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SSヤキモチ焼きな彼女



 エドワード殿下とメアリー様の婚約も決まり、二人の生活は順調に進み始めていた。


 もうすぐ正式なお披露目となる婚約式が行われる。


 まだこの国に慣れないメアリー様のための話し相手として来ていた私はもう役目もないかと思われていたけれど、メアリー様たっての希望で婚約式が終わるまで引き続き王宮に滞在することになった。



 実は私としてもその方が嬉しい。


 メアリー様とお話しできることはもちろん、エリック様ともここにいた方が会いやすいものだから。


 


 今日は多忙を極めるエリック様とやっと会えた。


 珍しく夕食後の予定がないと聞いていたので、私の部屋でお茶でもどうかと誘って二人で向かっているところだ。



 殿下の婚約式の準備も重なって最近の彼は特に忙しいものだから、久しぶりに二人の時間を過ごせることに喜びが隠せない。


 今日は二人でゆっくりできるように色々と考えているのだ。




 そう思った瞬間――――


「公爵様〜!!」


 前から派手な令嬢たちが歩いてくる。


 ああ、また……!



 私と恋仲になったということが周知の事実となってもなお、エリック様の人気は健在だ。


『だって、婚約したわけじゃないでしょ?』

 と言ってあからさまにアプローチしてくる令嬢も絶えない。


 どれだけ人気なのよ、エリック様は……。



 エリック様の徹底した根回しと、殿下やメアリー様のおかげもあって、さすがに危害を加えられるようなことはないけれど、まったく衰えを知らないエリック様の人気に私は少し疲弊していた。



 今日もまた始まるんだ……。


「公爵様ぁ、今度ぜひ我が家の夜会にいらしてくださいな」



 むむ、あれは侯爵家の令嬢だわ。


 令嬢はしなだれかかる勢いで大胆にもエリック様の腕に自分の手を絡ませながらその豊かな胸を押し付けている。




 はあ、だんだんエスカレートしてる気がする。



 とはいえ、そんな状況でも決して動じないわ。


 懸命に笑顔を作り、優雅な振る舞いを忘れない。


 こんなことで取り乱すようじゃ、エリック様のパートナーだなんて胸を張れないもの。




 エリック様が令嬢と二言三言交わすと、彼女たちはきゃあきゃあ言いながら去って行った。



 っく〜〜〜。

 私の大切なエリック様にベタベタと……!


 悶々とした気持ちを抱えながら、私の部屋へ辿り着きエリック様を招き入れた。


 二人で並んでソファに座りくつろぐ。




 少しの間、沈黙が流れる。



「どうした?」


「別に、何でもないですよ」


 強がって答えたのがバレバレだったのか、エリック様はふと揶揄うような笑みを浮かべた。

「もしかして、ヤキモチだなんて可愛いこと思ってくれたのか?」


 思いっきり図星を突かれて、私は顔がカッと熱くなる。



 悔しいけど、ここで否定したって何の説得力もないや。


「………はい」


 エリック様はこれ以上ないほど優しい笑顔で私の頭を優しく撫でた。


「そうか、悪かった」



「じゃあ、お詫びに私のお願い聞いてくれますか?」


「なんだ?」


「今夜は一緒にいたいです」


「……」


「今日だけエリック様の時間を私にくれませんか?」


「……そんなことを言って、俺が我慢できずにもっとお前を欲しいと言ったらどうするんだ」



「我慢なんてしなくていいです」

 夢中になった私は思わずエリック様に詰め寄り、胸元に縋りつくようにシャツを掴んだ。


 私の時間なんていくらでもあげるのに!

 そんな当たり前なこと聞くなんてエリック様ったらどうしちゃったのかしら。


 だって、今日を逃したらまたしばらく忙しくなっちゃうもの!

 エリック様ともっと話したい!



「お前は……そんなこと軽々しく言うもんじゃない」


 エリック様は少し焦ったような照れたような、もどかしさを露わにして髪を掻き上げながら息をつく。


 その様子がなんとも色っぽくて、私は不覚にもドキドキしてしまった。



「軽々しくなんかじゃありません……。私は本当にそう思ってます」


 真剣な気持ちを伝えたくて、シャツを掴んだ手に力を込める。



「怖くないのか……?」


 やった!

 お願い聞いてくれそう!


「エリック様が怖いわけありません! 今夜は夜通し色々なお話しをしましょう!」

 私は笑顔で立ち上がり、このためにミラにお願いして予め用意しておいたお茶や軽食を手早く用意してみせた。



 セッティングが終わって唖然としたエリック様の隣に座り直すと、彼は突如下を向く。


 えっ?!

 どうしたのかしら?


「っぷ……。くくく」


 堪えていたらしき笑いが徐々に大きくなり、彼はお腹を抱えて笑い出した。


「どうしたんですか? 何かおかしいですか?」


「っく、くくく。いや、そうか、夜通し“話し”をするんだな」


「はい! 最近ゆっくりお話しする時間が取れなかったじゃないですか」


 笑顔を見せてくれたエリック様に安心して、ほくほくとお茶を注いで彼の前に置いた。



「ああ、そうしよう」


 まだ少し笑いながらそう言ったエリック様はそっと私の髪に触れる。


 そして、優しい表情で私を見下ろした。

「その前に俺の願いも少しだけ聞いてくれるか?」


「はい、もちろんです!」


 私が元気に答えると、エリック様は私の手首を優しく掴みそっと引き寄せた。


 予期せぬ行動にバランスを崩して、彼の逞しい胸に飛び込んでしまう。


「あ……」


 体勢を立て直そうとする私を優しく制するように、エリック様は私の背中に手を回しぎゅっと抱き寄せる。



 少し見つめ合ってから、私は甘い予感にときめく心を抑えて目を閉じた。


 エリック様の優しい唇が一度、私の唇にゆっくりと触れる。


 離れたかと思ったらすぐに、今度は一段と深く口づけた。


 今日の長い夜を予感させるかのように、私たちはそのまましばらくの間、深くて甘い口づけを繰り返す。




 それは、王宮のどんなスイーツよりも甘美で私を幸せな気持ちにさせたのだった。


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