4-1.シヴァ
———怖すぎ!
真っ先に駆けつけて来てくれたシヴァの手を握ると、力強い腕に引き寄せられた。
「俺に消されたいヤツは来い!!」
片腕で私を抱き、もう片方の手に三叉に分かれた槍を敵に向けてかまえていた。
ヴィシャーチ(食人鬼)達はシヴァに気圧されたのか、
じりじりと後退し、森の奥にへ姿を消していく。
声をかけてきた謎の男もいつの間にか姿を消していた。
敵の姿が見えなくなると、シヴァは私を抱いたまま歩き出した。
「ど、どこに行くんですか?」
「・・・・・・」
まだピリピリした雰囲気をまとっているシヴァを刺激しないように、
おとなしく運ばれながら質問してみたが、スルーだった。
「シヴァ!! 彼女を何処へ連れて行くつもりなのだ」
インドラの言葉にシヴァは足を止める。
「こいつは俺が預かる」
「どうしてそなたは勝手な行動ばかりとるのだ!!」
「お前はいつもうるせぇんだよ! こいつは俺が連れて来たんだ。俺が守るって言ってんだよ!!」
言葉は乱暴だが、嬉しいと思ってしまう。
責任感(?)からだろうから、別に私個人のことを「守る」と言ったわけではないと思うけど、
こんなこと言われたのはじめてなのだから、鼓動が速くなってしまうのは仕方ではないか。
「うるさっ! とにかく大事なことを勝手に決めるなと・・・・・・」
「うーん、いいんじゃないか?」
「ブラフマー殿?! ですが!」
「彼女の面倒を見てくれるって言ってくれてるんだし。僕は構わないと思うけど?」
「面倒…」
ブラフマーさん・・・・・・本音がそれなんですね。
「ん?あはは、ちがうよ。守護ってことだからね」
私の胡乱な表所をを見てブラフマーが言葉を訂正する。
どこまでが本音なんだろ、この人。あ、神様か。
「神界でも、守護が必要になってしまったようだしさ」
「だからこそ、誰がその任を担うかしっかり検討を・・・・・・」
「行くぞ」
「へ?」
インドラがブラフマーに訴えている途中だったが、
シヴァは私をお姫様だっこに抱きなおすとスタスタと歩きだした。
お、お姫様だっこだと?!小脇に抱えられる方か気楽なのですが!
などと言える雰囲気でもなく、身体を固くすることしかできなかった。
「シヴァ!!」
シヴァはどんどん進んで行く。
シヴァごしに後ろを見ると、アグニがインドラをいさめているのが見えた。
私、どうなるんだろう。
1人になるために庭に出たのに、とんだことになった・・・・・・。
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庭を進んでいたはずなのに、いつの間にか薄暗い靄の中を歩いてた。
変わらない景色に不思議に思いながらきょろきょろとしていると、突然シヴァが立ち止まった。
「着いたぜ」
「え?・・・・・・」
歩いている時(抱えられているので私が歩いたわけではないが)には気が付かなかったが、目の前に大きな門が現れていた。
靄が徐々に晴れ、門の奥に大きな屋敷も見えてきた。
「いつのまに・・・・・・」
「外から見えねぇように、屋敷には結界がはってある」
「神世界の中でさらに結界を?」
「・・・・・・まぁな」
意味深すぎる。でもなんか突っ込んで聞いてはいけない気がする。
スルースキルはどんな世界でも大事だと思う。
大きく重厚な黒い石造りの門。
白い石造りの屋敷。
モノクロの屋敷はなんとなく近寄りがたい雰囲気がする。
皆と話していたホールはアラビア風?だったが、こちらはヨーロッパ建築のお城の様だ。
もう少し屋敷を眺めていたかったが、シヴァが再び歩き出した。
門をくぐり屋敷の中へ進んでいくと、内装は思っていたより明るく、デザインはシンプルで好感を持てた。
屋敷中に入ってもシヴァはどんどん奥へと進んで行く。
何処まで行くのだろう・・・・・・と、思った矢先、再びシヴァが突然立ち止まった。
目の前に細かな金細工の施された美しい大きな扉があった。
「この部屋を使え。部屋のものは自由に使っていい」
シヴァはそういいながら扉の前で私を降ろす。
貴重なお姫様だっこ体験だったが、緊張で身体がこわばって疲れた。
シヴァは扉を開き、私を部屋の中へ促す。
部屋の中は屋敷内と同じくシンプルなデザインだが、白を基調に清潔感のある部屋だった。
大きな窓からは月明かりが差し込んでいる。
「・・・・・・きれい」
「まぁな」
私が思わずこぼした言葉にシヴァは自慢げに満足そうな笑みをうかべた。
・・・・・・可愛い。
ずっとムスっとしていた表情が一転して笑顔になったせいか、とても魅力的に見えた。
まぁ、整った顔に闇の中で輝く瞳を持つねこっ毛イケメンなのだから、そりゃ魅力的ですよね。
荒々しい言動のわりに、このシンプルで美しい屋敷の主というのがなんだか不思議。
なんだか、ずっと見ていたくなるような魅力があるな・・・・・・
「・・・・・・なんだよ」
「!! あ、いや、なんでもないです」
シヴァの顔を見過ぎたようだ。
「すてきな部屋をありがとうございます」
「ああ」
誤魔化すように礼を伝えると、シヴァは顔をそむけた。
あ、耳が赤い・・・・・・・照れてる、だと。可愛すぎるでしょ。
「えーっと・・・・・・シヴァ様?」
「様なんてつけんな。シヴァだ」
「でも、神様?ですし」
「この神界にいるヤツはほとんどが神なんだよ。堅苦しいのは嫌いなんだ」
「・・・・・・シヴァさん」
「シヴァだ」
「・・・・・・シヴァ、さん」
「・・・・・・」
呼び捨てに慣れていないので、「さん」を付けたい意思をそれとなく主張したがにらまれてしまった。
「シヴァ」
「ふんっ」
せっかくのかわいい笑顔だったのに、ご機嫌斜めになってしまった。
「この部屋は強い魔除けが施してある。安心して寝ろ」
そう言うと、さっさと私を1人部屋に残し外へ出て行ってしまった。
「あちゃー・・・・・・主張などせず、素直に呼び捨てにすればよかったか」
シヴァが出て行った扉をみながら反省。
部屋に1人になった部屋はとても静かだった。
椅子とテーブルはあるが、柔らかそうなベットに腰を掛けた。
今日一日振り替えりたいところだが、疲れすぎて思考がまとまらない。
仕事から帰る途中で川に落ちて、炎に包まれた村でシヴァに助けられた。
神様たちと会って、私が『救いの天女』だとかで、『祈りの力』があるからこの世界を救ってほしいって。
それに襲ってきたピシャーチとかいう食人鬼。
「あはは・・・・・・もうわけわかんないや。今更夢ってわけじゃないし・・・・・・いや、夢落ちもまだ可能性あるかも」
ボスっとベットに倒れこむと、疲労感と共に眠気が襲ってくる。
「そういば、サラさんがお茶用意してくれるって言ってたっけ・・・・・・・いろいろ・・・・・・きか、なきゃ・・・・・・」
私はいつの間にか眠りについていた。