第1片 Stuffs Stone⑥―事件―
俺たちの目に飛び込んできたのは、
真っ赤に染った店内と、バラバラに身体を引き裂かれたマスターの姿だった。
「な、なんだよこれ!!」
「ウプッ……、オェェェ……!」
頭が追いつかない。
なんで?なんでマスターがバラバラに!?
「け、警察に連絡しないと!!」
ポケットから携帯を取り出そうとするが、手が震えて上手く取り出せない。
「く、クソッ……!!」
携帯がポケットから飛び出し、地面の血溜まりに落ちてしまう。
「う……うぅ……。」
千尋はあまりのショックに吐き出してしまっている。
俺は血溜まりから携帯を持ち上げ、警察へと連絡する。
耳に血がつき、気持ち悪いがそんなこと言ってられない。
「じ、事件です……!喫茶店でバラバラ殺人が起きてます!!」
俺は電話を終えて、千尋を抱きしめる。
千尋は小刻みに震えていて、強く抱きしめて置かないと消えてしまいそうだった。
「だ、大丈夫……、大丈夫だから……!」
目の前の現実離れした現状に吸い込まれないよう、
目を瞑って抱き合いただお互いの存在を確かめあっていた。
俺たちの暗闇の世界は突如、警察の声によって崩壊した。
「警察です!大丈夫ですか!?」
入口には、ドラマでしか見たことないような数の警察官が駆けつけていた。
「君が通報してくれた子だね。」
「は、はい……。」
「もう大丈夫だから。」
その言葉に安堵して、俺は全身の力が抜けてしまった。
「おい麦倉!この子達の保護してくれ。」
「はーい。」
警察官は後ろを振り向き、スーツ姿の女性に声を掛けた。
俺が座り込んでいるからか、近寄ってきた女性がとても大きく見えた。
「僕、立てるかな?」
「は、はい。でもまず千尋を!」
「大丈夫だよ。見た感じ女の子は一応病院行っとこうね。」
女性は俺に手を差し伸べ、起き上がらせると奥のテーブル席へと導いてくれた。
千尋は違う女性警官に喫茶店の外へと優しく連れていかれた。
「千尋は大丈夫なんですか?」
「うん。大丈夫だよ。ちょっとショックが大きかったみたいだけどさ。」
女性は優しく微笑んだ。
まるで子供を相手にしているかのようだ。
「僕、少し話せるかな?」
「は、はい。あと俺は卜部です。」
「あ、そうだね!ごめんごめん。お姉さんつい子供扱いしちゃった。高校生かな?」
「はい。そうです。」
そこで目撃した時の事や、何か変わったことがなかったかなどいくつか質問を受けた。
話をしていて気づいたが、俺が座り込んでいたから大きく見えたのではなく、実際に身長が高い。
でもスラッとしているので、威圧感は感じない。
「なるほどねー。メェ太郎くんが欲しくて来たんだね……。
そうだ!喉渇かない?ちょっと水取ってくるよ。」
「え?」
そういうと女性は、殺人現場のカウンターにちょこちょこと出向き、コップに水を入れ出した。
「おい麦倉!てめぇなにやってんだ!!」
「だって喉乾いたからー。」
「馬鹿か!!てめぇは!!現場保存だろうが!」
な、なんなんだこの人……?
「ごめんねー。怒られちった。」
彼女は席に戻りながら満点のテヘペロを見せてきた。
俺を安心させるためにワザとおどけて見せたのか、それともこれがこの人の素なのか?
この人になら話しても大丈夫かもしれない。
「麦倉さん。ちょっと気になってることがあるんですけど。」
「んー?なに?お姉さんになんでも聞いてみなー。」
「これって例の連続バラバラ殺人ですよね?」
俺の言葉を聞いて、彼女は表情を一変させた。
「なんで、知ってるの?」
「!?」
先程の子供のような笑顔は消え、一気に大人の顔へと変貌した。
「どうしてそれを君が知っているの?」
「い、いえそれはその、ここのマスターが話していたから!」
「なるほどね……。」
彼女は俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。
そして、顔をゆっくり伏せ腕を組む。
やっぱり話すのは不味かったか……?
彼女の表情が見えず、ただならぬ空気が二人の間で流れる。
しかし、その空気は以外にも彼女の一言で一瞬にして崩壊する。
「実はお姉さん、この店の常連なんだよね!」
「へ……?」
「いやー、マスターには絶対言っちゃダメだよって言ってたのになー。」
「はへ……?」
「操作情報を流したとなると汚職刑事になっちゃうよー。卜部君、この事は2人だけの秘密だよ。」
「は、はい。」
そういう事だったのか。
てっきりマスターが犯人だと疑っていた。
麦倉さんがマスターに情報を漏らしていただけだったのか。
でも、この人なら他にも色々と聞けそうだ。
「もしかして、昨日もバラバラ殺人事件があったんじゃないですか?」
「おぉ、卜部君グイグイくるねー。まぁそうだよ。なんだっけ?バーチャル配信者?みたいな人。」
やっぱりそうだったのか。
メェメェちゃんはこの一連の事件に巻き込まれたんだ。
野々宮になんて伝えたらいいだろうか……。
「ここんとこ毎日でさー。お姉さん疲れちゃったよ。
現場もバラバラで犯人の足取りも掴めてないのよ。」
「そうなんですか……。」
毎日どこかでバラバラ殺人事件が起きている。
普段ニュースなんて気にしていなかったが、この状況は異常だろう。
「おい!麦倉!ちょっとこっち手伝え!」
「はいなー。呼ばれちゃった。卜部君もう大丈夫そう?」
「はい。もう大丈夫です。ありがとうございました。」
「それじゃ気をつけて帰るんだよー。」
こうして俺は喫茶店を出て、家に帰ることにした。
家に帰ると母親が心配そうに出迎えてくれた。
警察から連絡があったようだ。
そして、母親から衝撃の事実を知らされた。
「千尋ちゃん、入院するって!」
「え……?」