20 キャルウェンは楽しそうに雷を呼ぶ
すいません。
王妃の死に関する話を差し入れました。
すっぱり抜けていました。
申し訳ありません。
えりこさんありがとうございます。
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キャルウェンは魔法が使える。
キャルウェンの感情とともに色々なものが動き、突然水が湧き出たりする。
魔力の多い子がこんなふうになることを誰も知らなくて、皆でただ驚いている。
私はもっと魔法のことを知らなくてはいけないのだと思う。
私は魔法が使えても、実際に使ったことは数えるほどしかない。
子育ての合間に図書館に通い、魔法の本を片っ端から読み進めた。
図書館で読むものが無くなった時、途方に暮れた。
魔力の強い子供をどう育てればいいのかどこにも書かれていなかったから。
母に「私が赤子の頃、おかしな子だと感じたことがあった?」かと聞いてみたけれど「特になかったわよ」と期待外れの答えが返ってきた。
最後の手段が一つ、陛下に尋ねるという手段が残っているけど、陛下に尋ねていいのか迷っている。
今日のキャルウェンは楽しそうに雷を呼んでいた。
「だめよ。キャルウェン!雷を呼んではいけないわ」
キャッキャッと楽しそうに笑いながら雷に届けとばかりに手を伸ばす。
私は私の力を使って雷を追いやった。
キャルウェンは私なんかよりずっと力が強い。
このまま普通に育つことができるのか心配してしまう?
ハルバートは特に心配していないのか、子供達を平等に愛してくれている。
ハルバート曰く「魔力は誰でも持っているものなのだから、意図して災害を起こしたのでなければ、気にしなくていい」のだそうだ。
私はこの時、陛下に相談することを決心した。
***
ハルバートはシューテイン家の後を継ぐのはフォロウェインでもベリートゥインでもどちらでもいいと思っているようで、二人一緒に何でも教えている。
義父はやはり初孫は可愛いのか、フォロウェインが継ぐべきだと思っているようだけど。
まだ小さいのに気が早いと私は思う。
私は誰がシューテイン家を継いだってかまわない。
陛下が私が産んだ子って言ったのだから、キャルウェンだって継げるのだから。
子供達の成長が楽しみでならなかった。
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夏弦になったユリアーノはまだ十七歳だった筈。
お医者様に十七歳だと言い張って見るものの、私は四十歳だと言う。
鏡を見ると五十歳と言われても頷けてしまう。
頭に白いものが混じっている。
入院してからもうすぐ五年になると言われる。
なら私は二十二歳。本当なら今頃・・・どうだったのかしら?
薬のせいで思考はぼんやりして、道筋を立てて物事を考えられない。
私は誰・・・だったっけ?
「私には殺さなければならない敵がいる・・・の?」
「金神さんは退院できないね。施設に移ってもらわないと」
「ですが引き取ってくれる施設が見つかりません。ご両親も我関せずで、一度も会いに来られていませんし」
「高齢者用の施設をあたってみたらどうだ?認知症を専門に預かってくれるところもあるだろう」
「あーそうですね。探してみます」
「早くベッド開けてね」
「解りました!!」
五年間いた病院から向日葵園という施設に移動することが決まったと言われた。
入院してから初めて外に出る。
この世界に来て初めて外に出たのは入院したときだった・・・。
「健次がそこにいる?」
「さぁ、どうでしょうね」
強く背を押されて私は「いたい!!」と文句を言った。
初めて車というものに乗せられる。
車が動き出し、それは信じられないスピードを出した。
あまりにも早いスピードで移動することに恐怖を感じて私はパニックを起こしてしまった。
シートベルトという体を固定するもののせいで大きく動けなかった。
暴れていると上半身だけは自由になった。
その時ふとシートベルトを付けられたときのことを思い出して腰の横にある金具を押さえるとカチャッと音を立ててシートベルトから自由になった。
そして私は前の座席へ手を伸ばした。
車を運転していた人の頭を掴んで、腕を引っ張ると車が大きく回転した。
シートベルトから抜け出した夏弦はフロントガラスで頭を強打して、割れて車外に放り出された。
運悪く回転した車を避けようとハンドルを切った別の車に頭を踏み潰され夏弦の体は死んだ。
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魔法を積み木で遊ぶように使うキャルウェンは不思議と、私が忌避するような使い方はしない。
たまに雷を呼んでみたり、雨雲を呼んだりするだけだ。
気象庁があったら、予報が外れたと非難をあびるところだろうと考えて、クスリと笑ってしまう。
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唐突に陛下から「今直ぐ来てくれ」と乱れた文字が書かれた手紙を受け取った。
慌てて駆けつけるとリューチェウ王妃がベッドで寝かされていた。
側で陛下がリューチェウ王妃の手を握っている。
私は一瞬息が止まって、ハッとして慌てて癒やしの魔法を掛けた。
魔法は発動しているのにリューチェウ王妃はピクリとも動かない。
「リューチェウ王妃!!」
「私が手紙を送ったあと直ぐに息を引き取ったんだ」
「そ、そんなっ!どうして?!」
「少し前に食事をした後に息苦しいと言って咳をしていたんだ。心配していたんだが、熱もでなくてただ息苦しいだけだと言っていたんだ。一旦治ったかのように思っていたんだが、再発したのか何かの病気だったのか・・・昼食を取ると息が苦しいと言い始めて、唇や手が真っ白になって何度呼びかけても返事がなくて・・・体中に水ぶくれのようなものが出始めてそれっきり意識を取り戻すこともなく息を引き取った」
一ヶ月後にリューチェウ王妃の葬儀が執り行われた。
リューチェウ王妃の国からご両親が来るまで葬儀は延期されていた。
保存魔法でリューチェウ王妃の姿は綺麗なままで取りすがるコルベルト王子とミスティーナ王女を見ていられなかった。
葬儀のすべてが終わって陛下から「リューチェウ王妃からの手紙だ」と渡された。
亡くなる前に私に出そうとしていた手紙だった。
季節の挨拶から始まって遊びに来てというお誘いで、早く陛下の側妃になりなさいと書かれていた。
「だから私にはハルバートがいるんですってば・・・」
リューチェウ王妃の弾けるような笑顔を思い出してしまって、涙を止めるのにとても時間がかかった。
リューチェウ王妃の喪に服す期間が終わった。
悲しみはまだ大きいけれど、日常は待ってはくれない。
特に子供達は。今日も走り回って大人を奔走させる。
キャルウェンは兄達と一緒がいいのか、フォロウェインとベリートゥインと同じように席について家庭教師の話を聞いているらしい。
家庭教師の話では、キャルウェンは授業を理解していると言う。
「キャルウェンは先生の言っていることを理解しているのかい?」
と、夫のハルバートが聞いてくるが、私には解らない。
「兄達の真似がしたいのか、理解しているのか、私にも解らないわ。ただ邪魔にならない限りは一緒にいればいいんじゃないかしら?」
「まぁ、そうだな」
四人目を欲しがる夫との攻防で今のところ勝利を上げているが、いつ負けて四人目を身籠ることになるか不安でしょうがない。
この世界には避妊薬がないので、避妊方法がないのと同じなのだ。
「愛している」と甘やかされ、抱きしめられると身を任せてしまう。
育たないことも多いために産めよ増やせよの世界である。
が、元日本人の夏弦はそこまで多く子供が欲しいと思わない。
「ハルバートだって兄妹の二人だったじゃない。三人産んだらもう十分よ」
「だけど、子供達みんな可愛いじゃないか。女の子をもっと欲しい」
今夜は負けてハルバートの好きにされてしまう。
ハルバートに愛されるのが嫌じゃないのが問題だ。
けれど、まだ嘘を混ぜずに愛しているとハルバートに伝えられない。
だからハルバートは私が愛の言葉を口にすることを求めない。
***
オリステーレの一族が潰されて一時、国力が弱まり、それを補うために新興の貴族が増えた。
空いた領地に、力ある商家達に爵位を授け運営をさせた。
オリステーレの親族は平民になり、散り散りになっていった。
時折困窮した親族がシューテイン家にやってくるが、手助けはしてはならないという陛下との約束があるため、手助けはできない。
義父は時折辛そうにしている事がある。
義母は私達に知らされることなく、いつの間にか処刑されていた。
ハルバートを殺したと思いながら処刑されたそうだ。
義母の実家も力を失い降爵した。
私の祖父は領地で元気で過ごしている。
相変わらず私と兄とは連絡を取ってくれないけれど、私達ももう諦めた。
「お母様!!お勉強終わったよ。お腹すいた!!」
「お腹すいた!!」
三人が一斉にお腹すいたと言い出す。
実はこの子達、三つ子なんじゃないかしらと思うことがある。
兄弟喧嘩をほとんどしない。最優先されるのは何時もキャルウェン。
まさかこの年齢でレディーファーストでもないだろうし、一体何なのだろう?
不思議で仕方ない。
キャルウェンも兄達に譲ることができる子で、我が子ながら三人が良い子過ぎて逆に心配してしまう。
キャルウェンの魔力は私を軽く上回る。
はっきりしたことは言えないけれど、聖魔法も使っているような気がする。
いよいよ最後の手段の出番で、陛下にキャルウェンの魔力の話をした。
ここ何百年、聖女は現れていない。
というか、実在したのが本当なのか解らないほど昔のことらしい。
この世界では魔力判定など存在しない。
自分が何の魔法が使えるか知っていれば十分。
使える魔法で、就ける仕事が変わることがある程度のこと。
ユリアーノが魔力が多く、色々な魔法が使えると陛下に申告していれば、陛下と結婚できたのではないかと思う。
ユリアーノの意識が、敵討ちにばかり向いていてそのことを失念していたのかとユリアーノの愚かさに笑ってしまう。
***
ハルバートと義父が領地へ視察へと旅立った。
オリステーレが持っていた領地とは違う領地を陛下より賜っていた。
領地経営で金銭的に一息つけるようになった。
シューテイン家はオリステーレの爵位を引き継いだ形で、侯爵のままだ。
オリステーレの親族達は、自分達がしたことを棚に上げて、バリファンへ向かうべき腹立ちを義父と陛下へと向けている気がする。
馬鹿なことをすれば、平民の命など簡単に刈り取られてしまうので、賢く生きて行って欲しいと願っていた。