4-2.シヴァ
―――ゆさ・・・・・・ゆさゆさ・・・・・・ゆさゆさ———
「おい・・・」
―――ゆさゆさ・・・———
「おい!!」
「・・・・・・う・・・・・・ん?」
「起きろって! 出かけるからついて来い」
「へ、ええ?!!!」
揺り動かされて目を開けるとシヴァの顔が目の前にあった。
私が目を覚ましたのを確認すると、シヴァは不機嫌そうに腕を組んでベットのわきに立ちこちらをにらんでいる。
え、私、寝ちゃった?部屋の窓からは月光ではなく、日の光が見えた。
「あ、あの・・・・・・」
「起こしに来た。行かなきゃいけないところがあるんだ。お前と置いていくと守れないだろうが。早く準備をしろ」
言い方(泣)
「・・・・・・わかりました。準備するので…ちょっと待ってて下さい」
「だから待ってるだろ?」
「部屋の外で待っててもらえますか?」
「なんで」
「なんで?」
まぁ、準備と言っても顔を洗うぐらいで着替えるわけじゃないけど・・・・・・
うわぁ、昨日化粧落としてないじゃん。スーツもシワついてるわ。
重い体を起こしながら、ボロボロの自分の姿に気が付いて肩を落とした。
「シ、シヴァ様、何をなさっているのですか!!」
シヴァが開けっ放しにしてたのだろう、開け放たれた扉のところから男性の声がした。
「ククか。使用人のお前がこんなところで何をしてる?」
「シヴァ様をお探ししていたのですよ!!」
「と、とにかく部屋を出て下さい!!」
「俺の屋敷なのになんで俺が出て行かなきゃいけねぇんだよ」
「出て来て下さい!! とにかくこちらへ!!」
声はするが、姿が見えない。
「はぁ・・・・」
ククの必死さが通じたのか、ため息と共にシヴァは扉の方に歩いて行くと、
にゅっと伸びてきた腕にシヴァが引っ張られて部屋の外へ強制的に連れだされた。
「ルタ様申し訳ございませんでした! クローゼットに着替えの服がございます。他にご入用のものがございましたら扉をノックしていただければ伺いますので! ひとまず失礼いたします!」
バンッ―――・・・・・・
細かな金細工が壊れるのではないかと心配になるくらいの勢いで扉が閉まった。
昨日に続き、今日も予想が出来ない一日になりそうだとため息が出た。
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部屋にはバスルーム兼、洗面所スペースもあったので、
顔を洗い、用意されていた青色のワンピースと調節可能な柔らかい素材の靴に着替えた。
お風呂入りたいけど・・・またせちゃ悪いわよね。
鏡台の上には化粧品があり、簡単な化粧もできた。
何かわからないから、少しずつ試しながらだから大変だったけど、
すっぴんで外にでるのは勇気がいるから助かったわぁ。
あれ?なんか、若返っている?いや、肌の艶がいいような?
こんなめちゃくちゃな状況なのに、しっかり眠れたからとか?神界パワーとか?
とりあえず準備を終えて部屋の外に出ると、シヴァが廊下で1人憮然として腕を組んで待っていた。
もしやずっとここで待ってたの?!
「す、すみません! お待たせしました」
「・・・ああ」
私の顔をチラリと見たが、すぐに視線を外しスタスタと歩きだした。
待たせすぎちゃったかな・・・
私はあわててシヴァの後ろを追いかけた。
なんとなく気まずい雰囲気のまま、シヴァの後ろを追いかける。
暫く歩くと、屋敷の中庭と思われる場所にたどり着いた。
色とりどりに咲き乱れる花に囲まれるように池があった。
池の前でシヴァは立ち止まる。
「さっきは・・・わるかったな」
「え?」
「言われたんだよ。ククに」
「何を?」
「女の部屋にむやみに入るなって」
「・・・なるほど」
まぁ、たしかに。と、心の中でつぶやく。
でも『女』扱いというものがピンとこなかったので、気の利いた返事ができない。
「だから怒ってるんだろ?」
「え?」
「・・・ちがうのか?」
ここまで来るのに気まずい雰囲気を感じてはいたが、
シヴァは私が怒っていると思っていたようだ。
「驚きはしましたけど、怒ってはいませんよ」
「・・・ほんとうか?」
「はい」
目を覚ましてたら、ねこっ毛イケメンのドアップだったので、すごく驚きましたよ。
「そうか」
安心したのか、頭をかきながらほっとした表情になるシヴァ。
「今まで女と生活したことがなかったからな・・・気を付ける」
「そうですか・・・ありがとうございます」
なんか別の意味で気まずい。
私も家族以外の男性と生活を共にしたことなんてない。
『女』認識はされていたのか・・・なんか恥ずかしいね。
でも、お姫様だっこも気にしていない感じだったし、人から言われて気が付く程度ってことだよね。
あ、今度は切なくなってきた。
切ない気持ちでうつむいた私に、頭の上から大きな布が突然かぶせられた。
「え?! な、なに?!」
足元まですっぽり隠れてしまうほどの真っ白な布に視界を遮られ、思わず布をとろうともがく。
「布をとるな。そのままじっとしてろ」
シヴァの言葉に手を止めると、布越しにシヴァが私を抱きしめた。
「なっ?!」
驚きで固まる私の身体はまたもやお姫様だっこをされていた。
次の瞬間、一瞬の浮遊感に続いて、水にぶつかる衝撃と水しぶきの音、そして冷たい水を全身に感じた。
ちょっ! どういうこと?! 池に入ったの? い、息が?!
慌てて布越しにシヴァにしがみついた。
「着いたぞ」
声が聞こえたと同時に、水の中にいる感覚から脱出できた。
池に入るなら、一言言ってほしかった・・・
地面に降ろされてお姫様だっこからも解放される。
あわてて布を頭からとると、さきほどまでいた庭の景色とは違い、鬱蒼と木々がしげる森の湖のほとりに立っていた。
「どこ・・・ここ」
私、昨日から何回このセリフ言っているんだろ。ずっと迷子だわ。
「よし。飯を食いに行くぞ」
呆然とする私をよそに、シヴァは歩き出してしまう。
「へっ、あ、まってください!!いったいどうなって・・・」
「早くしろよ」
「服だって濡れて・・・ぬれて・・・ない?」
さっき水の感覚あったよね?!
私は慌てながら全身を確認したが、まったく濡れていない。
「こんなことくらいで濡れるかよ。神だってばれねぇように布かぶっとけ。行くぞ」
いつの間にか、シヴァも同じ布を身に着けていた。
・・・これ、マントになってるんだ。先に言ってくれ(泣)そして、私は神ではない。
もはや何からつっこんでいいのやらわからない状態だが、シヴァは先にどんどん歩いて行ってしまう。
「ま、まって!」
とにかく置いて行かれにないいように、シヴァの後ろを追いかけた。