4-3.シヴァ
どんどん先に進むシヴァを追いかける。
いったい、どこに向かっているの?って言うか、ここはどこなの?
いや、その前に本当にこの世界何なのさ。
どんなところに行くのかと不安と疑問を抱きながらたどり着いた先は町だった。
「ここは・・・町、かな?」
「ああ。人間界、インド国の中ではまぁまぁ大きい町だ」
「インド国?インドのことよね」
「同じだろ?」
なんかニュアンスが違う気がする。
それに、人間界ってことは、普通の人のいる場所ってことよね。
「じゃぁ、このまま飛行機に乗ったら帰れるかも?」
「ひ・・・こーき?」
「鉄でできた空を飛ぶ大きな鳥みたいな・・・え。知らない?」
「はじめて聞いたぜ?」
「そんな・・・でも、ここはインドなんですよね?」
「ん。少し違うらしいぞ。たしかアグニが次元が違うって言ってたな」
「次元?アグニさんが言ってた?」
「ああ。アグニは人間界と神界の橋渡し役だから他の神より細かいことに詳しいんだ。次元ってのは・・・似てるけど違うことってことだ」
「橋渡し役・・・似てるけどちがう世界?」
たしかインドってIT関係で成長中の国だったはず。
神様といえども飛行機を知らないってありえる?
時間の感覚とかマヒしてそうだから、そもそも人間界に来たのウン百年ぶりみたなことだとあり得るかも。
それを『次元』って表現したとか?
それとも本当に映画みたいに、似たような世界がある別次元ってこと?
隣に立つ、ねこっ毛イケメンのシヴァを見上げる。
マントで隠しているが、その美しい姿や堂々とした大物感は隠しきれていない気がする。
私の身長が155センチだからシヴァの身長は180くらいかな?
日の光の下では黒い髪は光を反射して艶があり、大きな猫のような瞳は輝きを宿した黄色。
肌の色は日本人の健康的な肌の色に近い気がする。
そういえば服装・・・というかマントの下は上半身裸で、下は腰巻のみ。
首に大ぶりの金色の蛇のネックレス、装飾が細かい金色の太い金属性のベルト。
今更だけど、大胆な恰好だ。
半裸の人にお姫様だっこされてたのよね・・・う、今になって恥ずかしくなってきた。
「どうした?」
「へ?! あ、いや!不思議だなぁって!」
「不思議?」
視線に気づいたシヴァに声をかけられて、まさか『見惚れながら、抱き上げられていた時のことを思い出していました』などとは言えないので焦ってごまかした。
「似てるけど違うって・・・実感はないけど、普通こんなことってありえないし」
「ルタの普通って言うのはしらねーけど、今ここで俺と一緒にいるのは確かだろ」
「それ自体も不思議なんだけど」
シヴァは横柄な態度や口調は微妙だけど、見た目はとびきりのイケメンだし、そんな人と今二人で歩いてるなんて・・・
そもそも神様らしいし。
「なんだよ。俺は夢でも幻でもねぇよ」
シヴァはすこしすねた口調になった。
「なんか物語みたい・・・」
「ああ。まぁ俺様が傍にいてやるんだ。そう思っても仕方ないな」
こんどは得意げだ。
ちなみに私が『物語』と感じたのはそこではない、とは言えない。
「怖い、かな・・・」
「こんどは怖いのかよ」
「・・・私のいた世界の方が幻だったんじゃないかって」
「そんなわけあるかよ」
「でも・・・」
「ルタの世界はある。それにここにお前がいるのも事実だ」
分からないことだらけだけど、シヴァの存在が『今、この瞬間』をつないでくれている。
力強いシヴァの瞳に見つめられ、誘われるようにうなずく。
「さ、細かいことはもういいだろ。とにかくまずメシ食おうぜ! 飯!!」
町の中を歩くと、元の世界のインドに似た景色の中で、沢山の人々が生活している。
インドに行ったことないけど、テレビや映画でこんな感じの雰囲気見たことある。
「早くしろよ!」
「わわっ」
立ち止まって辺りをきょろきょろしていると、シヴァが私の手を握り引っ張る。
あわてて足を動かし街の中を進む。
にぎやかな人々の声、たくさんの珍しい雑貨や、おいしそうな食べ物・・・
「おい」
前を進んでいたシヴァが突然立ち止まり、こちらを振り向き、
ズイっと手に持っていたものを渡してきた。
「いつのまに・・・」
スパイシーな香りがする。
鶏肉をナンではさんだものだった。
「嫌いか?」
受け取って食べてみる。
「おいしぃ!!」
刺激的な香りと味。でも辛いわけではない。
出来立てなのか、あたたかくやわらかでおいしかった。
「当たり前だ。俺が気に入ってるんだ。うまいに決まってる。よし! 次だ」
私の言葉に気を良くしたのか、他のおすすめの食べ物屋へ次々と案内していくれる。
「さっきのフルーツも美味しかったぁ」
「あれはジャックフルーツっってやつだ。俺が一番好きなフルーツだ」
「よぉ。また来たか。いつの間にそんなかわいい子見つけたんだ。うらやましいじゃねぇか」
町の青年がシヴァに声をかけてきた。
お世辞でもうれしいじゃないではないか、青年よ。
そして、マントの意味ないじゃん。
「う、うるせぇ!見るんじゃねぇ」
耳まで真っ赤になったシヴァは、あわてて私を背に隠すように立ち言い返す。
「隠さなくてもいいだろ。減るもんじゃねぇしさぁ~」
「ダメだ!!こいつは俺のなんだ!勝手にみるな!!」
お、俺のって・・・
たしか『はじめに俺が見つけた』ってことにこだわっていたから、そういう意味よね。
それに一応守護対象だし、そういう表現も間違いではないかも知れないのだけど、
何だか違うニュアンスに聞こえちゃって…単純に嬉しいとか思ってしまう。
「ちっ!!!」
シヴァは私の手を強引につかみ町の外へ向かって引っ張り走り出す。
後ろに青年の笑い声が聞こえた。
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前を進むシヴァはふてくされた表情をしている。
悩みは何も解決されていないが、美味しいものを食べて新鮮な景色と人に触れて、私の心は少しすっきりしていた。
「・・・ありがとう、シヴァ」
私の言葉に驚いたのか、シヴァが足を止める。
「私を元気づける為に町につれてきてくれたんですよね?」
私がシヴァに尋ねると、再び赤くなるシヴァ。
これから何か用事があるかもしれないが、あの町では楽しく食事をする以外は特に何かをしてる様子はなかった。
「元気・・・出たのかよ」
「はい!」
「そうかよ」
予想は正しかったようだ。
素っ気ない口調ではあったが、表情は柔らかく機嫌は直ったようだった。
その時、町に火の手が上がった。