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20、またすれ違い



 ミラの淹れてくれた紅茶を飲みながら、昨日のエリック様との会話を思い出していた。


 離れていくエリック様の背中を思い出して心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになる。



「レイラお嬢様、大丈夫ですか? さっきから溜め息ばっかり」


 ミラは紅茶のおかわりをカップに注ぎながら、心配そうにこちらを見ている。


「えっ? そんなに溜め息ついてた?」

 やだ、自覚なかったよ。


「……そうだ! 王宮図書館でも行ってきたらどうですか? お嬢様の好きな小説のシリーズに新作が出たみたいですよ!」


 ミラは私を元気づけるように言う。


「うん、そうだね。行ってみる」

 せっかくの気遣いを無駄にしたくなくて従うことにした。

 ミラの言う通り、気分転換でもした方がよさそうだ。



 図書館へ向かうために離宮と宮殿を繋ぐ渡り廊下へ出ると、爽やかな風が吹いてきた。


 その心地よさに思わず目を細める。


 うん、やっぱりミラの言う通り、気分転換に出てきてよかったかも。



 心地よい風と柔らかな日差しを浴びるようにのんびり歩いていると、前方から貴族男性が二人、話しながら歩いてきた。


「やっとまとまりそうだな、ジェニエス侯爵令嬢とロラン公爵の婚約も」


「ああ、エドワード殿下があまり前向きではなかったようだが」


「なんでもいいさ、殿下にはお妃選びに集中してもらわないと」



 大きな声で話しながらすれ違う貴族男性たちの背を思わず目で追ってしまう。


 ジェニエス侯爵令嬢とロラン公爵の婚約がまとまる……?


 いつかの私を脅すヘレナの顔が浮かぶ。

 あんな人と婚約してしまうなんてダメだよ!


 小説のヒロインであるメアリー様と結ばれることが、バッドエンドも回避できるしきっとエリック様が幸せになれる道のはずなんだから。



 そこまで考えて、私はまた心にズキっと痛みが走ったような気分になる。


 エリック様が誰と一緒になっても、私はこんな気持ちになるのを止められないのだろうか。


 ちょっと仲良くなった気がしてるからって、独占欲みたいなものが湧いてるのかな。

 こんな風に思っちゃう私って我儘だよね……。



 自分の感情を扱いかねて、私は振り切るように前を向いて歩き出した。


 すると、壁にもたれかかってこちらを見ているエリック様が目に入った。



 また…………!!



 昨日とまったく同じ光景だ。


 もう〜!なんでこんなにタイミングよく遭遇しちゃうの?!


 どうしよう、さっきの貴族男性の会話も聞こえてたのかな。

 まるでこちらを見透かしているかのような瞳に見つめられて焦りが募る。



「そんなに熱心に見つめて、お前の想い人はあの貴族か?」


 色香の漂う笑みを浮かべながら私に近寄り、揶揄うように言う。


「ち、違います! エリック様の婚約の話がまとまるって噂話をしてたものだからつい気になって、」


 そこまで言って私は思わず目を瞑る。


 しまった!何を言ってるの私は……!



「そうか、俺の婚約がそんなに気になるのか」


 エリック様はなぜか愉快そうな口調で返してくる。


「ジェニエス侯爵令嬢よりも、メアリー様の方がエリック様には相応しいお相手かと思っていただけです」


「お前はこの前も変なことを言ってたな。なんで俺と王女をくっつけようとするんだ? 俺が王女を好きだと勘違いしているのか?」


「だ、だってメアリー様は素敵な女性だから」


 ヘレナなんかと一緒になるよりも何百倍も幸せになれるはずよ!

 

「それで?」

 言いながらエリック様は目の前に立ち塞がり色香の漂う瞳で私を見下ろす。


「そ、それに地位も高いし」


「俺の結婚に地位や肩書きなど関係ない」


「だってその方が家門の力になるわけで、」


「力など既に俺が十分持っている」


「でも、エリック様の身分に見合った地位がないと……」


「たとえ公爵家とは縁遠い子爵家であろうと、俺が好きになった女なら家門など関係ない」


「…………!」



「ジェニエス侯爵が言っているのはただの戯言だ、気にするな。俺にその気は一切ない、」


そこで言葉を区切り、さらにこちらへ近づいてきた。


私は後退りをするものの、すぐに壁に阻まれる。


エリック様は壁に両手をつき、私を囲うように閉じ込めた。



「俺は好きな女以外、目に入らない」

 そう言って私の頬に優しく触れる。

 

 間近で仰ぎ見るエリック様の美しい顔は、真剣そのものだった。


 まるで壊れ物を扱うかのように優しく切ない触れ方に、私の心臓は大きな音を立て始める。



 ダメ、これ以上踏み込んでは。


 私は、自分の心に警告する。

 余計な感情が育たぬうちに、ここから離れなくては。


 そう思った瞬間、私は走り出していた。




――――




 エリックは、風のように走り去るレイラの後ろ姿を眺めていた。



 初めて会った時からそうだった。

 いくら触れても、この腕に抱きしめても、あんなに切ない瞳をしていつでもすぐにすり抜けて行ってしまう。


 (この前だってそうだ……)

 (エドワードから婚約の話を聞いても、ただただ、静かに口を開くのみ)


 (突き放したら少しは心を見せるかと思えば、レイラは立ち去る俺をただ眺めていただけだった)



「なんで……お前はいつもそうやって俺から逃げるんだ……」


 エリックは寂しげに呟きながら、その手に僅かに残ったレイラの柔らかい頬の感触を、いつまでも名残惜しんでいた。


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