34、勇敢な姫と英雄に祝福を
それから、間もなくロジャーがエリザを捕えると彼女は観念したように俯いて大人しくなった。
シエラも一連の事件の証人として騎士団員たちと一緒に連れ立って行く。
ロジャーは去り際に私を見つめていたけれど、そこにはさっきのような悲しげな顔はなく、何かが吹っ切れたようなすっきりした表情をしていた。
私を気遣うようにニコッと笑い、エリザを連れて出て行く。
ごめんね、気持ちに応えられなくて。
去っていくロジャーの背中に、私は心の中でそっと、ありがとうとさよならの気持ちを送った。
どうしても、私は――――
「……『話したいこと』の続きがまだだったな」
そう言って、エリック様は私の頭にぽんと手を乗せて揶揄うような笑顔を浮かべた。
もうっ、意地悪なんだから。
分かってるくせに……。
でも、自分の想いを伝えられないままもう二度と会えなくなってしまうかもしれないという絶望の昨日を思い出したら、そんなことどうでもよくなってくる。
この短期間に色々あり過ぎた。
それでもこの心にあるエリック様への気持ちだけはちゃんと分かる。
そう思い、意を決してこの気持ちを言葉にしようとしたその時、突然エリック様が私の前に跪いた。
?!?!
私の手をそっと取り、甲にキスを落としてから私を切ない瞳で見上げる。
「あ、あの、」
「お前と会えなくなって気づいた。レイラのいない毎日なんてもう考えられない」
「……それ、私のセリフです」
「やはり気が合うな」
「少しは素直になれましたね」
「レイラは冷静になれたようだ」
もうエリック様のこと好きって言っていいんだ。
大好きでいていいんだ。
そう思ったら嬉しさが込み上げて、こんなやりとりがすごく嬉しくて、感情が堰を切ったように溢れる涙が我慢できなかった。
エリック様はそんな私を見ると、ふっと笑って立ち上がり私の頬に流れる涙を優しく指で拭ってくれる。
「やはりお前はすぐ感情的になる」
「う……ん」
私が声にならない声を絞り出すと、エリック様は一瞬切ない表情を浮かべてから私をぎゅっと抱きしめた。
「レイラが好きだ」
耳元で囁かれた言葉にとくんと胸が高鳴る。
「絶対に私の方が好きです」
私は嬉し涙がポロポロ溢れてくる目を閉じて言う。
「感情的な上に強情だな」
エリック様が耳元でクスリと笑った。
「世界中の幸せ全部集めたみたいな顔とはこういうことを言うのか」
そう呟いて、泣きじゃくるメアリー様の肩を抱いたエドワード殿下は、これまでにないほど優しい顔をして私たちを見ていた。
「レイラ……良かった。うう」
メアリー様は私よりも大泣きしながらその愛らしい瞳を濡らしている。
私は二人に向き直りお辞儀した。
「エドワード殿下、メアリー様。ありがとうございます」
お二人にはずっと支えてもらっていた気がする。
ものすごく心配をかけて、そして応援してくれていた。
「これでやっと胸を張ってエリックの婚約を承認できる日がやってきそうだな」
そう言ってエドワード殿下がホッとした様子でエリック様を見つめる。
「おお、あれほど公爵の婚約に反対していたエドワードがそんなことを言い出すとはな」
国王陛下は、はっはっはっと笑いながら言う。
「今日を待っていたからですよ。そうですよね、父上?」
すると、国王陛下は優しい微笑みを湛えながら言った。
「ああ。勇敢な姫とこの国を再び救ってくれた英雄を心から祝福しよう」
エリック様は国王陛下にゆっくりと深く一礼して、私に向き直った。
その顔は今まで見てきたどの表情よりも美しく、優しい。
見惚れている私の顎にそっと手を添えて引き寄せられ、エリック様の端正な顔が近づいてくる。
限りない幸福感に包まれた私は恥ずかしいなんて気持ちは吹き飛び、みんなの優しい笑顔と涙で見守られる中、高鳴る期待を感じながらそっと目を閉じたのだった。
☆長らく物語にお付き合いいただきありがとうございました!
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