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26、おばけなんてうそさ

 灯りを持って、真っ暗な廊下を歩いていると少しだけ心細い気持ちになる。


 夜の神殿て想像以上に怖いかも。

 自分のひたひたと歩く足音さえ、不気味に思えてくるよ……。


 ああ、こんな時は歌でも歌いたいけど、誰かにバレたらいけないから心の中で歌おう。


 えーと、えーと、なんかこう、おばけなんていないもん、そんなの嘘だもんね♪みたいな歌あったよね。愉快な曲調でさ。


 ああ、おばけとか言ってたら余計怖いよ!やっぱり歌はやめよう。



 角を曲がるとすぐ横の壁に、なにやら歴代の偉い人たちの肖像画が飾られているエリアに差し掛かった。


 ひいっ。こんな真っ暗闇の中で見ると、失礼かもだけど超怖い……!


 心の中で偉い人たちに謝ってから足早に通り過ぎた。


 ようやく辿り着いた薬草の部屋は、この前来たときよりもさらに暗くおどろおどろしい雰囲気だ。


 う、怖いから早く済ませちゃおう。

 シエラはどんなのが喜びそうかな……。


 そう思いつつ選ぼうとするが、正直言ってどれも同じに見えて分からない。


 うーん、見ても分からないからこの前見た時にあった珍しい香りの薬草にしてみよう。

 なんだか効き目もありそうだし。


 そうして膨大な薬草の山から、変わった香りの薬草を2つほど抜き取った。


「すみません、ちょっとだけお借りします」

 薬草の山に向かって独り言のように呟いてから、こっそりと廊下に出た。


 ふう、これでシエラにここから出れるように協力をお願いできるよ。


 安心して部屋へ戻ろうとした時、どこからかカツンカツンという足音が響いてきた。


 えっ?!?!誰か来る!

 こんな時間に人がいるなんて……!


 私は慌てて灯りを消して少し離れた壁の凹みに隠れた。


 こっそり窺い見ると、向こうの角から灯りを持った神官服の男性と赤髪の貴族の男性が歩いてくるところだった。


 その二人はゆっくりと歩き、不気味な雰囲気を醸し出している。


 なんか怖い。


 そのまま無言で私が出てきたばかりの薬草の部屋へのっそりと入って行った。


 よ、よかった……。

 あと少し遅かったら、あの二人に見つかるところだった。


 でも、こんな時間に神官さんが歩いてるなんて変な感じ……。


 いや、でもさ、貴族男性までいるっておかしくない??

 この神殿に部外者が面会で入れるのは日の入りまでのはず。


 それにあの神官さんの服、マーシャ達のものと違ってさっき見た肖像画の偉い人が着ていた色と同じじゃなかった?


 そこまで考えた瞬間、背筋がぞっと凍りついた。


 い、今のって、まさかお化け?!?!幽霊?!

 わああ!もしかして、見ちゃった?!?!


 そう思った瞬間、その場からじりじりと離れ無我夢中で部屋へ向かって走った。


 先ほど怯えていた肖像画の一角も、神官と貴族のお化けに比べたらちっとも怖くない。

 そうして自分の部屋へ静かに駆け込み、バクバクと音を立てる心臓を押さえ深い息をついた。


 こ、怖かったよ――……!

 無事に戻ってこれてよかった……。


 ベッドに入ってシーツを頭から被りながら震える。


 明日はちゃんと神様に祈ろう。

 そうしたらお化けも許してくれるかしら――――っ。


 明日のお祈りの時間は絶対に居眠りなんてしないで謝ろうと心から誓ったのだった。




◇◇◇





 朝の日差しが眩しくてぱちっと目を開ける。

 昨日、怖くてベッドに潜り込んでからいつの間にか寝ちゃったんだ。


 明るい朝日に鳥のさえずりが響いてくる。

 昨日の怖さとは一転した爽やかな空気に安堵してベッドから出た。


 夜じゃなければお化けは出ないよね!


 少し安心して私は身支度を始めた。



 その日の私は今までで一番熱心だった。

 真剣な様子で朝のお祈りをする私を、マーシャは見直したように眺めている。


 はあ、ここまでちゃんとやったから昨日のお化けも許してくれるといいな。



 そうこうしているうちにシエラが訪ねてくる時間になり、マーシャは私をこっそりと応接間に案内してくれた。


 ほどなくしてシエラが通され、私はやっと神官以外の見知った顔に会えてほっとする。

 マーシャは誰にも見つからないよう外で見張りをしてくると言って廊下へ出た。



「シエラ〜〜!!」

「まあ、レイラさん。お久しぶりです」

「うん、うん」

「す、すごいですねえ。聖女になられたなんて……! わ、私これから軽々しくレイラさんなんて呼んではいけないですよね……っ」

「違うのよシエラ! 私は聖女なんかじゃないの」

「ええ……?!」

「あのね、私もなんでこんなことになったのかよくわからなくて」

「は、はあ……」

「お願い! 助けてシエラ。ここから出たいの」

「ええ? そ、そんなお願いをされましても、私はどうしたら……」

「あのね、エリック様に状況を伝えてここから出して欲しいって伝えてくれないかな……?!」


 お願いを聞いて貰えるかわからないけれど頼れる人はエリック様しかいないもの……。


「ロ、ロラン公爵様に――? わ、私がですか……?!」


 慌てふためくシエラに懇願するように言った。


「お願い! ここから出たらエリック様にどうしても話したいことがあるの!」


 私の必死なお願いに戸惑った様子のシエラを見ていて、私はハッと思い出した。


「あ、もちろんタダでとは言わない! これあげるから!」

 言いながら昨日あの部屋から持ってきた薬草を差し出した。


「きっと珍しいものかなと思って」


 私の言葉を聞きながら薬草を手に取ったシエラは目を見開きギョッとした表情を浮かべながら小さく叫んだ。


「レイラさん! どこでこれを?!」

「え?」

「これって全部毒草ですよ! しかもかなり劇薬な」

「ええ?!」


 私が驚くと同時に、マーシャが勢いよく扉を開いて入ったきた。

 その展開に再び驚き、心臓がドクンと跳ねた。


 び、びっくりした!


 私は慌ててマーシャの目から薬草を隠すように立ち上がり、薬草をまじまじと眺めているシエラの前に立ちはだかった。


「どうしたのマーシャ?!」

「これから神官長様が来られるそうです」

「えっ?!」

「来客があるとかで、応接間をお使いになるって。見つかる前に早く行きましょう!」

「わ、わかった!」


 私はシエラに向き直りマーシャに聞こえないよう小声で話しかけた。


「シエラごめんね。今度はちゃんとした薬草を持ってくるから、」

「レイラさん、とっても嬉しいです。こんな上物そうそう手に入らないですわ。研究のしがいがあります、うふふふ」


 う、なんかシエラの目がいっちゃってる。

 でも喜んでくれたのならいいか。


「じゃあ、エリック様に伝言お願いできる?」

「もちろん、任せてください!」


 シエラは薬草が絡むとほんと人格が変わるなあ。

 しかし、今はシエラだけが頼りだからよかった。


 早く早くと急かすマーシャとともに部屋を出て、シエラと別れた。


「ささ、早くここから離れましょう。おそらくジェニエス侯爵様との面談の時間だと思いますので」

「ジェニエス侯爵様? 宰相の?」

「ええ、神官長様の元へよくいらっしゃるんですよ」


 そんな話をしながら応接間から離れようと歩き出した途端、マーシャが突然私の手を引っ張り、壁の凹みに隠れた。


「神官長様です!」

 マーシャは小声で言いながら私を後ろに隠し、人差し指を口に当てて『静かに』の合図をしてくる。


 私はこくこくと頷いてマーシャに合図する。

 神殿造りの廊下は隠れる場所がたくさんあって便利ね。


 ホッと胸を撫で下ろしながら辺りの様子をそっと窺うと、さっきまでいた応接間に神官長と赤髪の貴族男性が入っていくところが見えた。



 あ、あれ?!

 もしかして、昨日見た二人じゃない?!


 肖像画と同じ神官服を纏った男性と、目立つ赤髪の貴族男性。


 昨日の夜中、私が見たのは神官長とジェニエス侯爵だったんだ!

 それにしても、こんなに頻繁に訪れるってことはジェニエス侯爵は神殿が好きなのね。


「信心深いお方なんですね」

「ええ、娘さんも一緒にたまにいらしてますよ」


 え!それってヘレナだよね?

 彼女は信心深い感じはしないけど……。


 私が首を傾げていると、マーシャは微笑みながら言う。


「娘さんを溺愛なさっていらっしゃるようなので、きっと神官長様の祝福をたくさん与えてあげたいのだと思います。親子愛ですね。ふふ」


 ふーむ、そういうものなのか。


 そういえば、マーシャが賭博場の支配人もよく来て神官長の祝福を受けたりお祈りや奉仕活動をしてるって言ってたことを思い出す。


 そんな神殿とは縁遠そうな人も通ってる位なんだから、悪女とはいえ彼女も多少はそういった奥ゆかしさを持っているのかもね。


 私は一人で納得した。



 まあ、それにしても、昨日見たのがお化けじゃなくて本当によかった〜!

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