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17 狙われたのはステフォイン

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ユリアーノの力の抜けた体が心配になる。

 妊娠中に魔術を使っても問題ないのか、それも心配になる。

 直ぐに父が降りてきて、ステフォインと挨拶を交わしている。

 

 私とユリアーノの状態を見て眉をひそめる。

 ヴィレスタはステフォインに身を任せている。

 私が刺されたことで一気に二人の距離は縮まったのだろう。


「で、何があった?」

 腕にユリアーノを抱いたまま、私は父に事の顛末を話して聞かせた。


 そして、刺した犯人はカルミとロッテだと伝えると父が鬼の形相になった。

 シアとランドールとオルカが一斉に動き出す。


「狙われたのはステフォイン様で間違いないのだな?」

「はい」

「で、お前が刺されたんだな?」

「はい・・・」

「傷はどうした」

 私がなんと答えようかと躊躇していると、腕の中にいたユリアーノが背筋を伸ばして父に相対した。


「私が魔法で治しました」

「魔術が使えたのか?」

 ステフォイン様も目を見開いているので、知らなかったのだろう。


「はい」

「癒しが使えるということか?」

「癒しは使えません。傷が無かった時へと戻す魔法を使いました」

「癒しではないのだな?」

「はい」


 癒しが使えるとなると、聖女認定されてしまう。

 すると、一般の生活ができなくなる。

 妊娠してる今、離婚まではさせられないと思うけれど、簡単に会うことは叶わない生活になるかもしれない。

 ユリアーノは光魔法は使えるが、聖魔法は使えないと言っている。

 但し、聖魔法以外はすべて使えるのだとも言った。


 義父は確認だけ取ると、ステフォイン様に謝罪をした。

 カルミとロッテの二人は母が個人的に雇っていると思われると言い、また謝罪した。

「刺されたのがハルバートで良かった」

 その言いざまは酷いと思ったけれど、ステフォイン様が刺されることに比べたら本当に私で良かったと思う。


「ユリアーノの魔術がなかったら私は死んでいたと思います」

「なら、死んでいろ」

「解りました」


「ヴィレスタとユリアーノは部屋に戻って体を休めてきなさい」

「はい」

 二人は素直に返事して、ユリアーノはステフォイン様に「せっかくきていただいたので、私の部屋を見て行って下さい」と誘っていた。


 ララがユリアーノに寄り添って歩き、三人は応接室から出ていった。


 父は怒りをどこにぶつければいいのか解らない顔をしていた。

「マリアンネ!!もう許すことはできないっ!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 兄に私の部屋を見せると「本当に大事にされているんだな」としみじみとした声で言った。

「そうでしょう」


 ヴィレスタが居なくなると、兄に抱きついた。

「お兄様が無事で良かったっ!!」


 私はどちらの立場で兄の無事を喜んでいるのだろう?


「ユリアーノは体は大丈夫かい?妊娠中に魔術を使って問題ないのか?」

「体に異常は感じていないけど、解らないとしか言いようがないわ」

「魔術、使えたんだな」

「成績優秀だったでしょう?」

「そうだけど、あんなに力があると思っていなかったよ」


「ちょっと復讐心溢れてて、魔法を使えること、隠していたの。でも、本当に魔法が使えて良かったわ。そうでなければハルバートを助けられなかったもの」

「ハルバートを愛しているのかい?」

「よくわからないわ。好きではあるけど。愛しているのかは、よく分からない」


 健次を愛しているから・・・。


「そうか・・・。ユリアーノが幸せなら、どちらでも私は嬉しいよ」

 兄は私の頭にキスを一つ落とした。

「次はお兄様よ」

「そうだな」


 ノックが聞こえ、返事をするとハルバートが入ってくる。

「ステフォイン様、ご自宅まで送らさせて下さい」 

「お願いします」


 兄を玄関まで送り、兄は護衛騎士に囲まれた馬車に乗り、シアが御者席に乗って送っていった。

 義母が捕まるまで兄の身の安全は保証できないだろう。

 義母が私を害することは考えていたけれど、まさか兄を狙うとは思ってもいなかった。


 兄が死ねばヴィレスタはお嫁に行かなくてもいいと考えたのだろう。

 バリファンの話をしていた時、目を輝かせていたのは、兄を殺す事を考えついたからだったので。

 やることがバリファンを踏襲している。

 兄が一人の時に襲われるのではなくて本当に良かった。


 シアが無事に帰ってきたのを見て安心したのか、体がふらついた。

 ハルバートに支えられ「今日はもう休め」と言われ、私は休ませてもらった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 領地に押し込められて何ヶ月経ったのかしら?

 子供達に手紙を送っても、夫から文句の手紙が届くだけで、子供達は返事もくれない。


 あの子達だって皆、解っているはず。

 コンチェスタはオリステーレにとって邪魔なだけの存在だと。

 ハルバートの寵愛を受けているユリアーノが憎らしくてたまらないし、可愛いヴィレスタを娶ろうとなどと厚かましい事を言うコンチェスタなど滅ぼしてしまえばいいのだ。


 お義父様が子供を殺したって、王家は何もできなかったのですもの。

 何をしたって王家は何もできないに決まっている。


 カルミとロッテが本邸に残っていられたら、ユリアーノを始末してもらうつもりだったけど、辞めさせられてしまったので、方向転換することになった。


 他家のことなので情報がなかなか入ってこず、コンチェスタの息子が外出する日が掴めなかった。

 

 カルミとロッテも役に立たないわね。

 この屋敷にいる者たちは全員が夫に忠誠を誓っている。

 金銭では靡いてこないのだ。

 コナをかけたことも夫に報告しているようで叱責の手紙がすぐに届く。


 夫と距離が離れたため、叱られても怖くないことが唯一良かったことだとしみじみと思う。

 お義父様とお義母様に育てられたはずなのに夫はなぜコンチェスタを憎まないのか理解ができない。


 お義父様とお義母様が亡くなってからは、コンチェスタを滅ぼさなければならないと焦燥感が募るばかりだ。


「あーもう!!本当にイライラするわねっ!!」


 眠れない夜を過ごしていると、荒々しい数頭の騎馬の音が聞こえ、使用人達が対応している。


「何なのかしら?!」

 ガウンを羽織り、誰かが部屋にやってくるのを待っていると、若い執事が走り込んできた。

 ノックもせず、走り込んでくるなんて執事としては落第もいいところだわ。


「奥様っ!!ハルバート様がっ!!ハルバート様が亡くなったと!!」


「はぁ?何を言っているの?」

「ハルバート様がコンチェスタのステフォイン様を庇ってカルミとロッテという、オリステーレの元使用人に刺されて亡くなられたそうですっ!!」


「えっ?」 

 何を聞かされたのか理解が追いつかない。

「何を馬鹿なことを言っているの?」

 我が家の紋章を背負ったマントを付けた騎士が「失礼します」と言って部屋に入ってきて、執事が話したことと同じことを言う。


「二人に背中を刺され、即死でした」

「うそ!嘘でしょう?」

「残念です」

 そう言って騎士は目を真っ赤にしている。


「どうしてハルバートがコンチェスタを庇ったりするの?」

「オリステーレとしてコンチェスタを傷つけさせるわけに行かないからではないでしょうか」

「うそ!ありえないわっ!!ハルバートが死ぬなんて!!」


「旦那様は犯人が元使用人だったので、コンチェスタではなくハルバートが死んで良かったと仰られておりました」

「そんなっ!!」


「奥様、取り乱さず、馬車にお乗り下さい。今直ぐ本邸へ向かっていただかなければなりません。葬儀の都合もございますし・・・若奥様は現在妊娠中で無理ができません。奥様にしっかりしていただかなければなりません」


「妊娠?」

「はい。連絡が来てませんでしたか?若奥様はハルバート様が亡くなられて取り乱して居られまして、ハルバート様に取りすがって離すのに苦労しました」

「私は何も知らないわ・・・」


「若奥様は身の安全を考えてコンチェスタに戻ることになるだろうと旦那様が・・・。跡取りを失い、その子供はコンチェスタに取られることになるだろうとも・・・」


 情報が多すぎて理解が追いつかない。

「犯、人は、捕ま、ったの?」


「ハルバート様の最期のお言葉だったので、なんとしても捕まえたいと思っておりますが、私がこちらに向かってくる時にはまだ捕まっておりませんでした。何があっても許しません。カルミとロッテは必ず捕まえます!そしてどうしてコンチェスタを狙ったのか白状するまで死ねない拷問を与え続けてやります!誰かに命令されていたのならそいつも必ず捕まえて死ぬより辛い目に合わせてやります!!」


 騎士は「奥様のご支度をして下さい」とメイド達に伝えて部屋から出ていきました。


 ハルバートが死んだ?

 ユリアーノがハルバートの子を?

 カルミ達が捕まったら、私も捕まるの?


 私、何を間違ったの?


 呆然としていてもメイド達が私を着替えさせ、化粧をされて馬車に乗せられた。

「このような馬車で申し訳ありません。他は出払ってましてこんな馬車しか残っておりませんでした」


 私が乗せられたのは内からは開けることができない護送用の馬車だった。

 

 もしかして私が殺すように言ったことがバレているの?

 本当にこの馬車しかなかったの?


 ハルバートが死んだ・・・?

 ハルバートがカルミとロッテに殺された・・・?

 命令したのは私・・・。

 死ぬのはコンチェスタの筈!

 なのに何故?ハルバートが死ぬの?

 どうすればいいの?!

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