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15 ユリアーノの報告と我儘になる

***



 義父とハルバートに話がしたいと言われ、義父の執務室へと呼び出された。

 その場にはヴィレスタもいて、コンチェスタとの顔合わせには三人で行くことに決めたと言われる。そして、エルロイも謝罪がしたいと言っていると聞かされる。


 正直、コンチェスタの恨みをどうすれば和らげられるのか解らない。

 家族を殺されて、謝られたからといって許せるものではないだろう。

 戦争で死んだのではないのだ。

 私怨で子供が殺されたのだ。


「正直なところ、どうすればコンチェスタに許してもらえるのか、私にも解りません・・・」

 義父もハルバートも頷いている。

「誠意を示して行くしかないと思っている」

「そうですね」


「聞いてもいいか?」

 ハルバートがいつもとは違う自信なさげに言う。

「なんでしょう?」

「当事者のユリアーノはどう思っているんだ?」


 私は暫く考えて、私はユリアーノじゃないからと言う思いが心を占めた。

「バリファンが生きていらしたら、刺し違えても仇を取ったかも知れません・・・それか、同じように弱いところ、ヴィレスタ様を害したか・・・」

 私はユリアーノの感情で答える。


 ハルバートが鎮痛な表情で私を見る。

「けれど、私は王命だったとは言え、オリステーレに嫁いできました。それは屈辱で恨みは増し、逃げ出したいと考え、最期には諦めるしかありませんでした」


 ここにいる全員が私を恐れているのかもしれない。


「その一方で、私は誰よりも幸せになりたいとも思っています。ハルバート様に愛されている自信があります」

 その愛を返せなくてごめんね。


 ハルバートが顔を赤くして私を見ている。この場にいる全員がハルバートの顔を見て、ニヤニヤしている。


 私は一つ息を呑んで、ハルバートに向かって話しかける。

「昨日、病院に行ってきました。妊娠三ヶ月だと言われました」

「えっ?!」


 また全員が目を見開き、ハルバートは私の言葉を咀嚼するように何度も「妊娠三ヶ月・・・」と口にして「でかしたっ!!」と言って私の側にやって来て、私を抱きしめた。


 ヴィレスタが次に「おめでとうございます」と言い、義父とシアが喜びに顔をほころばせ、ランドールは未だ理解できないような顔をしていた。


 私はコンチェスタでは喜んでもらえるだろうか・・・?と冷めた頭で考えた。



***



「オルカ、なにか酸っぱい果物あるかしら?」

「酸っぱいものですか?」

「そう、レモンとか」

「聞いてまいりますね」

「お願い・・・」


 ありがたいことに悪阻はない。

 その代わりにやたらと酸っぱいものが欲しくて仕方ない。

 本当は梅干しが食べたい。

 けれどないんだから仕方ない。


 でも、梅の実はあるんだよね〜

 紫蘇も。六月になったら梅干し作っちゃうからね!!

 ご飯が欲しくなっちゃうよね〜〜・・・。

 はぁぁ・・・。


「レモン、ありましたよ」

「本当?!キッチンに行くわ!!」


 料理長のバンバランにレモンを半分に切って、レモン汁を絞ってもらって、砂糖を好みの分量入れてもらって、炭酸水がないから、水で割ってもらって、氷を魔法で出してレモン水の出来上がり!!


「レモン水が飲みたいって言ったらこれを作ってもらえる?」

「分りました」

「ありがとう!!」

 バンバランにハグしたら、オルカに怒られ、バンバランは真っ赤になっていた。


 実は、妊娠してから口が変わったと言うことにして、キッチンに口出ししている。

 日本で食べていた洋食のあれこれを作ってもらっていて、料理人が満足したものは夕食のメニューにもなっている。


 素材が美味しいから、何を作っても結構美味しい。

 ベーコンのポトフは最高だった!!

 私は三日連続で頼んでしまったもの。

「同じものを何日も続けて食べるのは・・・」

 と言われて仕方なく、四日目に違うものを食べた。


 義父は悪阻がないことに驚いているし、ハルバートは私が凄く食べるようになって驚いている。

 ヴィレスタは、私も赤ちゃんが欲しいと私のお腹に抱きついてくる。

 あ、これはハルバートも抱きついてくる。

 流石にお父様は抱きついては来ない。当然よね。


 ハルバートはお医者様から説明を受けて、夜の生活を回数をなんとか抑えつつ、なにか?を頑張っている。


 妊娠初期ってあまりしないほうが良かったんじゃなかったっけ?



***



 コンチェスタとオリステーレの初顔合わせの日になった。

 始めから一緒に食事は無理だろうからと、昼食後にセッティングした。


 私達は先に行ってコンチェスタがくるのを待った。

 時間より少し早めにコンチェスタがやって来てくれて、私はホッと息を吐いた。

 祖父が居ないことをやっぱりと思って、そして安心した。祖父がいると、進む話も進まなくなるだろう。

 今はまだ、いない方がいい。


 どちらも互いのことは知っているので簡単な挨拶をして、席に座る。

 勿論、コンチェスタが上座だ。


 私が来てくれたことに感謝していることを伝えると、義父が口を開いた。


「ユリアーノから聞くまで父、バリファンがしでかしたことを知りませんでした。エルマリート令息のこと、アゥレート様の葬式で父、バリファンが仕出かしたこと、本当に申し訳ありませんでした」

 アゥレートは自殺してしまった叔母のことだ。


 コンチェスタは誰も口を開かない。

「知らなかったでは済まないことと承知しています。許していただけないことも分かっております。謝罪の機会をいただけて本当にありがとうございます」


 長い長い沈黙の後、父が口を開いた。

「簡単に許せるとは思わないでいただきたい。我が家はまだ父が健在です。その恨みはオリステーレが考えるよりももっと暗く、重いものです」

「はい」


 また長い沈黙があり、父が一口お茶を飲んで覚悟を決めたような顔をした。


「ですが、王命により互いに嫁を取ることになりました。私の可愛い娘はオリステーレで良くしてもらっていると言っている。それは信じられないことですが、娘に暗いところは見当たらない」


 父が黙るとシーンとした音が聞こえるのではないかと思うほど誰も何も言わない。


「許せはしないが蓋をしてみようと思います」

 オリステーレが全員顔を上げた。

「ユリアーノが大事にされているように、ヴィレスタ様を我々も大事にしたいと思います」


 義父が万感の思いで「感謝いたします」と言った。


 初の顔合わせはこうして終わった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ユリアーノはちょっとふっくらしていなかったか?」

 父が帰りの馬車の中で言った。


 行きの重い沈黙ではなく、雰囲気は軽く穏やかなものになっていると思う。


「そうですね。あの子、もしかしたら妊娠したのかもしれませんね」

「そうだな。私もそう思ったよ」

「わたくしの体質を受け継いだのね」


 どういうことか解らなくて両親に質問する。

「どういう事?」

「わたくし、妊娠すると悪阻がなくて、食べ物の好みが変わって、ものすごくたくさん食べるようになったのよ。だからユリアーノももしかしたらと思ったの」


「妊娠したら言いませんか?」

「今のタイミングでは言いにくかろう」

「あぁ、そうですね」


「ヴィレスタ様には初めてお会いしたが、綺麗な子だな」

「そう、ですね」


「ユリアーノに頼んで三人でお茶からお付き合いを始めなさい」

「はい。私もそうしたいと思います」


「お義父様はどうされるのでしょう?」

 母が祖父の心配をする。

 それは祖父が心配なのか、祖父のすることが心配なのかどちらなのだろう?


「話してみる。エルマリートの父親にも謝罪をしてもらわないとな。会わせることに一苦労しそうだが」

「そうですね。まだまだ課題が多いですね」

 両親がため息をつく。


「ユリアーノが言っていましたが、陛下が結婚を一年伸ばしてもいいと仰っているそうです」

「そうか・・・なら来年か、再来年か、早く決めなければならんな」


「ステフォインの結婚が一年伸びるのはいいことではないともユリアーノは言ってました」

「一年伸ばすとステフォインは二十三歳か」

「はい。ですが、もう一年猶予がもらえるならもらうべきかと思いますが・・・」


「ステフォインがそれでいいなら、そうしてもらおう。ヴィレスタ様はまだ若いしな」


「お祖父様ですよね・・・」

 三人でため息をついた。

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