22 子供を守るために頼ったのは?
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お葬式から一週間経ったけれど、オリステーレの残党が見つからない。
九人の残党達がいつ子供達を襲うかもしれないと思うと、怖くて仕方ない。
そう一度考え始めると、その考えから逃げ出せなくなってしまう。
私は確実な安全がほしかった。
コンチェスタに戻っておいでと父に言われたけれど、コンチェスタでは私達は守れない。
私はコンチェスタに戻ることを選ばなかった。
私ではシューテイン家も子供達も守っていくことができない。
私は私達を絶対に守ってくれる唯一人の人。
陛下に、助けを求めた。
「陛下、お忙しいところ申し訳ありません」
「ナツルの方が大事だ。頼ってもらえて嬉しいぞ」
「シューテイン家をどうすればいいかご指示いただければと思いました」
「そうだな・・・子供達が成人するまでにはまだまだ時が必要だ」
「はい」
陛下は思案顔をした後、私を心配そうな顔をして見た。
「ユリアーノ、夜は眠れているのか?」
陛下が私を心配してくれていることに安心した。
「守ってくれる存在が無くなったことがこれほど恐ろしいことだとは思いませんでした」
「オリステーレの残党が全て捕まっていたら、安心できたのだろうが・・・すまない。まだ見つけられていない」
「陛下に謝っていただくようなことではありません」
「ナツル、残党が捕まるまで城に来ないか?」
「えっ?」
驚いたような声を出しているが、そう言われることを望んで陛下の前に、今の弱った私を見せに来ている。
「一人で子供を抱えて、いつ襲われるか解らない恐怖にいつまでも耐えられるものではない。城にいれば、残党が襲ってくる心配は無くなる。夜、安心して眠れるようになるぞ」
即答したいのを堪えて見せて「そこまで陛下にご迷惑は掛けられません・・・」と、白々しくも答えてみせた。
「私のようなものを城に入れては、黙っていない人も多いでしょう。とても嬉しくて、お受けしてしまいたいお言葉ですが、お受けする訳にはいきません・・・」
陛下は立ち上がり、私の隣に腰を下ろす。
私の手を取って、視線を合わせる。
「心配するな、全て私に任せよ。ナツルはただ、はい。と言えばいいんだ」
「陛下・・・」
心では頼ると決めている。ただ、ほんの少し、ハルバートに申し訳ない気持ちもあって、陛下へ答えられずに居る。
でも、子供達を守るためには、私には陛下が必要なのだ。
優しい力で陛下に抱きしめられる。
「私の我儘だ。側にいて、私を安心させてくれ」
「陛下、いけません!!」
身を離そうとするが、陛下はそれを許してくれなかった。
「頼む。城に来てくれ」
私は私の思う通りに私が陛下の側にいるように、陛下に望ませた。
それとも陛下の掌の上なのだろうか?
私は躊躇しながらも、陛下の言葉を受け入れたように見せかけた。
私は子供を守るために陛下を利用しようと決めたのだ。
それは陛下も解っているはず。
あの陛下が私の考えなど、解らないはずがない。
陛下は「昔みたいに名前を呼んでくれ」と言って私の髪に口づけた。
陛下との始めての触れ合い。
「フィータス、様・・・」
体が離されたと思ったら、項を掴まれ、また引き寄せられると、唇を塞がれた。
何度も角度を変え、深くて長い、キスを陛下と何度も交わした。
心と体が陛下と口づけたことを喜んでいる。
背筋が震えるほどの快感を感じたことがない。
これ以上心を傾けることが、怖いと感じた。
唇が離れてはまた塞がれて、息が上がるほどのキスを交わして「荷物をまとめてすぐに来い」と言われて、私は息を切らせながら「・・・はい」と答えた。
私はいつの間にか涙を流していて、涙を止めるのにほんの少し、時間がかかった。
涙の意味は自分でもよく解らなかった。
うまくことが運んだことの喜びからなのか、それともハルバートを裏切ったと思ったからなのか、はたまたまた全く別の・・・これで子供達は安全だと思ったからなのか・・・。
ただ自分が誰に対しても不誠実であることだけは私自身が一番良く解っていた。
私と子供達はその日の内に荷物をまとめて城へと向かった。
子供達は王子と王女の部屋の並びに、部屋を用意していただいて、王子達と同様に護衛を付けて下さった。
私は陛下の部屋に最も近い客室に案内された。
王子と王女は子供達と幼馴染だった事もあって、喜んで受け入れてくれた。
王子と王女が受け入れてくれることは解っていたが、実際に受け入れられて、私はホッとした。
子供達も家にいたときより、私に心のゆとりが見えるからか、笑顔が浮かんでいて、安心しているように思えた。
陛下は私が自宅に帰っている間に、ありとあらゆる手配をしてくれていた。
もしかすると、すべての業務を止めて、私を受け入れるために手を尽くしてくれていたのかもしれない。
領地、屋敷、それと、私達が城に住む手配の全てを。
その日の夜、ハルバートが亡くなって以来、初めてぐっすりと眠ることができた。
翌朝、私の顔を見て、陛下は「眠れたようでよかった」と頬に優しく触れ、触れるだけのキスを一つ私にした。
この日から陛下は誰が見ていても、私への愛情を隠さなくなった。
子供達は王子達と一緒に午前中は勉強をして、午後からはマナー、ダンス、お茶会の練習をしている。
とても楽しそうだ。
勉強と言われながらも遊んでいるのと変わらない。
子供達の笑い声を聞きながら、私はゆったりとした気分でお茶を飲んでいる。
ハルバートが死んだと知ってから初めてゆったりとした気分を味わっている。
穏やかに一週間が過ぎて、二週間が過ぎた。
オリステーレの残党は見つからないけれど、城の中には手出しはできない。
子供達が学園に行くまでに、なんとか片付いて欲しいと心から願う。
子供達は互いに競い合っているのか、授業がよく進むと、家庭教師に感謝された。
王城に来たときより、子供達のマナーも格段に良くなっていた。
私こそと家庭教師の方々に感謝を伝えた。
一ヶ月が立つ頃、陛下にお茶に誘われている時に「婚約しないか?」と聞かれた。
声も出ないほど驚いた。
何時かは言われると思っていたけれど、それはハルバート達の一周忌が過ぎてからだと思っていた。
「過半数以上の許可は得た。ハルバート達の喪が明けたら、結婚したい」
私は陛下の唇を手で押さえて「そんなことを仰ってはいけません」と拒否した。
それから毎日、会う度に「結婚しよう」と口説かれ「私のような経産婦との結婚などありえません」と断りながら、陛下に求められて、女の部分が喜んでいた。
陛下はユリアーノではなく、ナツルと呼んで、私を欲しがってくれるから。
時折キスされながら、抱きしめられ「ナツルが欲しい」と何度も言われた。
両親に相談すると「そのつもりがあるから王城に入ったのだと思っていた」と呆れて言われた。
そう、その通りだけど、あまりにも早すぎないかと相談しているのだ。
ただ、ヴィレスタ様だけはいい気はしないだろうと言われた。
ハルバートの葬式からたった三ヶ月で、陛下と私の婚約が内々に結ばれた。
ヴィレスタ様にはただ「おめでとうございます」とだけ言って、笑顔もなく背を向けられてしまった。
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お兄様が死んでから三ヶ月でユリアーノ様が陛下と婚約をした。
何もかも異例づくしだ。
ユリアーノ様は兄を裏切った。
やはりコンチェスタとは相容れないのだと思い知らされた。
コンチェスタの子供だと思うと、我が子のアンバーですら可愛いと思えなくなってしまった。
ユリアーノ様にどうすれば、お兄様を裏切った報復が出来るのだろうか?
お兄様とお父様が殺されてから、警備が厳重で、私にも自由がない。
どうすれば、いいのか・・・。
ユリアーノ様だけは絶対に許さない。