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16 祖父のどうしても受け入れられない気持ち。

***



「お祖父様、ただいま戻りました」

 返事はない。

「ユリアーノは元気そうでしたよ」

 これにも返事はない。

「お祖父様にとってユリアーノはもう、可愛い孫でないのですか?」


 祖父は苦虫を潰したような顔をした。

「ユリアーノは望んでオリステーレへ嫁いだわけではありません。王命でした。そこまで嫌ならなぜ、ユリアーノが嫁がなくていいように陛下に言ってくださらなかったのですか?」


 歯ぎしりの音が聞こえる。

「私は王命でオリステーレの娘を妻に迎えなければなりません。逆らいようのない王命で結婚する私のこともユリアーノと同じように。可愛い孫とは思ってもらえないのでしょうか?」


 ドンとテーブルが叩かれる。

「私のために王命を拒否してきてくださいますか?」

 祖父は私を睨みつける。

「ユリアーノは人質に取られたままになってしまいますが・・・」


 テーブルの上にあった茶器が払われ、床に落ちて砕けた。

「お祖父様も王命を受け入れたのなら、他のことも受け入れて下さい。ユリアーノが可哀想過ぎます。ユリアーノは敵地で一人で頑張っているんですよ!!」


「黙れっ!!ステフォイン!もう下がれっ!!」

 今まで黙っていた父も私に下がるよう言ったので、私はメイドに茶器を片付けるように伝えた。

 高い茶器だったのに、もったいない。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ドリステン家は失爵するかもしれません」

 シアがいきなりとんでもないことを言い出した。

「失爵って・・・」

「王家に選ばれるために色々したことが表に出てきています。それに、お金も使いすぎているようです。内情は火の車で、お茶会を開催しても新しいドレスが作れず、前に着たものを手直ししているようです。若奥様に言われるまでドリステン家の事は気が付きませんでした・・・」


 私もまだまだです。という心の声が聞こえるような気がした。

「王家は対応していないの?」

「無関心を装ってらっしゃいます」

「陛下、ナウシア様がお嫌いだったものね・・・」


「そうなのですか?」

「そうなのですよ。ちょっとしつこくし過ぎて嫌われちゃったって言うか・・・オリステーレは被害を受けそう?」


「旦那様達が対応されています。そのせいで、ドリステン家の崩壊は早まるかもしれません」

「そう・・・王家が助ける気がないのならどうしようもないわね」



***



 今日はグレープフルーツが食べたくて仕方ない。

 私は地団駄を踏んでグレープフルーツを所望した。

 ララはため息をつきながら買い物に出かけてくれた。


 私の妊娠が発覚してハルバートが過保護になってしまった。

 外出の許可が降りない。

 夜のお相手はさせるのに、外出禁止は酷くない?


 

 兄から手紙が来て、ヴィレスタと一度会いたいと書かれていた。

 二人きりでは会話が続かないだろうから、私も一緒にお茶でもどうかと誘われた。

 私の手紙の中にヴィレスタへの手紙もあり、私はヴィレスタの部屋へと向かった。


 ノックをすると可愛らしい声で入室を許可され、室内に入ると勉強していた。

 ヴィレスタ様は学園を今年卒業予定。

「ユリアーノ様!」

「ヴィレスタ様に兄、ステフォインからの手紙を持ってきました」

「えっ?」


 手渡すとペーパーナイフで封を切り、そっと手紙を出して目を通している。

 読み進めるごとに頬が赤く色づくのが可愛らしい。

 私にはない可愛らしさだわっ!!

 少女?として負けを一人で勝手に認めているとヴィレスタが「ユリアーノ様もご一緒してくださいますか?」と聞いてきた。

「お邪魔じゃなければ喜んで」


「お返事を書くので、後で一緒に送っていただいてもいいですか?」

「勿論です。兄も喜ぶと思います」

 少しでも交流が持てて、互いに好意をいだけるといいね。



 ヴィレスタからの返事はすぐに私の手元に届いた。 慌ててハルバートの下へ行き、兄からの手紙を見せ、外出の許可をもらって、兄への返事を急かされて書くことになった。


 ただ、デートの付き添いの私に、付き添いが付くことになってしまった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 時間より早めに待ち合わせの場所に着くつもりだったけれど、妹達はすでに来ていた。

「またせてしまったかな?」

「違うの。私の外出が久しぶりだったから、早めに出てあちこちうろうろしていたの」


「ああ、やっぱり妊娠してるんだ?」

「えっ?どうして・・・知ってるの?」

「顔合わせの時に父上がユリアーノがふっくらしているっていい出して、妊娠したんじゃないかって」

「ん?」


「母上が妊娠したときは、悪阻もなく、食の好みが変わって、食事の量が増えていたんだって。ユリアーノも同じ体質なのかもしれないって」

「なるほど・・・」

「妊娠じゃなければただ太ったってことになるし・・・」


 ユリアーノの形相が恐ろしいものへと変化した。

 早く太った話から離れたほうがいいな。


「で、妊娠で間違いないのかい?」

「ええ。間違いないわ。毎日変なものを食べたくて料理人達をあたふたさせているわ」

「そうか。おめでとう」

 ユリアーノは嬉しそうな笑顔を見せた。

「ありがとう」


 さすが親だな。私はユリアーノに聞くまで信じていなかったけど、本当に妊娠していたんだ・・・。

 驚いた。



「いきなりこんな話はどうかと思うんだけど、陛下が結婚を一年先送りにしてもいいと言ってくださっているなら、結婚は再来年にしたいと思っています」


 ハルバートが「理由をお伺いしても?」と聞いてくる。

「祖父が頑固で困っています。領地に帰ってくれたらいいんですが、領地に帰る気も無いようで・・・」

「そうですか」


 三人の顔が暗く沈む。

 これも話題転換だな。


「それにヴィレスタ嬢と私のためにも一年伸ばしたほうがいいと思うのです。もっと交流を持って、一緒に結婚式のことを決めていきたいと思います」

「そうね。私とハルバートの結婚式のときは大変だったものね・・・」

「そうなんだよ」


「なにか大変なことがあったか?」

 知らないということは本当に・・・。

 ユリアーノも同じことを思っただろう。


「ドレスが何着必要かも解らなかったし、招待客の人数も解らなかったし、すり合わす方法がなくて私達は本当に苦労したわ」


「そうだったんですか?」

 口数が少ないヴィレスタ嬢がやっと口を開いてくれて、ホッとした。


「ユリアーノは毎日キーキー文句ばかり言ってました。最終的に教会と披露宴会場に問い合わせてこちらがすり合わせたんです」

「知りませんでした・・・」

 ハルバートがしゅんとしている。

 こうやって見ると、ハルバートにも可愛いところがあるのだと思った。


「なので、私達の結婚は二人で話し合って決めたいと思います」

「私も二人で決めたいです・・・」


 ヴィレスタ嬢のほんのり頬を染める表情に一瞬見とれてしまった。

 この子は本当にすれたところがなくて可愛らしい子だと思った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 


 兄とヴィレスタは私達がいなくても楽しそうに話ができたようで、次回は二人で会う約束をしていた。


 支払いの時にどちらが払うかでちょっと揉めて、兄とヴィレスタの分は兄が払い、私とハルバートの分はハルバートが払うことで決着が着いた。


 兄がヴィレスタをエスコートしているのを微笑ましく見ていると、ハルバートも私に手を差し出した。

 

 ハルバートの手を取って歩き出そうとすると、ハルバートの手が私から離れ、ハルバートが走り出す。

「ステフォイン様!!」



 そこからはスローモーションのように見えた。


 手にナイフを持った二人の女が兄に向かって走って来るのが見える。

 ハルバートが兄とヴィレスタ様が繋いでいる手を引き、ヴィレスタ様がその場で尻餅をつき、ハルバートと兄の立ち位置が反転して、兄が刺されると思っていたのに、気がついたら二人の女はハルバートの背中を刺しているのが見えた。


 女達が刺したナイフを引き抜いて、刺した相手を確認して驚いているのが見える。

 どこかで見たことがある女二人は慌てて来た方角とは反対へと走って行ってしまい、兄がハルバートを抱きとめ「ハルバート様!!」と名を呼んでいた。


 私はハルバートの下へ駆けつけるとハルバートが「カルミとロッテ」と言って意識を失った。


 店内と外から沢山の叫び声が聞こえ、ヴィレスタが「お兄様!!」と言って縋って泣き始める。

 

 私はハルバートの刺された場所に手を当て、刺し傷が消えるように魔法を使った。

 三十秒もかからなかっただろう。

 刺された傷口が消えてなくなる。


 兄が目を見開いて私とハルバートの刺された場所を見比べる。

 ハルバートが目を覚まし、私は兄とハルバートに「ここから逃げなくては」と言った。


 ハルバートは本当に痛みが無いようで、私の手を握り、兄に「ヴィレスタをお願いします」と言い、私を気遣ってゆっくりと走り、馬車に乗り込んだ。


 直ぐ後ろにいた兄達も馬車に乗り込み、御者にこの場から離れるように急がせた。


 誰も何も言わないけれど、なぜハルバートの傷が消えたのか聞きたがっているのが解る。


 ヴィレスタが「お兄様、傷は大丈夫なのですね?」と確認を取り、ハルバートは刺された背を触り「なんともない」と答えた。


 ハルバートが「あの店には二度と行けないな」と言って笑い、兄も「そうだね」と言って笑った。


 自然な流れで兄もオリステーレの屋敷に来ることになり、屋敷に踏み入れた兄は落ち着きなく、挙動不審だった。

 少し笑えた。


 穴の空いた服に、血で汚れた格好のハルバートにシアが驚き「直ぐに医者を!!」と言ったのを、怪我はないから必要ないとハルバートが止めた。


「父上に話がある。すぐに来てもらってくれ」

「かしこまりました」とシアが階段を駆け上がる。

 シア、まだまだ若いね。


 ランドールが駆け寄ってきて、本当に傷がないのかハルバートの体を確認している。


 応接室に入る前にハルバートに掴まれ「傷を治したことを話さなければならない」と私に言った。

 私は無言で頷いた。


 ソファーに腰掛けた途端、体から力が抜け、背もたれに上半身を預けた。

 すると、ハルバートに抱き寄せられ、私はハルバートに寄りかかる格好になった。

 目を閉じ、後はハルバートと兄に任せることにした。

毎日連載、本日で終了とさせていただきます。

また来週の水曜日1/10に読んでいただけたら嬉しく思います。


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