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25 ユリアーノの二度目の結婚式

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 全身を映す大きな鏡の前に、ウエディングドレスを着た私・・・が居る。

 前回の時のような不安はどこにもない。

 王妃という大役に恐れ多いと思うけれど、フィータスと幸せになるのだという思いが強い。


 ユリアーノ、あなたが望んでいた陛下と結婚するわよ。

 あなたが知ったらどんな気分になるんでしょうね。

 怒り狂ってほしいわ。

 私の人生を狂わせたのだから、その責任は取ってほしいわ。


 私はユリアーノ・ナツル・シューティン。


 これからこの国の王、フィータス・バントゥーラ陛下の妻になる。

 愛されていて、私も愛している。

 鏡の前で瞬きをしても何も変わることはないし、思い出さなければならないことも一つもない。



 部屋の扉がノックされ、メイドが父を連れて入ってくる。

 父は私の美しさを褒め称え「二度目でも、誰かにユリアーノをやるのは嫌な気持ちになる」と声を上げて笑っている。


 ハルバートとの結婚のときとの違いに、自然と笑みが溢れる。


 父の腕に手を添えて一歩一歩踏みしめて歩き出す。

 目の前にある扉は幸せへの扉。

 その向こうに待つのはフィータス。

 私が、身も心も委ねることが出来る人。


 音楽が終わる前に、父がフィータス陛下に私を渡して、フィータス陛下は、宝物を受け取るように私を受け取り、私達は誓い、署名して指輪の交換してキスをした。



 王族が民衆に顔を見せるテラスに立つと、大きな歓声が上がり「フィータス陛下」と「ユリアーノ王妃」と名を呼ばれ、手が振られる。私達も手を振り返す。

 ひときわ大きな歓声が上がり、私は国民にも受け入れられたのだと心の底から安心した。


 パレードで手を振りながら、左手の薬指の婚約指輪と結婚指輪を見て幸せを噛みしめる。

 ハルバートに申し訳ないと思いつつも、ハルバートの結婚では感じられなかった幸せを感じてしまう。


 私達が乗ったお披露目用の馬車が角を曲がった途端、遠くで何か騒ぎが起きた気がした。

「気付かなかったふりをしなさい」

 フィータス陛下に言われて、私は笑顔で手を振り続けた。


 もう腕が上がらないと思うほど長い間、手を振り続けて、馬車は城へ戻った。


 護衛騎士達がバタバタとしていて、何があったのか不安になったけれど、フィータス陛下が私の横から離れず、私を部屋まで連れて行ってくれた。


「疲れを少しでも和らげて、夫婦の寝室で私を待っていてくれ」

 頭にキスを一つ落としてフィータス陛下は、陛下の私室へと下がっていった。


 五人ものメイドにドレスを脱がされ、化粧を剥がされ、素の私に戻っていく。

「お疲れになったでしょう?」

 軽食が並べられ、食べるように促される。


「ええ。腕を振り続けるのって本当に大変なのね。もう腕が上がらないわ」

 メイド達は小さな声を上げて笑う。

「マッサージで緩和させますので、ゆっくりお湯に使ってくださいませ」

 

「子供達はどうしているかしら?」

「五人のお子様はいい子にされていますよ。ミステイーナ王女様とキャルウェン様がウエディングドレスを作って欲しいとメイドに強請っていました」


「メイドに強請っている間は心配ないわね」

 と、くすくす笑う。

 今日の疲れが湯に溶け出していくような気がする。

 全身を洗われ、マッサージを受け、髪を乾かし、薄化粧を施されて、夫婦の寝室へと送り出された。


 フィータス陛下は既に私を待っていて、立ち上がって私の手を取ってくれる。

「今日、この時をどれほど待ったことか」

「フィータス・・・」

「愛しているよ」

「私も愛しているわ」

 唇に小さなキスを受けて、抱き上げられ、ベッドに降ろされる。

 見つめ合い、これから起こることに胸を弾ませる。


「ユリアーノ・・・」

「フィータス・・・」

 焦れったいほどの愛撫を全身に受け、フィータスを受け入れた。

 フィータスは私の中で果てても、私の中から去らずそのまま愛され続けた。

 意識が朦朧としていても体が快楽を受けとめ、喘ぎ声が止まらなかった。


 フィータスと私が落ち着くまでにかなりの時間を要した。

 落ち着いたと言っても、身の内にはまだフィータスを受け止めたままで、フィータスはゆっくりと体を揺らす。

 体内で育っていくフィータスに激しく求められたくて、自然と腰が揺れてしまう。

 胸にはフィータスの手と唇が行きつ戻りつしながら「愛している」と言われ、たっぷりと堪能して、フィータスが果てたことを知った。


 意識が飛ぶように眠りについて、陽の光を感じて目を覚ました。

 背中にフィータスの温もりを感じて、寝返りをうち、フィータスの胸元にすり寄る。

 ちょっとした悪戯心でフィータスの胸に私のものだという印を刻む。


 目を覚ましたフィータスに気がついて「おはようございます」と声をかけると「おはよう」とキスを受けた。


 体は大丈夫か聞かれ「今日はゆっくりします」と答える。

 フィータスは声を上げて笑って、ナイトローブを羽織った。

 ぐちゃぐちゃになっているベッドを見て、抱き上げて、私をフィータスの私室へと連れて行ってくれる。

 お風呂の用意がされていて、二人で一緒に湯に浸かった。


 驚いたことにフィータスが私の世話をしてくれて、用意されていた夜着を私に纏わせた。

 フィータスの私室のベッドに寝かされて「ゆっくりしろ」と言い置いて部屋から出ていった。


 メイド達が部屋の中に入ってきて、朝食をどこで食べるか聞かれ、テーブルで食べると答えると、着替えたフィータスが現れ、一緒に食事をとってその後、仕事をしてくると部屋から立ち去った。


 私はベッドに戻り、少し眠ってから、起き出して、子供達の部屋へ顔を出しに行った。


 互いの子供を養子にしないことに決めたが、扱いはなるべく実子と同じようにしようと決めた。



 皆私のウエディングドレス姿が綺麗だったと言って、聞きかじったこの世界のウエディングマーチを口ずさみながら、結婚式ごっこを見せてくれる。

 あまりの可愛らしさに全員にハグをして頭にキスを落としていく。


 遊びの時間は終わりですよと家庭教師がやって来て、暫く子供達の学習状況を見て、私は私がしなければならないことへと向かった。



 王妃の執務室には報告書が何点も届いていて、目を通していくと昨日の騒ぎの詳細が書かれていた。


 オリステーレの残党と思わしき数名がパレードを襲撃しようとしていたらしい。

 六名捕まえたが、全員オリステーレの関係者ではなく、成人したかしないかという年代の子供達だった。


 だが、捕まった者達が口にする名前がオリステーレの残党の名前ばかりが出てきていて、私とフォロウェイン、ベリートゥイン、キャルウェン、そして陛下を殺すと息巻いていると書かれていた。


 この時、私はなぜヴィレスタの名前とアンバーの名前が上がっていないのか不思議でならなかった。


 結婚で幸せを掴んだと思っていた私に、目を覚まさせる一発を食らわされた気分になった。

 今回捕まった人達はオリステーレにどんな恨みがあるのだろうか?


 オリステーレとのつながりは?あるのかしら?

 反体制派?単にお金で雇われた人達?

 人を雇うほどのお金をオリステーレが持っているとは考えられない。

 ヴィレスタ様のお金の流れを洗う必要があるのではないか?


 残党さえ捕まえれば解決すると思っていたことが、それだけでは駄目なのかもしれない可能性が出てきて、ここに居ても身の安全は絶対ではないのだと思った。

 陛下を殺させる訳にはいかない。


 いつまで怯えていなければならないのだろう?

 一番守りの弱い筈のヴィレスタ様は狙われていない。一番狙いやすいところなのに。

 私の子供達を狙うなら解るけれど、ヴィレスタより先に私を狙う理由も解らない。


 

 私はオリステーレだけでなく、他にも私達を狙う者が居ることを父に手紙に(したた)め、ヴィレスタ様の身辺とお金の流れの調査を頼んだ。


「陛下にこの手紙を出してもいいか尋ねてほしいの」

「かしこまりました」


 返事はすぐに来て、手紙を出してもかまわないが、まだ誰にも内容を広げないようにと、陛下の字で他言無用と書き足された物が返されてきた。


 私はその手紙に封蝋をして『親展』と書き、伝令に「直接父に渡して。そしてこの手紙の扱いは厳重にお願いしますと伝えてほしいの」とお願いをした。

 

 王城にいれば本当に安全なんだろうか?

 不安に思って子供達の側にいると、警護が増えていることに気がついて、フィータスは私の恐れなど看破していて、私に安心を与えてくれた。


 コンチェスタに使いに出した伝令が父からの返信を携えていて、受け取り目を通すと、守りは固めるので、ヴィレスタ様の事は心配しなくても良いと書かれていた。


 ヴィレスタ様のことはこれで安心よね?

 私が守るべきは子供達だわ。

 私の怯えを子供達に知られるわけにはいかない。

 五人の子供達の弾けるような笑顔を守りたいと何度目になるか解らない、決意をした。

次話、最終話です。

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