贋作鍛冶師の幸せな日常 ~宮廷鍛冶師だった俺を追放した奴らが困っているようだが、もう遅い。俺は隣国で幸せに暮らしています~
「フェイク、貴様を宮廷から追放する」
鍛冶長からそう宣言をされ、俺は酷く驚いた。
俺たちは宮廷に雇われている宮廷鍛冶師だ。
質の良い武器を定期的に納品するというのが主な仕事となっている。
つまりまあ、宮廷からの追放ということは、鍛冶師の資格取り消しということである。
「……ど、どういうことだよ?」
「どういうことも何も……貴様は偽物ばかりを作るからな」
彼が鼻で笑い飛ばすようにそう言ってきた。その心底見下すような目に、苛立ちが生まれた。
「に、偽物って……確かに俺は有名な鍛冶師の贋作を作っているが……それの何が悪いんだよ? 性能面に関して言えば、ほとんどホンモノと変わらないだろう!?」
「貴様のその考え方が気に食わないんだ! 鍛冶師ならば、誇りを持たないか!? なぜ自分のオリジナルの武器を作らぬ!?」
「俺はただ、あこがれの鍛冶師に近づきたいだけなんだよ! 自分のオリジナルの剣を作りたいんじゃなくて、憧れの鍛冶師の武器を再現するために鍛冶師になったんだよ!」
多くの鍛冶師は、なぜか『自分だけの武器』を作りたがる。自分の銘をつけ、世界最高の一品物を作り上げるために日々槌をふるっている。
俺は彼らとは違い、『過去の鍛冶師』への憧れから槌を握ったのだ。
過去の鍛冶師たちが作った武器を、再現したい――。
しかし、どうやら俺の考え方は異端なようなのだ。
「ふんっ! やはりお前には誇りがない! よって、宮廷を追放する!」
「……本気で、言っているのかよ?」
「ああ、そうじゃよ。この宮廷に誇りを持たぬものは必要ない! 貴様はこの国内で一切の鍛冶行為を禁止する! さっさと資格を置いて出ていけ!」
にやり、と笑った鍛冶長に俺はいらだちを覚えた。
しかし……鍛冶長の言葉は絶対だ。逆らうわけにはいかない。
鍛冶長は王城の人間たちとも深い関係がある。下手をすれば、俺を死刑にすることだってできるのだ。
「分かったよ……今まで世話になったな」
俺は宮廷所属の資格を机に叩きつけ、鍛冶長の部屋を後にした。
去り際の、鍛冶長の勝ち誇った顔に滅茶苦茶腹が立った。
……俺を追放して、どうするつもりなんだ?
うちの宮廷に今残っている面々は、大した技術がない。
国は優秀な騎士に支給するための一定以上の質の武器を提出してほしいと月一程度で頼んでくるのだが……それを用意できるんだろうな?
俺の作品を鍛冶長は否定するが、これまで国を納得させるような納品を行っていたのはほとんど俺だぞ?
これから、一体どうするつもりなんだか……。
まあ、俺の知ったことではないか。
この国に居場所がないのなら、別の国で生きるだけだ。
◆
『鍛冶長モルガン視点』
私は鍛冶長のモルガンだ。
私は今、宮廷鍛冶師たちとともにディナーを楽しんでいた。
「モルガン様、ようやくあの贋作師を追放することが出来たのですね」
「ああ、そうじゃ。これでようやく鍛冶師の誇りが守られるというものじゃな」
「ええ、そうですね。あんな贋作を作って満足しているような輩は、鍛冶師ではありませんから」
「そうだそうだ」と宮廷鍛冶師たちが声を揃えて叫ぶ。
やはり、鍛冶師というのは誇りを持ってこそだ。
あのフェイクという男は、その誇りが欠けていた。
「そもそも奴は鍛冶というものを理解していなかったな」
「そうそう。誰だって、偉大な鍛冶師様たちの贋作を作ればよいものが出来るに決まっている!」
「それをあのフェイクという男は、自分の実力と勘違いしていたんだ。追放されて当然だ!」
ああ気持ちいい……! 皆と意見が一致したことに、私は嬉しさが込みあげていた。
そうなのだ。フェイクは決して実力があるわけではない。
彼の作ったものはすべて贋作だ。本物のコピーをして作ったのだから、一定以上の作品が出来上がるのは当然だ。
そう、私が彼に劣っているはずがないのだ!
実を言うと、先日私が作った剣とフェイクが作った剣を騎士団に持って行ったのだ。
……その時、騎士団の人々はフェイクの作った贋作剣の方がいいとそっちを選びやがったのだ!
皆、口をそろえてフェイクの剣の方が出来が良いと言っていたが、そんなはずはない!
ここにいる者たちが言っているように奴は完璧な鍛冶師の贋作を作ったのだ! だからこそ、一定以上の質があるのは当然だ。
しかし、そこに誇りはない。彼らの剣には心がこもっていないのだから、私のものよりも優れているはずがないんだ。
それを、騎士たちは理解できず、見た目だけは良いフェイクの剣を選んだに過ぎないのだ。
ああ、思い出したらむしゃくしゃしてきた……。
まあ、良い。今後、フェイクは二度と鍛冶を行うことなどできないのだ!
「モルガン様のおかげで、あの心のこもっていない贋作を見ることがなくなって清々しますよ」
「そうですよ。奴の剣は見た目だけは贋作ですからいいですが、心、がこもっていませんからね」
「なのに、騎士たちは見た目に騙されてフェイクの剣を選ぶんですから。まったく、確かな目を持たない人たちは困りますよ」
「そうだな! 私も先日――」
そうして、その日の夜会はフェイク追放の一件で大いに盛り上がった。
そして、一ヵ月後。
私のもとに一人の騎士がやってきて、手紙を残していった。
その内容を見て、目を見開くことになる。
『モルガン殿へ。今回納品された剣はどれも以前のものよりも質がかなり落ちています。至急、前回作ってくださった鍛冶師の方に依頼をお願いします』
前回作った鍛冶師とは……フェイクだった。
◆
『フェイク視点』
宮廷を追放されて一ヵ月ほどが過ぎた。
別の国に移動した俺は、贋作師として仕事をしていた。
決して、褒められるものではないし、鍛冶師ではない、と同業者から言われた。
しかし、それでも構わない。
俺が知っている範囲で、過去の有名な鍛冶師の贋作を作っては冒険者に売りつけていたのだが――。
その日、俺の鍛冶工房に来たのは一人の騎士様だった。
「そういうわけで、この剣と同じものを作れないかな?」
目の前にいるのはさわやかなイケメンだ。
この街では大人気の騎士様だ。彼が持ってきた剣は、国宝ともいわれるフェルドカリバーだ。
『フェルド』という鍛冶師が作ったとされるフェルドカリバーを鞘から抜いた。
「……さすが、伝説の鍛冶師と言われるだけはあるな」
「そうなんだよ。同じものを、あるいはこれに近い剣を作ってもらうことは可能かな?」
にこり、と微笑んだ騎士様に、俺は頬を引きつって返す。
さすがの贋作師である俺だが、これの贋作を作ってくれと言われるとは思っていなかったな。
「努力はしよう」
「そうかい? それじゃあ、期待しているよ」
彼に剣を渡してから、俺は『フェルドソード』の贋作を作るための準備を始めた。
今回俺は、『フェルド』という鍛冶師の贋作を作る。そのために、俺は一時的に『フェルド』になりきる必要がある。
贋作を作るうえで、技術だけではなく思考なども彼へと寄せていく。
まずは槌からだな……。
フェルドは、今より300年前に亡くなった人だ。
俺は新たに自分用の小槌を作り始めた。当時主に使われていた槌……そこからフェルドがどのようなものを使っていたかについて考えていく。
完璧な贋作を作る上では、道具から拘る必要がある。
槌の材質から合わせなければ、必ずどこかで歪みが生じる。それらが積み重なっていったとき、ただの贋作になってしまう。
それから俺は一か月ほどかけ、道具、鍛冶工房を『フェルド』が使っていたと思われる状況にまで似せた。
それと同時に、フェルドの生い立ちやその一生についての研究も怠ってはいなかった。
鍛冶工房内の道具へと視線を向ける。
鍛冶には欠かせない、火床、炉、金床などなど……それらすべての道具を当時の年代を、そしてフェルドが使っていたと思われるものをすべて準備していた。
ここまでしなければ、ただの贋作しか作ることができない。
贋作に必要なのは、本物以上の偽物を作るという心構えだ。
道具はあくまで準備にすぎない。
こんなもの、鍛冶師オタクならば誰でも出来る。
――問題はここから。
昔の、それこそ魔法が認知されていなかった時代の鍛冶師たちは、すべてを自力で行い武器を作りあげていた。
しかし、現代は違う。
現代では、例えば剣の材料の魔鉱石を溶かすのに、魔力を使う。
自分の手から魔力を流し、対象物を焼くのだ。
やり方は簡単で剣を握り、火属性の魔力を流すだけだ。俺の手から熱が伝わり、それによって魔鉱石が溶ける。
そして冷やすときは、同じく水属性の魔力を流す。風が必要な場合は魔法で送り込むことになる。
……問題はこれらだ。
魔力は人によって性質が違う。ある程度、訓練をすることでその性質を変化させることは可能なのだが……この適応に時間がかかる。
これの攻略法は……何度もやる。それだけだ。
俺が今回選んだ『フェルド』の魔力の性質は、彼が作って残した剣ですでに理解はしていた。
……ただ、そう簡単に適応できるわけはない。最低でも一ヵ月、長ければそれ以上の時間がかかる。
実際に魔鉱石を使い、俺は何度も何度も自身の技術を『フェルド』へと近づけていく。
彼が『フェルドカリバー』を作ったのは、61歳の時とされている。その時の、彼の心理的な状況を自分の身に宿していく。
鍛冶師フェルド。
彼は50から60歳までの間、一切武器の販売をしていなかった。
初めは引退したと思われていた。
しかし、それは違う。
実は、この期間に鍛冶の業界では大きな事件があったのだ。
新たな魔鉱石が発見されたことだ。
武器には魔鉱石を用いているのだが、なんとフェルドが50歳になったとき、新たにエイレア魔鉱石というものが発見された。
今では上位魔鉱石の一つとして加工技術までも確立されているものだったが、当時発見されたときはその加工の難しさからすぐに鍛冶の素材として使われることはなかった。
フェルドは発見されてからの10年間、何の武器も売っていなかった。
恐らく、この10年で加工について研究を重ねたのだろう。
『フェルドカリバー』は彼が61歳のときにエイレア魔鉱石を用いて作られた。
フェルドがエイレア魔鉱石を加工するまでに苦心したその10年間を自分自身のことのように考える。
俺が50歳から10年間かけて悩んだフェルド自身になったと思い、ひたすらにエイレア魔鉱石を溶かし、それにハンマーを叩きつけ、魔力を流し込み、熱し、冷やしの作業を繰り返していく。
フェルドカリバーを思い浮かべながら、槌を振りぬいていく。
自分自身の魔力を適応させていく。
細く伸びたエイレア魔鉱石へと魔力を注ぎ、それを溶かして形を整える。そうして、冷やし、再び熱してを繰り返していく。
――そうして俺の贋作は本物へと近づいていく。
そして、さらに一ヵ月が過ぎた。
俺は出来上がったフェルドカリバーを鞘から抜いた。フェルドは鞘までも自作するような人だったので、いつもよりも時間がかかってしまったな。
俺のフェルドカリバーを見た騎士様は、それを握りしめにこりと微笑んだ。
透き通るような剣身。鞘から抜いたときの金属音。
すべてが騎士様の持っているフェルドカリバーと遜色ない。
剣に込められた魔力でさえ、フェルドとまったく同じものだった。
俺のフェルドカリバーを軽く振った騎士様は、目を見開き驚愕に顔を染めていた。
騎士様が連れてきた鑑定士という男も目を見開いている。
「鑑定士……魔力構成はどうなっている?」
「……お、同じです。フェルド様が作ったフェルドカリバーと、フェイク様が作ったフェルドカリバー……どちらも剣内に満ちる魔力がすべてまったく同じです。配分も、多少の魔力の歪みも……何もかも……! こ、これはもう贋作ではありません! 世界で二本目のフェルドカリバーです!! この剣が偽物だなんて誰にも見破れませんよ!!」
鑑定士の声に、俺は思わずにやりと笑ってしまう。
基本感情は表に出さないようにしているのだが、この鑑定士に『本物』と判定される瞬間だけはついつい口元が緩んでしまう。
騎士様は数度剣を振ってから、鞘へとしまい……微笑んだ。
「――素晴らしい。これは、まぎれもない……本物だよ」
「そうか。悪いな時間がかかってしまって」
「……いや、むしろ三カ月ほどでこれほどの物を作りあげるとは思っていなかったよ」
「そうかい。報酬の支払いを頼む」
「ああ、2000万ゴールドだったね? しかし、それだけでいいのかい?」
2000万ゴールドは平民であれば五年ほどは暮らせる金額だ。
「十分大金だ」
「大金ではあるだろうさ。けれど、国宝級の剣を作り上げた報酬として見るには安すぎる気がするが……」
「途中、色々と資金の援助も受けたし……俺は別に最低限の生活さえできれば構わないからな。最初に決めた金額でやり取りをした方が後腐れないだろう?」
俺がそういうと、騎士様は驚いたように目を見開いた後、にこりと微笑んだ。
「この剣に恥じぬよう、これからも騎士として精進しようと思う」
「ああ、頑張ってくれ」
「そして、キミのことは偉く気に入った!」
騎士様が肩を組むように抱き着いてくる。
「ちけぇよ! 男に抱きつかれても嬉しくない!」
「はは、いいだろう! 軽いスキンシップではないか!」
俺が騎士様を突き飛ばすように力を入れると、彼は笑いながらアイテムボックスをこちらに渡してきた。
……まったく。
アイテムボックスの中身を確認すると、確かに2000万ゴールドが入っていた。
「それでは、ありがとう。アイテムボックスもプレゼントするよ」
「……サンキューな」
「それじゃあ、また遊びに来るよ!」
「来なくてもいいけどな」
「寂しいことを言わないでくれ。僕と対等に話してくれる人は中々いないんだ」
ウィンクを残し、去っていた騎士様。
……騒がしい奴だったな。
静かになった部屋で俺は先ほどの光景を思い出す。
思い出すのは、贋作が本物と認定された瞬間だ。
口元が緩む。鑑定士でさえ偽物かどうか判断できない、それほどの贋作を作れた瞬間が俺にとって最高に幸せなのだ。
さて、とりあえず……廃棄前提の不必要なフェルドカリバーたちを捌きに行こうか。
これらはフェルドカリバーを名乗るにはあまりにもお粗末な剣たちだ。
近くの冒険者ギルドにでも引き取ってもらえばいいだろう。日銭くらいにはなるだろうと思い、俺は二本の剣を持って街へと出た。
街を歩いていると向かいから、一人の少女が歩いてきた。
がっくりと肩を落としている様子から、落ち込んでいるのが分かった。
黄色の汚れた髪を揺らしながらとぼとぼとこちらに歩いてくる。
……少し気になった俺が首を傾げる。
「……どうした?」
「え?」
いきなり俺のような男に声をかけられては驚くか。
しかし、少女はすぐにしょんぼりとした顔で言った。
「剣……買えなくて」
少女は10歳半ばくらいだろうか? 彼女は買えなかったというのを証明するように、小銭を持った右手を見せてきた。
……さすがにそれでは買えないだろうな。良くてパンが一つ買えるくらいだ。
「剣が欲しいのか? どうしてだ?」
「住む場所がなくて……冒険者になればお金を稼げると思って……」
……彼女のボロボロの服装から見て、家を追い出されたのかあるいはスラム暮らしとかなんだろうな。
その時、先ほどの出来損ないの剣を思い出す。
彼女に渡して何が変わるか分からないが、どうせ俺が持っていてもな。
売れば一日の生活費くらいにはなるんじゃないだろうか? この剣は腐っても、エイレア魔鉱石を使って作ったからな。
「なるほどな。それなら、この剣でもあげようか?」
どうせ処分する予定だった贋作の剣たちを彼女に渡す。
フェルドカリバーほどではないが、まあ使い道はあるだろう。
「欲しい! いいの!?」
「ああ、いいよ」
受け取った少女は嬉しそうに剣を抱きかかえる。
「わぁ! ありがと! これ、お兄さんが作ったの!?」
「そうだな。鍛冶が趣味みたいなものなんだよ」
どうせ日銭程度にしかならない剣だ。
……これだけ喜んでくれるのなら、彼女に渡して正解だったな。
「鞘はサイズが合っていないから、金が手に入ったらどこかで作ってもらうといい」
練習用に作った鞘だからな。
「うん! ありがとね! それじゃあ、お代として受け取ってよ!」
少女はすっと握っていた全財産と思われるお金を差し出してきた。受け取り拒否も考えたが、少女がぐいっと差し出してきたので俺は受け取った。
「ありがとな」
「それだけじゃきっと足りないから……あっ、そうだ! もう一つ報酬を用意してあげる!」
「なんだ?」
「お兄さんしゃがんで!」
言われた通り膝をつく。すると、少女は俺の頬へとキスをしてきた。
「えへへー、有名な冒険者になったらお兄さんのこと迎えに来てあげる! それで、結婚してあげる!」
「へいへい」
明るく前向きな少女だ。所詮子どもの約束事だ。俺は笑い飛ばすような調子で返した。
「お兄さん、名前はなんて言うの!?」
「フェイクだ」
「そうなんだ! フェイクお兄さんだね! よろしく!」
「ああ、よろしくな」
とりあえず、剣の処分は出来た。
しばらく休憩したらまた贋作師としての仕事を開始しようかね。
◆
それから一年程かけ、別の鍛冶師の贋作を作りあげた俺が、工房の処理を行っていると異変に気付いた。
周囲の様子がおかしい。外を見てみると、工房の周りが騎士に囲まれていた。
……一体何事だ?
俺は警戒しながら工房の外を眺めていた。
すると、工房の方へと一人の綺麗な女性がすたすたと歩いてくるのが見えた。
すらりと背の伸びた綺麗な女性。彼女は俺の工房の入り口をノックしてきた。
……どうする? 逃げるか?
これでも、旅をしているし冒険者としても活動しているため、体はかなり鍛えている。逃げるのは得意であるが……。
どうするか迷った俺は……とりあえず玄関を開けた。
玄関を開けると、美しい金色の髪を揺らす女性がこちらを見てきた。歳は……十代後半くらいだろうか? たぶん、俺と同い年くらいの子だ。
凛々しい顔つきの彼女は、じっと俺の顔を見た次の瞬間だった。
嬉しそうな、人懐っこい笑みを浮かべたのだ。それは、どこかで見覚えがあった。
「天才鍛冶師のフェイクお兄さんだよね!?」
その声で、俺は古い記憶が呼び起こされたのが分かった。
一年前。一人の少女に渡した剣を見やる。今も彼女はその二本を腰に下げたままだった。
まさか、まさか――!!
「えへへー、お兄さん。私勇者って呼ばれるくらい大活躍しちゃった! お兄さんのこと、迎えに来てあげたよ!」
「……ちょ、ちょっと待てどういうこ――」
「もう結婚するって約束したよね? ダーリン!」
「いや、おまえまだあの時10歳くらいじゃ……?」
「あのとき14歳だよ! それで、冒険者始めて栄養のつくもの食べ始めたら、なんか滅茶苦茶成長しちゃった!」
体を見せつけるようにポーズをとった彼女に、頬が引きつる。
あ、ありえない!
あの時の少女ですって言われても鑑定士が贋作認定するレベルの成長だぞ!?
「結婚しようよフェイクお兄さん!」
笑顔で叫んだ勇者様に、俺は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。
面白かったという方は、
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別の短編になります。↓
世界最高の精霊術師 ~双子だからと虐げられていた私は、実は世界最高の精霊術師の才能を持っていたようです。私を追放した家が今さら戻ってきてほしいと言っていますがもう遅いです~
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