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23、無能の証し



「さあ、レイラ様。次は魔力を全身に巡らせるための呼吸法です」


 そう言って私をニコニコ顔で見つめる彼女は神官のマーシャだ。

 あれこれと私の面倒を見てくれている。


 ちょっと天然だけど、とても優しくて面倒見のいい素敵な神官さん。


 昨日ここへついてから結局帰れずやっと一夜を明かしたと思ったら、朝から聖力の扱いに慣れるための訓練をさせられている。



「あのう……、それより私はいつになったら王宮に戻れるんでしょうか?」


「えっ?」

 マーシャはとても驚いた様子で素っ頓狂な声を出した。


「え?」

 私は嫌な予感がして、思わず冷や汗を垂らしつつ同じように聞き返してしまう。


「やですねえ、レイラさん。しばらくはこちらで聖力の扱いを学んでもらうことになっていますよ」

 マーシャは屈託なく笑いながらそう言った。


 なんかマーシャって、ちょっとミラに似てる……。


 って!そんなことより!

 しばらくの間ってどういうこと?!



「聖力を授かった以上、レイラさんはこの国にとって特別な存在です。そしてあらゆる脅威から守る意味でも、神殿で責任を持って保護させていただきます」


 あらゆる脅威って……。



 確かに、聖力を持った存在なんて近隣諸国にとっても喉から手が出るほど欲しいでしょうね。


 この世界では、居るだけで国の繁栄と幸運をもたらす存在だもの。



 ――――本当に聖力があればの話だけどもねっ!



 昨日、廊下の曲がり角に見えた黒い髪。

 あれは絶対にエリザだった。


 時間が経てば経つほど確信している。


 エリザはきっと私とロジャーが相思相愛だと勘違いしているんだ。

 これまでの遭遇の場面を考えれば、そう思われても仕方ない。


 彼女の能力なら神殿の神官達の目を欺く程度のことは朝飯前だろう。


 だって原作小説ではこの国で最強の魔術師であり、彼女の辞書に不可能という文字はないと表現されるほどだったもの。



 だから邪魔になって私を聖女に仕立て上げて神殿へ閉じ込めようとしている。

 まんまと嵌められたというわけだ。



 もう、なんだってこんなことに……!

 早くエリック様に会いたい。


 元気かな、エリック様。

 この前、あんな別れ方しちゃって、私のことなんか呆れちゃってるかな……。



 そんな感傷に浸っていると、マーシャは明るい声で告げる。


「さあ、次は聖力の確認をするためのお時間ですので、泉の間に移動しましょう」



 有無を言わせず私を泉の間に連れてきたマーシャは、そこにいた複数の神官たちとなにやら準備をしている。



「さあ、レイラ様。こちらを羽織って泉へお入りください」


 そう言って、私に薄いベールのようなきらきらとした布を着せた。


 え、お入りくださいってこの泉に浸かるってことなのかな……。


 私が冷や汗を浮かべながら泉を見つめていると、マーシャは落ち着いた声で私に言った。


「大丈夫です、レイラ様でも腰ほどの深さしかありませんので怖くないですよ」


 う、うん。それなら平気かな。


 言われた通りに、静かに泉に入り身を清めた。



 ――――――――。



 そ、それでどうすればいいのかな。


 あまりの静けさに不安を感じて、神官たちの顔をチラッと窺い見ると、皆一様に不思議そうな表情を浮かべている。


 この反応は何だろう……。


 特に何の変化もないまま静けさを感じていると、マーシャが私の手を引いて泉から連れ出してくれた。


 私は耐えきれなくなって小声で尋ねる。

「ねえ、マーシャ。これには一体何の意味があるの?」


「ええ、この泉は聖力に反応するので、入るとどれくらいの力があるのかが可視化できるのですが……」


「……どうだったの?」


「う〜ん、なぜか反応がないですね」


 心底不思議そうに首を傾げている。



 そりゃあ、そうよ。


 だって――――



「あのですね、皆さん、」

 私はお腹の奥底から声を振り絞って、首を傾げているマーシャと神官たちに向けて続ける。


「私は本当に聖女なんかじゃないんです……」


 皆、目が点になって私を見ているが、お構いなく続けた。



「だって……私には何もできないもの! 私は無能よ!」



 ――――――――。



 一瞬の間があってから、マーシャと神官たちは一斉に『あっはっはっ』と笑い出した。



「いやあ、またまた〜」

「急に何をおっしゃるのですか聖女様」

「そうですよ、王宮で聖力を見せてくれたではありませんか」


 神官たちはのんびりとした笑顔で口々に言った。



 違うんだってば!

 それはエリザが――――!



「レイラ様、大丈夫ですよ。急に聖力を発揮したばかりなので力が落ち着かないだけなのだと思います」


 マーシャは私の手を取り、優しく告げる。


「ち、違うの、私本当に無能で、何もできなくて」


「まあ、レイラ様。いくら何でもそんなにご自分を卑下してはいけませんよ」


 マーシャはそう言って辛そうな顔をしている。



 ち、違うのよ、私だって好きでこんなこと言ってるわけじゃなくて……。



 神官たち一人ひとりに訴えるが、みんな本気にしてくれない。


 うう、何が楽しくて私は自分の無能具合を誇示しなきゃいけないというのよお……。




「まあまあ、レイラ様。少し休憩にしましょう」


 マーシャはぴーちくぱーちくと喚く私を宥めるように、のほほんとした様子で私を泉の間から連れ出したのだった。



 えーん、私は無能だって信じてよお!


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