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13 ユリアーノはお茶会、ハルバートは母の手紙、オリステーレは陛下に頭を抱える。

 シアが私の執務室にやって来て、カルミとロッテの調査報告書を持ってきてくれた。

 紹介状も持たさず辞めさせられたその後、義母の個人資産で雇われたらしい。

 領地の屋敷にも入れないのに雇って何をする気なんだか。


 現在、所在は不明。

 領地に行った事は間違いないのだけれど、確認は取れていなくて、完全に姿をくらましているらしい。


「お義母様から何か言われて、私に害をなそうとしているってことかしら?」

「・・・調査は続けます」

「お願いします。なんなら、陛下に尋ねてみるのもいいかもしれませんよ」

「さすがにそれは・・・」

 そう言ってシアは下がっていった。



 オリステーレとコンチェスタの顔合わせの日取りが決まった。

 お祖父様は頑として拒否しているが、両親はユリアーノ可愛さ、で受け入れてくれたのだと思う。

 少しでも歩み寄れたらいいな。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 わたくしは病院という場所で、この世界の常識を一つづつ教えられている。

 何もかも解らないことだらけで本当に苦労している。

 食事一つ満足に食べられない。

 箸もフォークもまともに使え無くなってきている。

 フォークは使えるはずなのに・・・。

 口に入れるものの大半は私の口に合わない。

 何が口に合わないって、醤油というものが、塩っ辛くて黒くて気味が悪い。


 健次が用意してくれたものも口に合わないと思ったけれど、ここの食事に比べたら、健次の作ってくれたものは食べられるものが多かった。

 安っぽい食器に盛られた食べ物を見ただけで食べるきを失くす。


 女性なのにズボンを履かされたり、検査だと言われて見たこともない大きな音のする何かの機械というものの中に入れられたりしている。

 その度に怯え、怖がる以外、わたくしにできることはない。


 私は薬でどんどん虚ろになっていく。

 元々の私が虚ろになっていたのに、輪をかけて考えることもできない。

 時折思い出すこともあるのに、それを伝えると、また妄想が始まったかのように扱われ「はいはい。解っていますよ。ユリアーノさん」とその場だけ話を合わせる。


 両親に会いたいとお願いするも、わたくしの両親は会いに来てくれない。

 健次が言っていたように、この世界では大人になった子供の面倒は見ないのだろう。


 健次はわたくしをここに連れてきて以来、一度も顔を見せてくれない。

 わたくしが頼れるのは健次だけなのに。

 お医者様に健次に会いに来てもらえるように頼むと、連絡先を知らないと断られてしまった。


 わたくしはこの世界でたった一人でどうすればいいの?

 わたくしは一体誰なの?

 誰か助けて・・・!!

 お父様!お母様!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ドリステン家の門をくぐり、贅の限りを尽くした庭園へと案内される。

 ドリステン家ってこんなに裕福だったかしら?

 少し不思議に思って、あとでオルカに調べてもらったほうがいいかもしれないと、心にメモする。


 天幕が貼られている日陰に入ると、気持ちがいい風が通り抜ける。


「ナウシア様、本日はお招きありがとうございます」

「まぁ!ユリアーノ様!!ようこそいらしてくださいました。陛下に見限られ、敵地へと嫁入りしたご気分はいかがですか?」


 まだ誰も来ていないからなのか、直接的に攻撃してくる。

「陛下に見限られたとは初めて知りました。先日も陛下とお茶会をしたばかりなのに・・・。次にお会いした時にナウシア様が私は陛下に見限られた。と仰っていた。と伝えておきますね」


「陛下とお会いしたですって?!」

「ええ。わたくしのような者に、陛下からお茶会の声がかかりました。次回のお茶会の約束もありますので、ナウシア様の仰っていたことを・・・」

「淑女たる者、そのようなことは陛下にお伝えすべきではないと思いますわ!!オリステーレでの生活はどうですの?!」

 ナウシアは顔をひきつらせながら、話を変えようと必死だ。

 私はクスと笑ってやった。

 ユリアーノからマウントを取りたいのかしらね?


「とても大事にされています。義父と夫からオリステーレの女主人を任されました」

「その噂は聞きましたけれど、実のないものなのでしょう?それも解らず女主人になったと噂を広めるしかないなんて、惨めなものですわね」


「あら、噂になっているのですか?恥ずかしいわ。そうそう、ナウシア様はそろそろ嫁ぎ先は決まりましたの?」

 ナウシアが「ぐっ」という淑女ではありえない声を漏らし、プイッとそっぽを向いて立ち去った。


 招待客をほっぽってどこへ行くだい、ナウシア様?

 ナウシア様、まだ陛下を追いかけているんだね。

 行き遅れと言われるまであと二〜三年、頑張って。

 頑張れば頑張れるほど嫌われると思うから、応援はしないけどね。


 お茶会ではナウシア様以外には概ね好意的に受け入れられていた。

 気が重かったお茶会は思ったほどのことはなく、ナウシア様のこと以外は楽しく終了した。


 帰り際、数人からお声がかかり、お茶会か、ガーデンパーティーに誘いたいと見たところ、悪意なく誘われた。

 「都合が合えばお伺いしたいと思います」

 とハルバートに使って陥落させる可愛らしさを、全面に押し出して答えておいた。

 男性も女性も「ほうぅ〜」と潤んだ瞳をして、私に好意的になってくれたので、ユリアーノの可愛らしさの使い方は、要研究!!と大きく心にメモした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 領地に押し込められた母からの手紙にため息が出る。

 父にコンチェスタの不満を口に出してはならないと言われたのに、書かれているのはコンチェスタへの恨み言ばかりだ。


 領地ですることもなく恨みばかりを募らせているような気がする。

 母はこんな人だったのだろうか?

 知らなかった母の姿を見せられて、戸惑いを感じてしまう。


 ランドールに手紙を見せると、ランドールの眉間に皺がいく。

「旦那様にもお見せしたほうがよろしいのでは?」

「シアにも見せておいてくれ。ユリアーノが陛下から聞いてきたカルミとロッテのことも気になるしな」

 ランドールは手紙を持ってすぐに出ていった。



 コンチェスタとの顔合わせが二週間後にせまっている。

 何も伝えていないのに、陛下から失敗するなと父に手紙が届いた。

 勿論失敗したくないと思っているが、コンチェスタは過去ではなく、今を恨んでいる。

 しかし、陛下は私達のことをどれだけ調べているのだろうか?


「爺様は厄介なことをしてくれた。子供を狙って殺すなんて・・・」

 ユリアーノの本心はどうなのだろう?怖くて聞けない。

 当事者なのだから強く恨んでいるのではないかと思う。

 私ならきっと許せないだろう。


 なのにユリアーノは嫁いできてくれて、私を受け入れてくれている。

 ヴィレスタのことも気にかけてくれて、両家の間を取り持とうと頑張っていてくれている。

 どうすればユリアーノに報いることができるのだろうか・・・。

 愛しているんだユリアーノ・・・。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 オリステーレが開催する夜会が開かれる日がやって来た。

 私が女主人になったことを大々的に発表するのだ。

 参加者は約百人。

 陛下も顔を出してくれると約束してくれている。


 そう、陛下がいらっしゃる。

 当初、ガーデンパーティーを予定していたのに!!

 声もかけていないのに、陛下から出席すると連絡が来て、今日の日付と、時間が指定されていた。


 それはガーデンパーティーが出来る時間帯ではなく、夜会の時間だった。

 大慌てで招待状を作り直して、予定を組み直すことになった。


 ガーデンパーティーですら、まだ開催したことがない女主人にいきなり夜会を取り仕切れ。というのは酷ではないですか?陛下!!

 ユリアーノの意識があるといっても、夏弦の常識が邪魔して、混乱することも多々あるんですよ!!私!!

 とパンチを食らわしてやりたいと思うのは夏弦だからだろうか。


 夏弦は陛下に重きを置けないでいる。

 陛下もただの一人の男だ。

 ユリアーノが好きだったからなおさら、ただの男としての認識が強い。

 それに、私の苦労の全てはフィータス陛下から始まっているのだから。


 ユリアーノは陛下の言うことに逆らったりしない。

 それは好きだからなのか、王として敬っているからなのか私には判断がつかなかった。

 ユリアーノが出来たことは、入れ替わりの魔法で第三者に迷惑をかけて、自分だけが逃げだすことくらいだ。



 オルカに私の装いのおかしなところはないか何度も聞いてしまう。

 ハルバートが私の手をとり、口づけて「完璧だから心配するな」と言ってくれる。

 何度か深呼吸をして、自分を律する。

 今日だけは何があっても、失敗できないのだ。


 それでも落ち着かない私はオルカに、指示の確認をする。

 オルカは呆れながらも一つ一つ丁寧に答えてくれた。


 夜会が始まる時刻がやって来た。

読んでいただきありがとうございます。

これからもよろしくお願いいたします。

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