は妊娠中にも関わらず、久しぶりに燃え上がった。


 頑張りすぎて、翌日お腹が張って仕方がなかったけれど・・・。

 キャルウェンが癒しを掛けてくれて、問題なしとお医者様には判断された。


 恥ずかしいので、今度からは程々にしようと心に誓った。



 良くない報告書が上がってきた。

 私はその報告書をそっくりそのまま父へと送っている。

 父は、兄はどうするのだろうか?


 数日後、父からの手紙で、ヴィレスタ様を自宅の牢へ捕まえた。と報告が来た。

 その手紙をフィータスへと持っていくと「オリステーレは本当に救われないな」と深い溜め息を吐いた。


 ヴィレスタ様から芋づる式にオリステーレの者達が捕まるかと思ったけど、それは叶わず、ヴィレスタ様はオリステーレの残党達に切られてしまったようだった。


 王城の牢へと着いたヴィレスタ様に「どうしてハルバートやお義父様を殺した人達の手伝いなんかをしたの?」と聞くと「あなたじゃあるまいし、身内が裏切るわけ無いでしょう」と意味の分からないことを言い出した。


 ヴィレスタ様の言い分は、コンチェスタが殺した兄と父を裏切って、たった三ヶ月で婚約して、結婚した裏切り者が!!と詰られた。

 私達は、現実はオリステーレの人間が父やハルバートを逆恨みして殺したのだと伝えた。

 初めは信じなかったけれど、話の辻褄が合うことに気が付き始めてヴィレスタは狂ったように叫び声を上げ始めた。


 アンバーの身の危険を伝え、子供をオリステーレの残党には会わせていないわよね?と聞くと、何度も会わせていると答えた。


 私はアンバーの命の危険があると父に直ぐ報告をして、王城へと連れてきてもらおうとしたけれど、アンバーを乗せた馬車が襲われて、アンバーの顔に二目と見れない酷い傷ができてしまった。

 ヴィレスタ様にその事を伝え「結局ヴィレスタ様はお義母様と何も変わらない人なのですね」と伝えると、ヴィレスタ様はその場に泣き崩れた。


 アンバーが襲われたことで捕縛され、オリステーレの残党は後三人になった。

 フォロウェインが学園に行くまでになんとか捕まってほしいと思ったけれど、それは叶わず、フォロウェインが学園へと通う日が来てしまった。


 護衛は今までの王子、王女でもあり得なかった五名が付けられ、送迎されたけれど、私は心配で仕方なかった。


 ヴィレスタ様にアンバーと会わせた瞬間に「信じられない、騙された、ユリアーノ様の言うことが本当なの?」とぶつぶつと言い、それから意を決したように一軒の家の場所を教えてくれた。


 どのタイミングで何が行われているのか、私には何の報告もないけれど、フィータスが下調べだけは完璧に行っていることだけは信じていた。


 ヴィレスタ様に会わせてからキャルウェンが癒しの力を発揮して、アンバーの傷は綺麗に治った。

 アンバーも母を無くした子になってしまうのだと憂鬱になった。



 フィータスが、私が箱の本を読んでいるところに現れて、オリステーレの残党三人を捕まえたと伝えに来てくれた。

 ヴィレスタ様が教えてくれた隠れ家に三人とも隠れ住んでいて、兵士たちを向かわせた時には逆らう意志ももう持ち合わせては居なかったそうだ。


 ただそれでは収まらず、一人がパニックを起こして、暴れ出し、その力が強かったため馬車が横倒しになり、壊れた隙間から逃げようとして、一人が斬り捨てられた。ということだった。

 ただ、二名は命はとりとめていて、尋問にも素直に答えているらしく、結婚式の時に問題を起こした連中は、子供のいたずらを利用した襲撃だったということが判明した。


 結婚式の時に逃げおおせた子供達も捕まって、厳しい罪に問われることになるだろうと言った。

「これで終わった?」

「ああ。これで終わったよ。もう怯えなくていい」

「本当に?」

「ああ、本当にオリステーレは全滅した。育て方に寄るけれど、可能性があるとしたら不安要素はアンバーになるだろう」


「それは・・・」

「そうだ。今から気にしても始まらない。ステフォインの育て方に期待しよう」

「そうですね」



 私はそれからも陛下の子を生み、王子を三人、王女を四人生んだ。


 周りの望み通り、コルベルト王子とキャルウェンが本人たちが望んで婚約し、ミスティーナ王女とベリートインが婚約を望んだ。

 フォロウェインは前王の弟の娘、ルーカス・シャラウェイ公爵令嬢と恋仲になり、既に結婚していて、シューテインの爵位を継いでいる。

 まだまだ頼りなく思うけれど、シューテインと離れてしまった私には口出す権利はないと思っている。

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 俺の夏弦、元気でやってるか?

 俺もいい歳をして結婚して子持ちになったよ。

 誰にも言えないが、結婚するなら夏弦だと思っていたんだ。


 違う相手を選んだことに自分で驚いている。

 夏弦と違うところを探しては、たまに幻滅する時があるのは誰にも言えない俺だけの秘密だ。


 年を取ってできた子供はかわいいな。

 妻には夏弦のことを話したことはないんだ。

 内緒で、子供の名前は夏弦にしたよ。

 子供を呼びながら夏弦を呼んでいる俺は酷い男だと思う。


 勿論、妻のことも大事にしている。

 けれど毎日、ほんの少しの罪悪感と幸福感を感じながら娘の夏弦を呼んでいるよ。

 どちらに罪悪感を感じて、どちらに幸福感を感じているのか、自分でももうよく解らない。


 夏弦、いや、ユリアーノ・・・いや、やっぱり俺にとっては夏弦だな。


 幸せでいるか?

 何が何でも幸せを掴み取れ。

 俺も俺の夏弦を今度こそ幸せにしてみせるよ。

魔法に関して流してしまいました・・・。

魔法解明編へと入る予定でしたが、断念しました。

今まで読んでいただきありがとうございました。


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