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23 ユリアーノ、覚悟を問われる。

一行目、セリフ途中からだったものを修正しました。

書き上げた当時の本文が見つからなくて(クラッシュで失ってしまいました)今の私が修正してしまったために、セリフが変わってしまっています。

申し訳ありません。

 父が城に来て私に会いたいと伝えてきた。

「なにかあったのですか?」

「ヴィレスタの様子がちょっとおかしいんだ」

「ヴィレスタ様ですか?」


「ああ、ユリアーノの婚約以来ヴィレスタにとってコンチェスタが潜在的な敵になっているように見受けられる。ハルバートを殺したのもコンチェスタだとでも思っているかもしれない」


「そんな・・・ハルバート達を殺した相手のことを伝えなかったのですか?オリステーレの残党に殺されたことを」


「二人が亡くなった時は、あまりにショックが大きくて、口にできなかったんだ。それからは話そうにもこちらの意見を聞こうとしなくてな」

「そうですか・・・」

「ヴィレスタにもしっかりと護衛を付けているから心配は要らない」

「だといいんですけど・・・」

 私はコンチェスタの守りでは安心できないと思っただけに、不安が残った。




 学生の頃に受けていた王妃教育が再開され、私は一気に忙しくなった。

 

 ユリアーノが受けていた王妃教育は、私の身となり血となって私を作っていた。

 ハルバートに嫁ぐと決まってから、止めてしまったところまではさらっと復習しただけで記憶していたことに自分でも驚いた。

 教えられていない王家の秘密等を重点的に教えられることになった。



 その教育を担当したのは陛下の母である、前王妃マリアルイス様だった。

「ユリアーノと、こうして相見(あいまみ)えるとは思いませんでした」

「お会いできて光栄です」

「フィータスはユリアーノを手に入れるために、無理を通したのですね」


「・・・そのようです。私は陛下の優しさに漬け込んでしまいました」

「そうね。あなたはうまくやったと思うわ」

「申し訳ありません。今の状況を望んでいたわけではななかったのですが・・・」

「そうかしら?」

「私はただ、安全が欲しかったのです」


 王妃には嘘をついてもバレてしまう気がして、素直に答えた。


「子を持つ母としては理解できます。ただ、ユリアーノはこれからうまくやった女と言われ続けるでしょう」

「はい」

「覚悟はあるのね?」

 そんな覚悟はない。けれど子供達を守るために私は最善を尽くす。

「・・・はい」



 陛下は私と婚約するために私とキャルウェンの魔力が高いことを公表した。私達親子は王家に迎えるべき人間だとゴリ押ししたようだった。


 そこまで魔法に重きをおいている国でもなかったのだけれど、私とキャルウェンの魔力は他の人と比較できないほどに多かった。


 私に癒しは使えないけれど、怪我ならば、なかったことにできる。

 その力は見ようによっては癒しのようにも見えて、王家に取り込むことは必須だと思い込ませることができた。

 陛下と私の結婚に反対するものは居なくなった。



 キャルウェンのことはまだ子供で、魔力量が多いだけで、まだ上手く使えていないと陛下が伝えた。

 キャルウェンの取り込みも必要だと貴族達は言い出し、王子のコルベルト殿下と婚約することを求められ初めている。


 陛下は、子供達に相手を選ぶ余地を残すために、婚約はなるべく遅くすると約束してくれた。

 ミステイーナ王女殿下がフォロウェインかベリートゥインを婚約者に選ぶ日が来るかもしれないからと、表立てての理由はそういうことに決まって、陛下との養子縁組はしないと話が決まった。


 シューテイン家を継ぐのはフォロウェイン、ベリートゥインのどちらでもいいと仰ってくださって、二人に侯爵と領主の教育を与えてくれた。

 その費用について少し揉めた。


 陛下と養子縁組をしないため、税金で私の子供達に教育するわけにはいかなかった。

 経営をおまかせしている領地からの収益で子供達の費用を出すことで話は落ち着いた。

 私の費用は王家持ちと決まった。



「フィータスがユリアーノを気にかけていたことは知っていましたが、経産婦になったあなたを王妃に据えるほど愛情を持っていたとは知りませんでした」

「わたくしも驚いております」


「ユリアーノはなんだか昔のイメージと変わってしまったわね」

「子供も出来ましたので」

 私の心臓は早鐘を打った。

「バリファンを殺すことを考え続けていたユリアーノより、今のあなたのほうが好ましいと思うわ」

「・・・ありがとうございます」


 本当に王家の人達はどこまで知っているのか、ため息を吐きたくなってしまった。


「強かなのはかまわないわ。でもフィータスを裏切ることは許しませんよ」

「はい。裏切るつもりはありません」

 王妃は私に嘘がないか見極めるようにじっくりと私を眺め「ならいいのよ」と納得してくれたようだった。


「正直なところ、わたくしはオリステーレではなくコンチェスタが潰されると思っていました」

「そうですね。私もそう思っていました」

「ハルバートがあなたを愛し、あなたが受け入れた・・・。それで未来は変わったのでしょうね。オリステーレにとっては大いなる誤算だったでしょうけれど」


 

 ユリアーノと夏弦が入れ替わっていなかったら、きっとコンチェスタが潰れていただろう。もしくは両方が。

 ユリアーノはハルバートを殺しただろうし、一人殺してしまうと、歯止めが効かなくなって、義父、義母、ヴィレスタと次々に殺しただろう。


 ユリアーノが、最後に臆病だったことに感謝する。

 誰かを殺してから逃げ出すのではなく、何もせずに逃げ出したことに感謝する。

 もしかしたら、全員を殺してから入れ替わりの魔法を使ったかもしれないのだから。


 マリアルイス王妃に案内されたのは城の中でも王と王妃の夫婦の寝室の奥にある小部屋だった。

「まだ内定だけの私をこのような場所に連れてきてよろしいのですか?」

「どうなのでしょうね?フィータスの望みだから・・・早くユリアーノの本音を知りたいのかもしれないわね」


 私は意味がつかめなくて首を傾げた。

 その部屋には小さなテーブルの上に箱が一つと一人掛けのソファーが二脚置かれているだけで、他は何もなかった。

 小さな部屋と言っても、八畳くらいの大きさはある。


「これは王家の歴史書なの」

 そう言って、テーブルの上の大きな箱を指し示す。

 どこからどう見てもただの大きな箱にしか見えず、私が首を傾げていると、王妃は箱にある鍵穴に鍵を差して、解錠した。 

 すると箱にしか見えなかった物が本へと姿を変えた。


 それは今の技術ではありえないものだった。

 マリアルイス王妃が表紙を開くと、歴代の王、王妃の名前が書かれ、血判が押されている。

 数ページ捲ると、最後にリューチェウ王妃の名前と血判が押されていた。


 リューチェウ王妃の名前を指でたどっているとマリアルイス王妃が「これに名前を書いて、血判を押したら後戻りはできません。もう一度聞きます。覚悟はあるのかしら?」


 私は少し逡巡して、ペンを取り、名前をサインして、小さなナイフで指を傷つけ、サインの後ろに押し当てた。

 傷を塞ぐ時の魔法をかけて、怪我をなかったことにする。


「ユリアーノはリューチェウ王妃と仲が良かったのですね?」

「はい。とても良くしていただきました。割と本気で、私に陛下の側室になれと何度も誘われて、戸惑っ

たこともありました」


「そう、なのね。リューチェウ王妃は今の状態を喜んでくれるかしら?」

「解りません・・・。王妃になるのは違うだろうと言われるかもしれません。でも、もしかしたら笑って許してくれるのではないかと、そんな気もいたします」

 

「そうね・・・。ユリアーノ。・・・野心は持たないでね」

「野心ですか?」

「そう。フォロウェインやベリートゥインを王座に据えようなどと考えないで」


「当然です。私が生んだ三人の子たちはオリステーレ・・・いえ、シューテインの子供達です。新たに賜ったシューテイン家を守る子供達です」


「それを解っていてくれるのならばいいのです。フィータスとユリアーノの子が生まれることもあるでしょう。その時は堂々と王子、王女を名乗らせなさい。その子達はフィータスの子供なのだから」

「ありがとうございます」


 正直なところ、私の生んだ子に王位継承権は欲しくない。

 私の子供の中で格差が出来ることを私は望んでいない。でもそれは私の我儘なのだと解っている。

 覚悟を決める中に含まれることになるのだろう。

 私はたくさんの子を産むことを、国中の人達から望まれている。


 マリアルイス王妃も私に思うところはあっても、再婚を嫌がっていた陛下が私とならと再婚を望んだため、仕方なく受け入れているのだろうと思う。

 子供が産めることはハルバートとの子供で証明している。

 マリアルイス王妃も私が側妃なら快く受け入れられたのだろうけど、陛下が王妃にと望んでしまったから・・・。



 私が本に名前と血判を押すと、本の中から鍵が一本出てきた。

「この鍵はユリアーノ以外は使えません。鍵を左手に握って見て」

 私は言われたとおりに左手に鍵を握り込んだ。

 今まで手の中にあったはずの感触が無くなり、手を開くとそこには何もなかった。


 驚いて「えっ?」と声をあげてしまう。

「左の掌を開いて『鍵』と心の中で思ってみて」

 左手を開いて心の中で『鍵』と念じると、掌の上に鍵が現れた。

「握ると鍵は体内に入り、呼び出すと掌の上に現れます。決して無くさないようにしてくださいね」

「解りました」


「王家の長い長い歴史です。この国が統合されるよりももっと前からの・・・。私達は何も書き込んではいないのですが、私達が行ったことは勝手に書き込まれていきます。悪事を働けば、その悪事が書かれ、善行を行えばその善行が書かれていきます。この本は決して嘘を付きません。事実だけが書かれていきます」


 私は少し怖くなった。ユリアーノがしたこととはいえ、入れ替わりが行われているのだ。

 そのことを知られたらどうなるのだろうか?


「この本はこの部屋から持ち出せません。鍵の持ち主以外入ることも出来ません。現在の鍵の持ち主は前の王とわたくし、フィータス、ユリアーノだけです。次の王妃になる者が現れたら、この部屋でわたくしがしたことと同じことを、ユリアーノがしてあげてください。フィータスがもしも次世代に引き継ぐこと無く、亡くなった場合は、新たな王にも同じようにしてちょうだい。この本は王と王妃しか読んではいけません」


「解りました」

「ユリアーノは一日も早く、この本を読み進めなくてはなりません。読んで、そして王族としての覚悟を持ちなさい」

「覚悟・・・努力いたします」

 マリアルイス王妃は満足したのか、私を置いて、部屋から出ていった。

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